同じ高校に通うS級美少女が親の都合で許嫁になったが、可哀想なので親にバレないよう距離を置こうとしたらめちゃくちゃ好かれた
穂村大樹(ほむら だいじゅ)
第1章
めちゃくちゃ好き
第1話 嘘のような真実1
「
眩しい朝日に思わず瞼をギュッと閉じ、二度寝をしてやろうかと考えながらも学校に遅刻してしまうからと気怠そうにベッドから起き上がる。
そして部屋を出て階段を降り、リビングに入ると父親から唐突に伝えられた衝撃の事実。
嘘をつくにはあまりにも現実味の無い話で到底信じられる内容ではない。
自分が父さんの立場ならもう少しまともな嘘をついただろう。
「はいはい。分かった分かった」
「今度のは本当なんだって〜信じてくれよ〜」
「信じられるわけないだろ」
父さんは日常的に僕を驚かすために嘘をついており、これまで幾度となく騙された……ことはない。
嘘の内容があまりにも嘘っぽいのでそれが嘘だとすぐに気付いてしまうからだ。
僕を楽しませるためにと思ってくれているのは素直に嬉しい。
しかし、嘘をつくならもっとまともな嘘をついてほしいし、仮に今後嘘をつかれたとしてもオオカミ少年と同じく僕が父さんのことを信用することはないだろう。
今回だって許嫁ができたと嘘をつきたいのであれば、まず一番初めに避けるべき生徒が
なぜなら千紗乃は僕たちが通う
放課後、校門を出て自宅へと歩き出した僕は、やっぱりな、とため息をつく。
今朝父さんから神凪が僕の許嫁になったと言われてはいはい分かったと適当にあしらったが、やはり僕の行動は正しかったようだ。
その証拠に、僕は今日神凪から一度たりとも声をかけられていない。
父さんの発言が嘘でないのであれば学校にいる間に神凪から一言くらい声をかけられるはずだ。
それなのに声をかけられなかったとなればやはりあれは父さんがついた嘘なのだろう。
高校二年生にもなれば父親とも十五年以上の付き合いになるので、父さんの話が嘘かどうかくらいはすぐに理解できる。
そんな嘘が面白いとでも思っているのだろうか……。
「……はぁ」
「ねぇちょっと。あなた、
聞き覚えのある声に後ろを振り返ると、そこには凛々しい姿の神凪が立っていた。
僕が神凪から声をかけられる理由なんて何一つとして思い浮かばない。
たった一つのあり得ない理由を除いて。
いや、まさか、まさかそんなことがあっていいはずが--。
「私、あんたと結婚なんてしないから」
その言葉を聞いた瞬間、父さんの発言が事実だったことを理解する。
そしてただシンプルに、神凪と許嫁になったという事実に驚かされていた。
「詳しい話は聞かされてないんだけど、なんで僕たち結婚することになったんだ?」
正直に言うと、なぜ神凪が許嫁になったのかという疑問よりも、今どのようにしてこの場を乗り切るのかという考えが頭の中を駆け巡っている。
こんなに可愛い女の子と二人で会話をするなんて陰キャの僕に務まるのだろうか。
「そんなことも聞いてないの? あなたの父親が私の父親の働く会社の社長をしているらしくてね。私の父親と本庄君の父親は昔から仲が良かったみたいなんだけど、本庄君の父親が息子の結婚相手を心配していたからって私を紹介したらしいわ。ほんっとくだらないわよ。親の勝手な都合で結婚相手なんて決められて」
そんなの僕だって勝手に決められたって困る、と言いたいところではあるが、神凪の顔面偏差値が百、またはそれ以上だとしたら僕の顔面偏差値はいいとこ三十くらいのもんだ。
それなら僕は神凪と付き合えることを喜ばなければならない。
とはいえ、神凪、めちゃくちゃ嫌そうだし、素直に神凪が許嫁になったことを喜べる状況ではない。
そりゃ神凪みたいなS級美少女が自分の許嫁になったら嬉しいけどさ。
僕がどれだけ嬉しくたって……。
「別にいいぞ。結婚なんてしなくて」
神凪の気持ちを第一に考えた時に、僕の口からは自然とそんな言葉が出ていた。
「……え? 私と結婚したくないの?」
「そりゃあんまり会話したことないとはいえ神凪くらい可愛い女子となら結婚したいって思うけどな。でも神凪が嫌がってるなら無理して結婚しようとも思わないよ。とはいえ親が納得するとは思えないし
とりあえずは親にバレないように協力するよ」
「そ、それはありがたいんだけど、え? なんか私が思ってた反応と違うんだけど?」
神凪は僕が父親同士仲が良いことを利用して、「へへー僕と結婚しないと君のパパと縁を切って会社をクビにしちゃうぞー」とでも言うと思っていたのだろうか。
僕は親の都合に協力するつもりなんてないし、それ以上に神凪に嫌な思いをさせたいとは思っていない。
「意外とこれが普通なんじゃないか? ま、今後はいい距離感保ちながら付き合ってるフリでもしとけばいいだろ。それじゃ」
「え、え? ちょっと本庄君? 本庄君⁉︎」
もし神凪が許嫁になったのが本当に親の都合だとするならば、これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
僕はこうして神凪と嘘の恋人となり、親を騙すことに決めた。
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