27話-②
妹はあっちこっち行きたそうな表情でもったいなさそうに選べずに、目移りしていた。
「凛。心配しなくてもまた来れるから凛が好きなところを選ぼう?」
「お兄ちゃん……うんっ!」
すぐに、近くにあるレストランを選んで中に入っていく。
席はほとんどが埋まっているが待合スペースには誰もいなかった。
「いらっしゃいませ。お二人でしょうか?」
清楚な制服の女性が出迎えてくれる。
俺を見かけると一瞬だけ足が止まった。
「二人です!」
「で、ではご案内致します」
レストランの奥に空いていた席に案内を受けて、妹が壁側の奥に、俺が通路側に座った。
すぐにメニューを開いて描かれている美味しそうなパスターの中から食べたいものを選ぶ。
「うぅ……」
「どうしたんだ? 凛」
「こっちも食べたいけど、こっちも食べたいなって」
凛が選んだのは俺が食べようとした白いソースが目立つカルボナーラで、もう一つは緑色のソースがとても美味しそうなバジルパスタだった。
「じゃあ、俺がカルボナーラを頼むから、凛はバジルを頼んで、一緒に半分ずつ分けようか」
「え! いいの?」
「ああ。実は俺も両方食べたかったよ。こういう時にたくさん食べられる藤井くんが羨ましくなるんだよな」
「ふふっ。宏人お兄ちゃんってたくさん食べるもんね~」
男子にしては小柄の藤井くんの体のどこにあれだけの量が入っていくのか今でも不思議だ。
店員を呼んで注文をする。
注文が終わり待っている間、妹が周りをキョロキョロ見ているのがわかった。
いつもの誰かから睨まれていることを見張る視線ではなく、どこか落ち着かない感じだ。
ふと俺も周りを見てみる。
そこにはお互いに向き合って幸せに笑顔で話し合っている男女がたくさん並んでいた。
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
「周り……カップルだらけだね?」
そう言われると、俺達みたいに兄弟で来ている感じがあまりしないようにも感じる。
でも仲が良い兄妹だっていると思うんだけど……。
「お兄ちゃんと私もカップルに見えたりして……」
少し照れくさく笑う凛。
長年一緒に時間を過ごしてきたはずなのに、まだ知らない妹の一面が見れた気がした。
「凛の彼氏に見えるのならとても光栄なことだな~」
「え~! 意外と乗り気だった!?」
何となくここに座っているのが自分ではなく、妹が好きになる誰かを想像してみる。
兄として……妹には幸せになって欲しいし、好きな人との時間も大事にして欲しいとは思うけど……少し複雑な気持ちになる。
「世界で一番可愛い妹だからな!」
「えへへ~お兄ちゃんもだよ?」
妹に恥ずかしくないと思えるような……そんな兄になりたいと心からそう思えた。
注文したパスタが運ばれてきて、俺と妹の前に並ぶ。
すぐに皿にテーブルの中央で横に並べて二人で一緒に食べやすくする。
テーブル自体が狭いのもあって、目の前じゃなくて中央に置いても手が届きやすく、食べるのに不自由はしなさそう。
妹が目を輝かせてカルボナーラをフォークでぐるぐると巻き付けて口に運んだ。
俺も妹同様にカルボナーラにフォークを運んで同じ事をする。
「ん! 美味しい!」
「濃厚で美味しいな」
「お兄ちゃん! こっちも食べてみよう?」
「ああ」
今度は緑ソースがとても鮮やかで、爽やかな香りがするバジルパスタを食べてみる。
「こっち美味しい~!」
「添えられたトマトと一緒に食べると、酸味がいいアクセントにもなるな」
「お兄ちゃんはどっちが好き?」
「どっちも好きだけど、意外とバジルの方が好きかも」
パクパクと二人でパスタを食べていく。
もしかして凛が悩んでいたのは、俺が実はこっちの方が好きかもしれないと悩んでくれたりしたのかな?
そう思うと妹がより愛おしく思えた。
「「ごちそうさまでした」」
空いていた腹が美味しさで満たされ、代わりに中身がなくなった皿に手を合わせ、妹と幸せな時間を久しぶりに堪能することができた。
レストランを出て、今度はいろんな商店を巡っていく。
何か目的があるわけではないが、こうして二人でいろんな売り物を眺めたりするのがとても楽しい。
母さんが欲しがりそうな珍しい調味料を買ったり、凛が目を光らせる飾り物を買ったりと楽しい時間を過ごした。
たくさん歩いてベンチのところで休んでいると、近くの宝石屋が目に入った。
何か欲しいものがあったわけじゃないけど、不思議と目で追ってしまった商品があった。
白くて細いチェーンと、その先に付いている白い金属の輪っかが付いているネックレス。
俺が知っているネックレスならば宝石を下げて目立たせるものが想像されるんだけど、そんな感じがしない。
《経験により、スキル『監視』の派生能力のスキル『鑑定・微』を獲得しました。》
ネックレスのすぐ傍に小さな画面が現れる。
そこには『宝石取り付け用ネックレス』と書かれていた。
なるほど……あの輪っかの中に入るサイズの宝石を付ける仕組みか。宝石を留めるための金具は必要なく、あの輪っかが魔道具になっていて宝石をセットでき、いろんな宝石を変えて装着できる仕組みのようだ。
そう思うと何個もチェーン付きの宝石を買わずに済むのは良いのかもしれないな。
「お兄ちゃん、何を見ているの?」
「あのネックレスがちょっと気になってな」
「ふう~ん。ひぃ姉達に送るの?」
「あ~」
ネックレスをしているひなと詩乃が容易に想像できた。
でもそれよりも別の人に送りたいと思えた。
「凛。ちょっとだけ待ってくれるか? すぐ買ってくる」
「ふふっ。行ってらっしゃい~」
宝石屋に入っている間も、俺の脳裏には常に監視モニターのように妹の姿を映し出されている。
スキル『監視』は視界が届く範囲内なら全部カバーできるようで、後ろにいる妹もこうして見ておくことができる便利スキルなんだな。
『愚者ノ仮面』のときは全方位見えていたから、全方位が監視できるのが当たり前だと思っていたから新鮮な気持ちだ。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「あそこに売っている宝石を取り付けるネックレスを買いたいんですけど」
「かしこまりました」
女性店員が素早くネックレスを持って来てくれて、目の前で見せてくれる。
「既にご存知だとは思いますが、こちらのネックレスは魔道具になっておりまして、こちらの輪の中心に付けたい宝石を乗せると浮き続けます。魔石でのエネルギー補充は必要ございませんので、ずっと安心して使えます」
「魔道具なのに魔石エネルギーが要らないんですね?」
「はい。特殊な加工になっておりまして、宝石だけを中心に浮かべる能力なんです。ただ注意して頂きたいのは、鉄等の金属は重くで浮かびません。さらに輪より大きい物を嵌めることもできませんのでご注意ください」
店員は見せるために鉄の玉を輪を下向きにして嵌めようとするが、嵌まることなく落下した。
今度は綺麗な赤い宝石を輪の中心に乗せると、輪の中心で浮かび続ける。
「宝石を外す際は、こちらのチェーンを輪の中にくぐらせると簡単に外れる仕組みになっています。逆にこちらのチェーンがないと外すことができませんので、輪を壊さないといけなくなりますのでご注意ください」
簡単に外せたら歩いていたら宝石が落ちてしまったってなるだろうし、こういう仕組みで外すように作られてるんだな。
会計を終わらせてネックレスを買ってポケットに入れるふりをしながら異空間収納に入れた。
「おかえり~」
「ただいま。行こうか」
「うん」
商店街の華やかな世界から外に出ると、空がすっかり赤く染まり始めていた。
あっという間に時間が過ぎでしまったんだな。
「凛。タクシーで帰るか?」
「ううん~」
「お金の心配なら大丈夫だよ?」
「や~だ~」
そう話しながら俺の右腕を大事そうに抱きしめる妹。
「歩きたいな~」
「じゃあ、ゆっくり歩いて帰るか」
ここまで来た道をまた妹と一緒に帰る。
夕暮れを見ていると、どうしてか少し寂しい気持ちになるよな……。
誰よりも輝いていたお日様が山の向こうに消えていき、やがて真っ暗に世界が染まると知っているから不安な気持ちになるのかもしれないな。
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