22話-①
■第22話
二週間ぶりに着用した『愚者ノ仮面』。
顔を全て覆うこの仮面は、着用すると普通の感覚ではなくなる。目でしか見ることができない視界が全方位見れるようになり、瞬きすら必要なくなる。いや、存在しない。さらに全身から力が湧き出る。
いつも使ってるわけではないので、中々慣れないが、昨晩『ポーション』を取りに行く際に慣れておいてよかった。
それにスキル『絶隠密』も久しく使っていなかったので、こちらも慣れておいてよかった。
いま俺は、全速力で東に向かっている。
『愚者ノ仮面』と『速度上昇・超絶』のおかげで凄まじい速度で走ることができている。
これなら実家に戻るにも列車を利用せずともそう時間が掛からずに戻れそうだ。
通り過ぎる景色を堪能する暇もなく、俺は降りしきる雨の中を進み、海辺にたどり着いた。
ここからお爺さんが言っていた人工島がどこにあるかはまったく見えない。
こんなところで足を止めている場合ではない。もし二人を止めることができず、戦いによってどちらか……いや、どちらにも大きな犠牲があったら、ひなや詩乃に顔向けができない。
くだんの件の魔石がもし俺が売った『魔石Δ』なら……『異空間収納』にはたくさん入っているし、二人を納得させられる。
それにいつでも取りにいけるはずで、ひなと詩乃のためならいくらでも魔石をあげたい。
いまは考えるより先に足を動かして探そう。
俺は広大な海に足を踏み入れた。
『愚者ノ仮面』は視界が広がり身体能力が上がるだけではない。体も非常に軽くなり、木の葉っぱにすら立っていられるほどになる。だからといって体重が消える感じではないので、攻撃に体重が乗らないなんてことはなく、普段の動きもそう変わらない。ただ、不思議な力で普通ではありえないことを成せるようになる。
仮面状態で走っているときに池に足を踏み入れることがあったが、水面に立つことすらもできるようになっている。水面を走ることくらい仮面を発動させていれば簡単だ。
急いで広大な海を走り回る。全速力で雨による荒波が来てもそれを飛び越えながら高く飛び上がり空中で島を探す。
それを何度か行っていると、はるか遠くに小さな陰が見えたので近付くと、巨大な船のような、まさに人工島というものが見える。
急いで近付いていくと向こうからとてつもない力が二つ伝わってくる。間違いなく――――朱莉さんと斗真さんだ。
荒波を考えれば真っすぐ走るように飛び跳ねて進んだ方が速いと判断したので、全力で島に向かって飛び跳ねながら進む。
近付くに連れ、向こうからいつか見た全てを燃やし尽くす爆炎と、目に見えるほどの暴風が島の両端に立ち上る。
っ……ここままでは始まってしまう! 何かいい方法はないのか!?
《困難により、運命『愚者』の力『
黒雷というのは、仮面を被ると使える黒い雷のことだな。ちゃんと名前が付いていたんだな。
第一の力は攻撃。触れたモノに強力な雷のダメージを与えるのは、仮面状態で何度も確認している。ただ、不思議と、これで倒された魔物は跡かたなく消えてしまう。素材がなくなるのであまり使わない。
第二の力『迅雷』。初めて使うけど、どうしてか手足のように使い方がわかる。この力は――――超高速移動。
体が黒い雷となり一瞬で人工島の上空にたどり着いた。
島では朱莉さんと斗真さんが力を解放し、ぶつかり合う寸前だった。
もう一度『迅雷』を使う。一度目でわかったけど、この力は消費が激しい。『黒雷』のときはそれほど体力の消費はなかったが、『迅雷』は全身に重りが付いたかのように大きな消費を感じる。
だが背に腹は代えられない。二人がぶつかる前に……止めるっ!
真っ赤に燃える爆炎と荒々しく吹き荒れる暴風の拳同士がぶつかり合う直前。俺の『迅雷』による移動で二人の間に割り込んだ。
一瞬の出来事に朱莉さんと斗真さんの視線がお互いから一瞬俺に向く。だがお互いの拳は勢いに乗り、止まる事はできない。
両腕に『黒雷』を全力でまとわせ、二人の攻撃をそれぞれずらす。
左腕で斗真さんの暴風を左に、右手で朱莉さんの爆風を右にずらす。
もしスキル『武王』や『注視』がなければ、絶対に不可能だった。つくづくお爺さんには感謝するばかりだ。
二人が放った強力すぎる力は爆炎と暴風となり、海をも乗り込んだ。
《困難により、スキル『熱気耐性』を獲得しました。》
《困難により、スキル『炎耐性・超絶』を獲得しました。》
《困難により、スキル『暴風耐性』を獲得しました。》
《困難により、スキル『風耐性・超絶』を獲得しました。》
《困難により、スキル『裂傷耐性』を獲得しました。》
暴風に抉り取られた海と爆炎に蒸発した海。超巨大なクレーターが二つ、人工島の左右に作られた。
「何者だ」
「誰だ……?」
朱莉さんと斗真さんから同時に声が聞こえ、すぐに二人の攻撃の続きが俺に向けられる。
自分が日本最強である二人に真っ向から勝負できるとは思えない。だが、『愚者ノ仮面』の力が最大に発揮できれば……数撃は耐えることができるかもしれない。
本来なら攻撃の力だが両手に纏わせた黒雷で二人の攻撃を炎と暴風の力を仲裁させる。
二人は休む暇もなく攻撃を加えてくるが、それを全て打ち消していく。
そんな中、斗真さんの強烈な蹴りが俺の腹部を叩き込み、遠くまで吹き飛ばした。
《困難により、スキル『防御力上昇・中』が『防御力上昇・大』に進化しました。》
すぐに朱莉さんと斗真さんが再度戦い始めるのが見えた。
吹き飛ばされている途中で三度目の『迅雷』を使い、また二人の間に割り込む。
《困難により、スキル『体力回復・大』が『体力回復・特大』に進化しました。》
三度目の『迅雷』で重くなった体が少し軽くなった。
二人の殴りを同時に下から打ち上げると、爆炎と暴風が上空に飛ばされながら混ざり合い、大爆発を起こして人工島全土に熱気が降り注いだ。
「俺はヒュウガ。戦いをやめてもらいたい」
「お前は何者で、どうして戦いを止めようとする」
「この戦いに意味はない」
「意味がないなど、お前に何がわかる!」
俺は急いで懐から取り出すふりをしながら『異空間収納』から『魔石Δ』を取り出した。
「これが目的か?」
「「それは!?」」
一度懐にしまうと、俺を殴る寸前で二人とも手を止めた。
ここに来るまで相当な覚悟を決めており、俺が現れてからも攻撃の手をいっさいに止めなかった。それだけお互いの実力は拮抗しており――――油断した方が負けるから。二人とも攻撃を止められなかったのも頷ける。
「ヒュウガとやら。言い値でかまわない。それを譲ってくれ」
「その言い値の半分はうちが持とう。斗真もそれでいいな?」
「かまわん。もう一つは軍部が持っているからな」
ふう……これなら何とか話し合いに持ち込めるな。むしろ、このままここに置いて逃げれば見逃してくれたりするだろうか?
そんなことを思っていると人工島に巨大な何かが降ってきた。
鈍い音と地響きを鳴らしたそこには何やら水蒸気のようなものが立ち上り、中身が全く見えなかった。
次の瞬間、雨風によって水蒸気の中から姿を現したのは――――また見慣れた人物だった。
「お父様」
「朱莉……斗真くん。戦いは……間に合わなかったようだが、現状を聞かせてもらえるか?」
朱莉さんと斗真さんが日本最強であることは知っていた。その上で、神威家のお爺さんとおじさんも相当強いのは知っていたはずだが、こうして本気になった状態だからこそ、初めておじさんの強さを感じることができた。
朱莉さんや斗真さんに引けを取らない。つまり……おじさんもまた日本最強クラスの戦力であるのがわかる。
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