20話-③
「お、おい……ふざけんじゃねぇぞ……! てめぇは俺達のポーターだろうが……何勝手に抜けるとか言ってんだ!!」
「っ……」
斉藤くんに言い寄る三人だが、その前をメンバーが止める。
「斉藤くんは俺達のメンバーになった。お前らにはもう用はないよ」
「ああん? クソ雑魚の分際で俺達に勝てると思ってるのか!」
「……やってみるか?」
「がーはははっ! 低ランクの分際で! ボコボコにしてやるぞ!」
ガラの悪い男子生徒達が彼らに襲い掛かる。
「斉藤くん! 指示を! 大丈夫! 俺達は――――パーティーなんだ!」
歯を食いしばった斉藤くんはすぐに三人に戦いの指示を送る。
メンバー達よりも格上の相手達を難なく倒して勝つことができた。
もし相手がケガをしていなければ、結果は少し変わっていたかもしれない。それくらいのレベル差はあった。けれど、普段なら絶対に勝てないはずの格上相手でも信頼できる仲間との共闘で勝てることを見せてくれた。
「これで文句なく斉藤くんは俺達のメンバーだ! てめぇらはもう二度と近付くんじゃねぇ!」
「く、クソがあああ!」
悪態をつきながら、ガラの悪い生徒三人はその足で逃げ去った。
その姿を見ながら斉藤くん達は再度ハイタッチをする。
彼らを見守っていると、隣で一緒に見守っていた先生が声をかけてきた。
「どうだ。あのパーティーは」
「はい。とても相性もよくて、素晴らしいパーティーになると思います」
「うむ。あれも全て――――鈴木。お前のおかげだ」
「俺……ですか?」
「ポーターというのは見えない強さがある。それを知るのはより難しいダンジョンに入ってからだ。だが、それではすでに遅い。ああやって早い段階からメンバーを揃えた彼らは立派な探索者になれるだろう。本来なら教育係として俺達がやらなければならないことだが、中々難しくてな。俺からも感謝を言わせてくれ」
「い、いえ……俺もたくさん学べました。パーティーとは。メンバーとは。自分の役目とは。本当にいろんなことを教えてくださりありがとうございます!」
「くっくっ……それにしても、やはりお前は強いな。本当にポーター志望なのか?」
「え? は、はい。僕はメンバーの中でも最弱ですので……」
「最弱か……鈴木」
「は、はい」
「お前は大きな勘違いをしている。もしお前が一番弱いからポーターになるというのなら、それは間違いだ」
「っ!?」
「弱さじゃない。お前にしかできないことをするんだ。それがメンバーのサポートならポーターを目指してみるのもいいんじゃねぇか?」
「は、はいっ!」
「じゃあな。俺はあいつらを送りにいくからよ~」
そう言いながら斉藤くん達のところに向かう先生。
何かを話すと、彼らは俺の方を向いて「鈴木くん! ありがとう!」と四人が声を揃えて感謝を伝えてくれた。
地元にいた頃は誰かに感謝されるなんて想像だにしなかった。
自分の行いが……誰かのためになったのなら……ああ。本当に嬉しいな。
俺の腕をツンツンと押す感覚があって振り向くと、口を尖らせた詩乃がいた。さらに後ろで困惑した表情を浮かべるひなと藤井くん。
「リーダー?」
「う、うん?」
「パーティーメンバーは私達ですよ~?」
「お、おう。し、知ってるよ」
「ふふっ。よろしい~これからもよろしくね? リーダー」
自分の居場所もここに確かにあるんだと再度納得することができた。
それから百体もの魔物を一か所に集めたことで、大ケガを負った四人の探索者にはペナルティが課せられることになった。
というのもポーション四本を使われたこともあり、ローンを組まされてこれから支払うことになる。
善意で渡したものではあるが、彼らの自業自得なのでルールに従って返してもらう。
命に大事はなかったから、彼らにとってもよかったのかもしれない。
イレギュラーでポーションのストックを全部切らしてしまったから、今日からまた一人で集めに行くことにしよう。
狩りを終わらせて、俺達四人は神威家を訪れた。
「藤井くんの正式な加入を祝して~乾杯~!」
「「「乾杯~」」」
詩乃の音頭に合わせて白い炭酸飲料で乾杯をする。列車で飲んだ高級炭酸飲料だ。
今日から藤井くんも寮ではなく、神威家で夕飯をご馳走になることが決定して、藤井くんも大いに喜んだ。
食事を堪能してから、ひなのために詩乃と二人は風呂に入っている。その間、俺と藤井くんは二人で待つ。
「日向くん」
「ん?」
「僕さ。日向くんって弱いって聞いたんだけど」
「え? そ、そうだったでしょう?」
「え?」
「うちのパーティーの中で一番弱いのは俺だし……」
「…………」
何故か藤井くんがジト目で俺を見ながら、溜息を吐いた。
「神楽さんから話は聞いていたけど、本当だったんだね」
「ん? 本当……だった?」
「ううん。何でもないよ?」
「気になる……」
「ふふっ。それにしても、さっきのパーティーってすごくいいパーティーだったね」
「あ、ああ」
何か……話しを逸らされた?
「日向くんって、実家に仕送りとか、凛ちゃんに誇れる兄になるためにダンジョンに潜ったんだよね?」
「そうだな。仕送りはいらないと言われてしまったけど……」
「仕送りは断られても贈り物ならしてもいいんでしょう? いろいろ贈ったらいいんじゃないかな?」
「それ、いい考えだな。ぜひ使わせてもらうよ」
「家族……か」
暗くなっている夜空を見上げて藤井くんは小さく呟いた。
彼がダンジョンに入る理由。詳しくは聞いていなかったな。それを言うなら、ひなや詩乃が入る理由も聞いていない。
いつかみんなの理由をしっかり聞けたらいいなと思う。
ひな達の風呂が終わり、ひなを残して俺達は帰路についた。
藤井くんは二人で仲良く~と言いながら先に寮に戻ってしまって、いつも通りに詩乃を神楽家まで送る。
いつもなら楽しそうにいろいろ話してくれる詩乃だが、昨日今日は口数がずいぶんと減った。
それにしても、あまり顔色がよくない。
連休も休んだとはいえ、毎日歩き回ったりと疲れることばかりだったし、今日はダンジョンでいろいろあったし、明日は休憩にしてもいいかもしれない。
「詩乃。おやすみ」
「!! お、おやすみ!」
慌てながら詩乃が家に入る様子を見届けて、俺も寮に帰った。
◆
誠心高校、校長室。
「どうだった?」
高級革椅子に座った眼鏡をした女性。屋上で日向と出会った校長である。
彼女の前のソファに座ったのは、探索者教師であり本日日向と共闘をした男だ。
「得体の知れない強さでしたね」
「『レベル0』は間違いないのに……君が認めるくらい強いのね?」
「ええ。見た目や感じられる強さは確かに『レベル0』ですけどね。校長だって接触したんでしょう?」
「ええ。接触したわ。その上で――――紛れもない『レベル0』だなという感想よ」
「神威朱莉や神威ひなたのような異質な強さはなかったんですか?」
「なかったわね。むしろ、なさすぎて、虚無そのものだったわ。さすがは『レベル0』。私も初めての体験で驚いたけど……面白い人が生まれたものね」
「どうするんです?」
「どうもしないわよ。私に管理できるわけもないじゃない。だって……もう神威家の手に渡ったんでしょう?」
「毎日神威家を訪れていると報告がありましたからね……地蔵様と奪い合いはしないんすか?」
「無理を言わないの。あの人と敵対して今まで生き残った人なんて、誰もいないって知ってるでしょう?」
「え? 一人知ってますけど……」
「まあ、冗談言わないの。私は見逃してもらっただけだから。それにしても……どうしてこのタイミングで『レベル0』なんて不思議な人間が生まれたんだろうね」
「さあ……俺みたいな凡人にはわかりません」
「うふふ。神威ひなたみたいな化け物と比べたら凡人なのは違いないわね」
「へいへい~次はどうします?」
「何もしない。何もしなくても世界は動く。いずれ――――大きくね」
「いいんすか? そんな予言しちゃって」
「いいのよ。そのために誠心高校ができた。神威朱莉と神楽斗真を輩出できた上に、神威ひなたと神楽詩乃までもが入ってくれたのだから」
「へいへい。どこまでも校長に付いていきますよ~」
「頼りにしてるわ」
校長は夜空に輝く満月を――――睨みつけた。
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