22話-②

「二人は『魔石Δ』を巡って戦いに向かったと連絡をもらったのだが、間違いではないみたいだな」

「お父様……私はひなたのためなら命など……」

「バカモノ! そうやって賭けた命にひなたが喜ぶとでも思うのか!」

「それは……」

「それにひなたなら解決策もある。ただ相手の意見もあるだろうが、神威家の全てを出してでも説得すれば、魔石よりも快適な暮らしができる!」

「……日向ですか?」

「ああ。彼の許諾を得ているわけではないが……ひなたの現状に最も力になるのは、『魔石Δ』でもなく、他の誰でもなく日向くんだ」

「ですが、かの男が嫌がった瞬間、可能性は全て消えます。人の関係性というのは脆いもの。神威家としての対策を先に講じておくべきです。ひなたのためにも」

「それはわかっている。だから、先に危機に陥ってる神楽家に譲ろうと言ったのだ。少しでも時間を作り『魔石Δ』を探し出す。神威家の上げて全世界を探している」

「それで一か月も待ちました。その間もひなたはどんどん強くなり……」

 やはりひなのレベルが上がり、強くなっていくのは家族にとって大きなことだったんだな。

 それもそうだな。実際今日見た神威家の従業員だけじゃない。もっと強くなったら、誠心町、ひいては日本全土が危険にさらされる。

 そうなると彼女はどうするのだろう? 思いつく最悪は南極のような場所に幽閉してしまい、ひなをずっと一人にしてしまうこと。日本国民の危機となるなら、そういうことだってありえるかもしれない。

 もしひな自身がその事実を知れば、本人が自ら日本から発つことだってあり得る。それを知っている朱莉さんだからこそ、こんなにも焦っているんだ。

 斗真さんだってそうだ。詩乃は部屋内でもイヤホンを付けてようやく生活できる。普段からも外れられてないイヤホンを外せる部屋ですら狭く感じざるを得ないはずだ。

 二人の妹を思う気持ちが痛いほど伝わる。

 日向がここにいることは知られたくない。俺が『魔石Δ』を渡したとなると、朱莉さんが言っているようにひなも詩乃も俺に気を使うことになる。いつでも取れる簡単な魔石一つで、嫌なことがあっても全て我慢してまで無理して俺の隣に立とうとするはずだ。

 それは本当の意味でのパーティーなのか? 俺は……違うと思う。お互いがお互いを支えながらもお互いを認め合うパーティーになりたい。嫌なことは嫌だって言ってくれるような、そんな仲間でいて欲しいんだ。

「『魔石Δ』が必要なようだな」

 俺の声に三人注目し、一気に緊張感が走る。

「彼は……?」

「突然戦いの間に割って入った者で『魔石Δ』を持っています。名をヒュウガと言うそうです」

「何だと!? ――――ヒュウガ殿。言い値でかまわない。何でも条件を出してくれ」

 おじさんも朱莉さんと斗真さんと同じことを言うんだな。ますますひなたちが家族からどれだけ愛されているのかがわかる。

娘達の命・・・・が買えるなら安いものだ。俺は斗真くんにだって無駄な犠牲になって欲しくはない」

「昌さん……」

「斗真くんが詩乃ちゃんをどれだけ想っているのかは知っているさ。だからこそ、ここで大きなケガでもしたら、詩乃ちゃんが悲しむ。ここは何が何でも『魔石Δ』を買い付けて、みんなで無事に帰ろう」

 いつの間にか三人と俺の交渉が始まった。

 正直、何でもいいというか……お金はもう必要なくなった。家のローンもないし、生活費も十分に足りてるし、ひな達が譲ってくれる素材でパーティー資金を引いても余ってる。

 となると、何か別な物の方がいい気がする。

 タダで置いてってもいいんだけど……それだとますますバレる可能性があるからな。

「お金はいらない」

「なら欲しい物はなんだ?」

 欲しい物……と言われてもすぐには出てこない。

 そういや、メンバー全員が使っているマジックウェポンでもいいような……それだとお金をもらって自分で買えるものな。マジックウェポンは難しいな。一点物とかになると俺が持ってるとまたバレる原因にもなりそうだし……。

 三人は期待の眼差しを俺に向けてくる。

 くっ……どうすれば……こういうとき、詩乃なら何で交渉するだろうか?

 そのとき、ふと気になることがあった――――『スキル』という言葉である。

 お爺さんはひなと結婚なんて言い、教えてはくれなかった。何か言えない事情があると言っていたから、俺が神威家に連なる者になれば教えられると。

 神威家だけの情報なのか、はたまた国としての情報なのか、そのどちらもか。

「――――『スキル』。その言葉をご存知だろうか?」

「……ああ。知っている」

「スキルの詳細、スキルに関すること全てについて、それを教えてくださるなら、こちらの『魔石Δ』を譲りましょう」

「まさか、それを調べるためにわざと『魔石Δ』を買取センターに流したのか? 『魔石Δ』の価値を我々が調べ尽くした頃に、こうして交渉にくるために?」

 ええええ!?

「なるほど……『魔石Δ』ほどの魔石を買取センターで、はしたない金で流した理由も納得いきますね」

 い、いや……そういうわけじゃ……。

「こうして俺達はまんまとこの男の手のひらで踊らされたということか……だが、それで詩乃が少しでも楽になれるならどうでもいいことだ。いくらでも踊らされてやろう」

 二つ……売っておけば……よかったかな……。

「ヒュウガ殿。その提案はわかった。神威家の名に懸けて、国家機密の分までしっかり持ってこよう」

 国家機密!?

「ただ……あまりの機密ゆえ、情報はヒュウガ殿以外の人に漏らさないでほしい。『魔石Δ』を購入するこちら側からの条件で大変申し訳ないのだが、国家機密が外国に漏れてしまい、国民に大きな危険を伴わせたくはないのだ」

 はい。絶対に誰にも漏らしません。ただ知りたかった情報だから、知らなくてもいいといえばいいから……はぁ……。

「問題ない。ではこちらの『魔石Δ』を譲ろう」

「情報をまとめるのに三週間ほど時間をもらえるだろうか?」

「かまわない」

「感謝する」

「三週間……っ……」

「朱莉。何とか日向くんに頼んで三週間ほど時間を作ってもらおう」

「お父様……」

 !?

「ごほん。では、先払いでかまわない」

「それは本当か!?」

「もちろんだ。これ程の人達の大事な時間を奪うわけにはいかない。では――――」

「待て」

 意外にも俺を引き留めたのは斗真さんだ。

 彼に顔を向ける。

「どうすればお前さんに連絡が取れる」

「連絡……?」

「ああ。『魔石Δ』程の品物を持っている。お前さんには他にも何か大きな力を持つ素材を持っているのではないか?」

「斗真くん。今その交渉は……」

「昌さんは甘い。もしその素材が外国に流れれば脅威だ。考えたくないが『魔石Δ』がもしさらに複数あり、それが外国に流れ……軍事兵器に使われでもしたら!」

 は、はい……まだたくさん持ってます……というかいつでも取りにいけると思います……。

「それもそうだな。ヒュウガ殿。どうにか連絡を取る方法を教えてもらえないだろうか。俺からもお願いする」

 家族のことを一番に思いながらも、国民を背負って立つ人だからこそ、すぐに国民の安全を考える姿に安心感を覚える。

 だがしかし。スマホの連絡先を教えてしまったら、それこそ俺が日向であると公言するようなものだ。それならここまで隠し通した意味がない。

「お父様。政府の大将携帯がまだ余っているはずです。そちらを買い取りましょう」

「朱莉~! それいい考えだな~俺も賛成だぜ!」

「うむ。斗真も賛同するなら元帥も嫌とは言えないだろう」

 えぇ……大将携帯ってなんだよ……。

「今から元帥に連絡します」

 マジックバッグから一台のスマホを取り出すと、どこかに連絡をする朱莉さん。相手は意外にもすぐに出た。

「元帥。私と斗真で『魔石Δ』を巡って戦いました」

 直後、スマホからここまで聞こえるくらい「バカモン!!」と大きな声が聞こえる。

「ただ途中で『魔石Δ』を売った者が現れて、もう一つを売ってくれることになりました――――はい。それで国が保有している『スキル』に関する全ての情報を彼に売ります。それと大将携帯を一台彼に渡して、いつでも連絡が取れるようにしたいので、大将携帯を一つ今すぐ送ってください。斗真も賛成しています」

 またここまで聞こえるくらい何か怒った声が聞こえたが、最後には納得してくれたように電話が切られた。

すめらぎ元帥も大変そうだな……」

 ボソッとおじさんが呟いて雨が降る空を見上げた。

 それにしても三人とも体が雨に濡れていない。俺は『愚者ノ仮面』で雨が全部蒸発してくれている。ひなと似た状態だ。

「ヒュウガ~何か良さそうな素材あったら売ってくれよ~」

 のんびり待つことになり、どうしようかなと思ったら意外にもフレンドリーに斗真さんが声を掛けてきた。

「どのような……?」

「何か肌触りが良くて、丈夫な物はないか?」

 う~ん。『魔石Δ』と一緒に取れた兎魔物の骨と皮、子豚魔物の皮とかかな?

 三つを取り出すと、斗真さんの目が豹変した。もちろん、少し離れて興味ありそうにしていた朱莉さんとおじさん。

「初めて見る素材だな。にしても相当丈夫そうだな」

 これらは買取センターで査定不可だったから売れなかった素材だ。『魔石Δ』と同じ数が取れているので大量にある。それにあのティラノサウルスから取れた素材も二体分ある。

 ティラノサウルスの魔石は巨大だったが、実は高く売れたりするのか……?

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