24話-①
■第24話
朱莉さんと斗真さんが戦ったあの日から一週間が経過した。
詩乃の耳栓型イヤホンは、神威財閥の力でより強力なモノになり、今までと変わらない生活を送れるようになった。
ひなの鉄箱も魔石Δのおかげで安定するようになり、快適ではないが詩乃同様に今まで通りの生活ができるようになった。
ひなに関しては一つだけ変わった点があるとするなら、毎日鉄箱の中に残っている絶氷をスキルで融解させて消している。こうすることでより鉄箱から冷気が外で出にくくなり、魔石Δの力もあって、鉄箱がより安定している。
俺はというと、毎日午前中は学業、午後からはダンジョンに向かい、ひなたちと一緒に狩りを繰り返す。まだC3には行かず、DランクダンジョンとEランクダンジョンを中心に回ってる。
夕方前に神威家に向かい、夕飯までの二時間ほど道場でお爺さんに稽古を付けてもらっているけど、まだ本格的な稽古は受けられず、ほとんどが瞑想になっている。
これはどんなときでも冷静に対応できるように心を落ち着かせる訓練のようだ。
そのおかげもあって、メンバーとの掛け合いや柔軟な対応もできるようになった。
他の探索者パーティーの戦い方に多いのは、広範囲魔法や攻撃を持つ者のために魔物を集めて狩る方法だ。
効率が良い分、事故も多くて、ここ一週間で二回も事故に遭っているパーティーを見かけたので、助けたりしている。そのときも冷静に判断ができたのは、瞑想訓練のおかげだ。
金曜日の夜。
神威家での夕飯を終えて寮に戻ってすぐに『愚者ノ仮面』と『絶隠密』を使い、部屋の中から『迅雷』を使うことで窓の隙間から外に出ることができる。最近夜に一人で『ポーション』を集めるためにE90に向かうときは、いつもこのやり方を取っている。
でも今日やってきた場所はE90ではなく――――とある公園だ。
誠心町からだいぶ離れた場所にある公園の中心部に降り立って、絶隠密を解く。
五分ほど待っていると、後ろから人の気配がして見つめると、上空から一人の男が降りてきた。
「よお! 待たせたな」
「いや、俺もちょうど来たところだ」
降り立った男はすぐに右手を差し出して握手を求める。
がっしりとした手を握り握手を交わした。
「また会えて嬉しいぜ。ヒュウガ」
「俺もだ――――神楽大将」
「がははっ!」
誰もいない公園に斗真さんの笑い声が響き渡る。
「さっそくだが、
そう話しながら、手に持っていたハードケースを渡してくれる。
よく見かけるハードケースとは違い、縦横全て四十センチくらいの正方形のケース。
「本当によかったのか?」
「構わん。俺の権限で悪用しない約束だからな。それに他国では出回ってたりもするからな。魔石Δだけでなく、この間の素材も大きな助けになった。また欲しいのがあればいつでも連絡をくれ」
「感謝する。以前渡した素材は何に使ったか聞いても?」
「ああ。俺の妹は特殊な環境にいてな。超強力な魔道具の耳栓を付けないと生活ができないんだ。その素材として使わせてもらった。本当にありがとう」
神威家で事前に作っていた詩乃のイヤホンだけど、以前渡した素材でよりいい物ができたみたいでよかった。
「ではもう必要――――」
「まだあるのか!?」
「あ、ああ」
「無理のない範囲で構わない。譲ってくれ!」
「わかった」
『異空間収納』から兎魔物と子豚魔物の素材を渡した。皮や骨など、使い道もなければ買取センターで売却もできない。誰かのためになるなら、使ってくれた方が素材としても意義があると思う。
それに――――これにはもう一つの理由がある。
「こんなに! ありがとうよ、ヒュウガ!」
「ああ。いいことに使ってくれるなら、また獲ったら渡す」
「ありがてぇ! この丈夫さなら災害対策用品にもできるし、使い道はいくらでもある。使った場所は全て正確に記入したものを渡そう。また入荷したら連絡くれ」
「わかった」
再度斗真さんと握手を交わして公園を離れた。
寮の部屋に戻ってすぐにハードケースを開く。
中にあったのは――――潜在能力のランクを調べる水晶が入っている。
魔石Δや兎魔物、子豚魔物の素材を斗真さんたちに渡してからいろいろ考えた。
あの日、素材を渡しながらいつでも獲りに行けるとは思ったものの、あれから最初に入った『ルシファノ堕天』というダンジョンに入れたことはない。
かのダンジョンに入ったとき、俺はライセンスをもらうために受付で水晶に触れていた。
ダンジョンから出たときだって受付だったから、間違いなく水晶が入口になっている。だからいつでも獲りに行けると思った。
なのに、肝心な水晶は非売品であり、手に入れる方法もなかった。
どうしようかなと思ったときに思いついたのが、斗真さんから素材の支払いは後からするというところで、お金はいらないので代わりとして水晶をもらえないかと相談した結果、快諾してくれた。
余談だが、世界には水晶を使い幼い子どもの潜在能力を調べて拉致をする悪者もいるそうで、それをしないと約束して、もらえることに成功した。
さっそく、手で水晶に触れる。
今までと変わらず水晶が黒い色に染まっていく。
灯りの消えた俺の部屋に黒い靄が広がり、俺の体ごと飲み込んだ。
体が落下する感覚。深い闇の手に引っ張られる感覚に陥る。
懐かしい……。
どこかに着いた足の感覚から目を覚ますと、あの日に見た景色が広がっていた。
暗い世界。空には星が輝いているが、周り全体的に霧がかかっていてよく見えない。そんな中でも遠くにあるお城のようなものだけは把握できる不思議な世界。
ここに初めて来た日からE117、D90など、いろんなダンジョンに通ったけど、ここが一番不気味なダンジョンだ。
俺が立っている場所はまだ安全地帯なので魔物の姿は見えない。
懐かしむように歩いていくと、ティラノサウルスを倒した場所にたどり着いた。
脇に見える猛毒の泉。
おそるおそる手を入れてみるが、普通の水と変わらない感覚で、でも地面に落とすと、ジュワ~ッと音を立てて地面から湯気が立ち上る。
最初見た時は喉が渇いて飲んでしまったっけ……あはは……。
一本道を歩き進んでいくと、開けた場所に着いた。
霧の中から赤い光が見える。
近づくと赤い光たちが俺に向かって、一気に近付いてきた。
白い毛の兎魔物たちが一斉に俺に向かって飛びついてくる。
わかりやすい殺気の跳び蹴りを軽々と避けながら、あの日のように打撃を打ち込む。
スキルが進化してからか、全ての兎魔物が一撃で倒れた。
十匹くらいの兎魔物の素材を回収してまた先を進みながらどんどん倒していく。
進んだ先で子豚魔物も現れて両方の素材がどんどん貯まっていく。魔石Δも同じ数分貯まっていく。
そういや、E117のコルのように魔物の情報を知らせるアナウンスは流れないんだな。
魔石Δも全ての個体から得られるので、すでに五十個は獲得できている。
ふと、景色の遠くに見えるお城が気になった。分かれ道で出口側の反対側の道はお城の方に繋がっている。
入るかどうかはそのときに考えることにして、お城に着くのかどうか向かってみる。
まだここに来てそう時間は経っていないし、魔石Δを集めるという意味でもいいと思う。
向かっている間も兎魔物と子豚魔物がいて、全て倒しながら進んだ。
道は途中で分かれることなく、一本道になっており、やがて辿りつた場所は――――
「城だ……」
思わず、口に出してしまう。
俺の目の前にあるのは、西洋風の城。
巨大な門と壁。奥に見える尖った屋根。ここまで聞こえる水が流れる音。
そのとき、閉まっていた門から、カラカラと音を鳴らしながら、城門が降りてきた。
分厚い木材が鈍い音を響かせながら目の前に降りて道となる。
これは……このまま入ってくれということか。
中から殺気などは感じないし、もし城門がまた閉まるようなら走って飛び越えればいいか。もしものときは迅雷で城壁を飛び越えることもそう難しくなさそう。
歩いて中に入っていく。
視界に映るのは、綺麗に作られた庭、その中心を彩るのは大きな噴水で、聞こえていた水の音の正体はこれだった。
人の気配一つしないのに、手入れされた庭に違和感を覚えつつも、中に進んでみる。
城の中にも誰一人気配はない。でも埃一つ落ちておらず、綺麗に保たれている。
真っすぐ敷かれた絨毯の上を歩く。
ランタンのような明りが所々に設置されているが、それがなくても全体的に明るくて見通せる。
横には部屋がいくつかあって、門はないので外からでも中が見えるけど、中は家具一つ置かれていない空き部屋になっていた。
絨毯に沿って歩き続けると、謁見の間のような場所に付き、奥に少し高台となって玉座が設置されていた。
座るつもりはないけど、何となく惹かれて近くまで歩いた。
そのとき――――俺の足元に魔法陣が現れる。
避けようと思い、飛び越えようとしたが、いつの間にか魔法陣から、無数の影の手で全身が捕まっていた。
急いで『愚者ノ仮面』を発動させると同時に魔法陣が発動して俺は光に包まれた。
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