第2話 嘘のような真実2

「千紗乃、同じクラスに灯織君っているだろ。お前、その子の許嫁になったから」


 早起きがあまり得意ではない私は目を擦りながら自分の部屋を出た。

 そして一階に降りリビングに入った途端パパから伝えられた衝撃の事実。


 許嫁なんて制度が未だにこの世の中に存在しているのかどうかすら怪しく、私が同じクラスの本庄君の許嫁になったという話は到底信じられる物ではなかった。


 仮にその話が本当だとしても、本庄君の許嫁になるなんて話は絶対に拒否するだろう。


 なぜかって?

 

 本庄君は白虹高校の生徒の中で、一番地味で存在感が薄いと言われているのだから。






 今朝伝えられた事実を飲み込み切れずに一日の授業を終えてしまった。


 本庄君の許嫁になったと伝えられてから、流石にその話は嘘だろうと思った私はパパに何度もその話が本当なのか確認した。

 しかし、絶対に嘘だとは言わなかったし、パパは嘘が嫌いで普段から絶対に嘘をつかない人なので、恐らく本当の話なのだろう。


 とにかく、一言本庄君に文句を言ってやらないと気が済まない。


 なんで私みたいな可愛くて性格もいい人気者が、親の都合で本庄君みたいな地味で影の薄い男の子と結婚しないといけないのよ。


 どうしても文句を言ってやりたかった私は放課後、人目に付かないよう帰宅中の本庄君に声をかけた。

 

「ねぇちょっと。あなた、本庄君よね」


 私が声をかけると、可も不可も無い薄い顔と生気の無い目がこちらを向く。


 改めて本庄君の顔を見た私は、やはりこの人とは結婚できないと再認識した。


「私、あんたと結婚なんてしないから」


 本当はもっと色々と言ってやりたかったが、本庄君自身に非は無いので、一言文句を言うだけにしておいた。


「詳しい話は聞かされてないんだけど、なんで僕たち結婚することになったんだ?」

「そんなことも聞いてないの? あなたの父親が私の父親の働く会社の社長をしているらしくてね。私の父親と本庄君の父親は昔から仲が良かったみたいなんだけど、本庄君の父親が息子の結婚相手を心配していたからって私を紹介したらしいわ。ほんっとくだらないわよ。親の勝手な都合で結婚相手なんて決められて」


 本当に迷惑だ。


 本庄君の他に好きな人がいるというわけではないが、結婚するなら親に決められた人ではなく、自分で決めた人と結婚したい。


 でもきっと、私くらい可愛い女の子と結婚できるって話が舞い込んできたら、本庄君が断るわけがない。


「別にいいぞ。結婚なんてしなくて」


 そうよ、首を垂れて私と結婚したいって……。


「……え? 私と結婚したくないの?」


 本庄君の口から飛び出した予想外の言葉に思わず口を開けた。


「そりゃあんまり会話したことないとはいえ神凪くらい可愛い女子となら結婚したいって思うけどな。でも神凪が嫌がってるなら無理して結婚しようとも思わないよ。とはいえ親が納得するとは思えないし

とりあえずは親にバレないように協力するよ」

「そ、それはありがたいんだけど、え? なんか私が思ってた反応と違うんだけど?」

「意外とこれが普通なんじゃないか? ま、今後はいい距離感保ちながら付き合ってるフリでもしとけばいいだろ。それじゃ」

「え、え? ちょっと本庄君? 本庄君⁉︎」


 そう言いながら帰宅していく本庄君を見ながら、私は呆然と立ち尽くしていた。


 え、というか今最後とんでもないこと言い残していったわよね? 私と本庄君が恋人のフリ?


 私からすれば親の決めたことに反発するのも面倒くさいし、協力してくれるのはありがたいけど。


 なんで本庄君は私と結婚したいと思わないの?


 あれだけ地味で影の薄い本庄君が、私みたいな可愛くて人気のある女子生徒と付き合えるチャンスなんてそうそう訪れる物ではない。


 ……そういえば「神凪が嫌がってるなら無理して結婚しようとも思わない」って言ってたわね。


 今まで何人もの男子に告白されてきた私だが、告白してきた人の中には付き合うことを強要してきた人もいた。

 

 好きな人のことになると周りが見えなくなる気持ちは分からなくもないが、だからといってその男子と付き合おうとはならない。


 そんな男子がいっぱいいるというのに、本庄君は自分の得ではなく、私が損することを考えて私とは結婚しないと言ってくれた。


 ……え、もしかして本庄君ってめっちゃいい人?

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