20話-②
次々と赤い猪を見つける詩乃は、迷うことなく向かい、後ろから飛んでくる矢の軌道をいち早く把握して、足に矢が刺さって倒れる猪の弱点を的確に捉えて攻撃を叩き込む。
詩乃やひなだけでなく藤井くんの技量の高さも伺える。
先輩達が強くて後衛だからあのイレギュラーが起きたC3に通っていたというのは、ずいぶんと謙遜だということがよくわかる。
彼自身も高い技量を持ち、前衛と敵の動きを的確に見極めて、動いている魔物の動きを止める絶妙なタイミングに矢を刺す。ここに来るまでも多くの探索者達の動きを目で追っていたが、ここまですごい弓使いは見えなかった。それが藤井くんの強さを証明する。
ひなは周りに異常がないか常に気を配りながら前衛と後衛の動きに気を使う。
狩りを続けて一時間ほどが経過した頃にタイミングを見計らってみんなを大きな岩の陰で休息をとる。
「ふう~動いた動いた~」
「神楽さん……さすがに強いね」
「藤井くんこそ、一発も外さないのすごいわ!」
「うんうん。あの速さで動く魔物を毎回的確に当てて転ばせてるのすごかった」
「えへへ……ありがとう」
みんなに飲み物を渡して、スキル『クリーン』を全員に使ってあげる。
「日向くんのサポート力は本当にすごいな……」
「ふふっ。藤井くん? 日向くんのことは誰にも話しちゃダメだよ?」
「うん。最初からそういう約束だったもの。神威さんや神楽さんではなく、日向くんなのが不思議だったけど、今ではすこし納得しているよ」
ひとまず、みんなが休憩をしている間、スキル『周囲探索』を使って、離れている斉藤くん達の様子も確認する。
そのとき、不思議なことに魔物が一か所に大量に集まっているのが確認できた。
「ん? 詩乃。魔物が一か所に集まってることってあるのか?」
「一か所に? ない……って言いたいところだけど、たまにあるわよ。探索者には範囲攻撃が得意な探索者もいて、魔物をまとめて倒すパーティーもいて、そういうパーティーは魔物を集める場合もあるわね」
「魔法の才能を持ってる探索者のやり方に多いかな。攻撃手段は乏しいけど速く動くのが得意な人と組んでるとことかよく見かけてたね」
「へぇ……パーティーにはいろんな形があるんだな」
「神威さんや神楽さんのように一人で強い人はそういないからね。お互いの苦手をお互いの得意でカバーするパーティーが大半だよ」
特別教育プログラムでも似たことを教わった。ポーターだってその中の重要な役目でもある。
それにしても集まってる魔物が一向に減る気配がないな……?
「日向くん? どうしたの?」
「魔物が集まってるんだけど、一向に減る気配がなくて」
「そんなこともわかるの!?」
藤井くんが目を丸くして驚く。
詩乃もその気になればわかるし、できる人はできると思うんだけどな。
いつもだと人が少ない場所ならイヤホン型耳栓を外すのだが、ここでは人が多いからなのか外していない。
もう少し集中してみると――――魔物達の間に人の気配がするが、何やら動きが鈍い。
「っ!? まずい!」
考えるよりも先に体が動いた。
「日向くん!?」
後ろから驚くみんなの声。しかし、俺は足を止めることなく走り抜けた。
いくつもの大きな岩を通り抜けた先にあったのは、赤い猪の群れ。十匹やそこらの数ではない。数えられないほどの魔物が赤い波のようにうねうねと一体となり動いている。
そんな中には魔物に踏まれている探索者達の姿が見える。
急いで魔物の群れに飛び込んで探索者達の下に急ぐ。潜りながら手当たりで蹴り飛ばす。
幸いにもスキル『速度上昇・超絶』と『武王』のおかげで赤い猪よりは速く動けるから、難なく蹴り飛ばしながら進む。
無我夢中で探索者達のところに着くと、全員が全身に生々しい傷を負っていて、危篤な状態なのがわかる。
ダンジョンに潜れない時期があったのでイレギュラーで使い果たした『ポーション』が悔しい……。
急いで彼らを背負ってその場から離れる。
高く飛び上がり周りを見ると、大勢の探索者達が群れを見つけては逃げ始めていた。
その中に――――斉藤くん達のパーティーも見かけられた。
抱きかかえた探索者四人を群れから離れたところに運んだとき、ちょうどタイミングよく詩乃達が合流してくれた。
「日向くん!」
「詩乃! みんなケガしているんだ!」
「私、緊急用ポーションを持ってるから!」
「私も!」
詩乃が自分のマジックバッグからポーションを取り出し、ひなも取り出して探索者達に振りかけてくれた。二人とも二本ずつ使い四人の命を何とか助けることができた。
「それにしても魔物があんなに集まるなんて……」
「パーティー構成的に三人が魔物を集めて、魔法で一気に倒すパーティーだったのかな。集めすぎたのかも」
探索者達を助けることはできたが、集まった魔物達が消えるわけではない。
百体近い魔物が群れとなり、未だ探索者に襲い掛かろうとしている。
群れに気付いて素早く逃げた探索者達だったが、斉藤くんの四人パーティーだけは何故か逃げることなく、むしろ立ち向かっていた。
「っ!? 向こうに戦おうとするパーティーがいる! そちらに援護に行く!」
「わかった! こちらもすぐに追いかける!」
急いで斉藤くんのパーティーのところに着くと、前衛三人が猪の群れに戦いを挑んでいた。
――――あのままでは全滅し兼ねない。
戦いが始まって流れてくる猪の群れに前衛の三人が突撃されて吹き飛んでいく。
「みんな!!」
当然、次のターゲットは斉藤くんになる。
次の瞬間、彼の前に一人の男が立つ。
「えっ……? 貴方は……」
「ひとまず下がりなさい」
「は、はいっ!」
俺もちょうど間に合って男性と鉢合わせになった。
「来たか。鈴木日向」
「先生……どうしてここに?」
「話はあとだ。今は魔物の群れを何とかするぞ」
「はいっ! 俺は三人を救出します!」
「いいだろう」
特別教育プログラムで俺にアドバイスをくれた先生。ボサボサ髪にやる気のなさそうな緩い表情の先生は、今は正反対の表情を浮かべている。戦いを目の前にしている戦士の顔だ。
先生の合図に合わせて飛び出し、倒れている三人の男子生徒達を抱きかかえてまた遠く離れた場所に置く。
「鈴木くん!?」
「久しぶり。メンバーはこちらに置いておくよ。ってあれ? みんなも久しぶり」
「よお!」
意外というか、特別教育プログラムで俺も組んだ三人の男子生徒達がいた。
「こちらの三人が気を失っていて、守ってもらえるか?」
「任せておけ。先生に言われてここに来てるんだ。ここは命に代えても守るから安心しな」
「ありがとう」
どうして彼らがここにいるのか俺にはわからないけど、協力的な彼らにあとは任せて大丈夫だと思えた。
急いで先生のところに合流する。先生の武器は、見た目からは想像できないような巨大な剣を振り回していた。
「先生。後方に預けてきました」
「よくやった。鈴木。少しの間、魔物の注意を引けるか?」
「はい!」
すぐに先生と入れ替わり、猪を奥の方に蹴り飛ばしていく。
後方から凄まじい気配が感じ取れて、ちらっとみると先生が握っている巨大剣に青赤色に輝き始めていた。
「鈴木! 横に跳べ!」
「はいっ!」
数十秒間魔物の注意を引いて横に跳ぶと、俺が立っていた場所をも飲み込む凄まじい斬撃が放たれて魔物を飲み込んでいった。
たった一撃で百体はいた魔物が半数以上壊滅した。
藤井くんが言っていた広範囲攻撃のために魔物を集めて倒す意味がわかった気がした。
「日向くん!」
「詩乃! 先生が助けに来てくれたんだ」
「そっか! 私達も参加するね!」
「よろしく! 先生、俺達のパーティーも参戦します!」
「おう!」
前衛を先生と詩乃、中衛をひなと俺、後衛を藤井くんの五人で戦い始める。
初めてだというのに、先生の息の合った動きには驚かされるが、それだけ多くの経験をした歴戦の探索者ということだな。
残った猪もあっという間に倒していき、最後に一体まで油断することなく倒した。
「ふう~終わった~」
戦闘が終わっても先生の鋭い目は変わらない。
俺も『周囲探索』で斉藤くんたちを見ると――――三体の猪が彼らに向かって猛ダッシュをしているのが見えた。
「っ!? あ、危な――――」
そのとき、先生が俺の前に立ち止まった。
「先生?」
「見てな」
彼らに向かっている猪をいち早く見つけたのは、他の誰でもない斉藤くんだった。
「猪が三体!」
「「「りょうかい!」」」
意外というか、三人は斉藤さんの声に従って戦闘体勢を取った。
「えっ?」
「指示の続きを!」
「わ、わかった! 前衛二人と後衛一人……敵は突進型魔物三体…………敵は目の前の相手を狙うんだ! 右二体を一人で注意を引いて右側に留めて! 左一体を後衛と一緒に倒して、残り右二体を後ろから援護するよ!」
「「「りょうかい!」」」
「動いてると的が狙いにくいから左の一体を留めるときは、距離を取り過ぎないようにするといいかも!」
「あーいよっ!」
戦いが始まり、斉藤くんの指示通りに動く前衛。後衛の弓使いの生徒も焦ることなく、一呼吸置いてから矢を取り出し構えて放つ。
無駄のない攻撃で素早く一体目を倒してすぐに合流。しかも後ろを向いていることもあって、さらに追撃がしやすくなって一瞬で三体の猪を倒すことができた。
「ひゅ~さすがだな」
「やべ! 楽しい!」
「いえい~!」
三人はそれぞれハイタッチをする。
ああ……パーティーってああいう感じなんだな。
次の瞬間、彼らは今度は斉藤くんのところに向かう。
「斉藤! 右手を上げてくれ!」
「えっ!? こ、こう?」
「おう!」
それから三人は順番に斉藤くんの右手とハイタッチをする。
「やるじゃん! ナイスな指示だった!」
「え、えっと……ご、ごめん。偉そうに……」
「おいおい。お前の指示のおかげであんなにあっさり倒せたんだぞ? 自慢じゃないが俺達が三層で戦えるなんて思いもしなかったんだから! マジでありがとうな!」
「っ!?」
斉藤くんが拳を握りしめる。
ああ……俺もメンバー達に認められた日のことを思い出す。
一人で悩んでダンジョンに潜って寮に戻るとひなと詩乃が夜遅くにも関わらず、ずっと待っていてくれた。
きっと、あのときのように、自分がパーティーメンバーとしていていいんだと知ることができたように、斉藤くんも知ることができたんだと思う。
「なあ。斉藤。俺達と組まないか?」
「へ? ぼ、僕なんか……と?」
「おう! 実はな。俺達、ポーターを探していて、できれば指示を出してくれるポーターを探していたんだ。それで先生に相談したら、いい候補がいるって、見せてやるって連れてこられたんだ。最初は鈴木くんかなと思ったけど、彼はもう氷姫のパーティーに入ってるって知ってたら。すぐに斉藤くんのことだってわかったんだ。なあ! 俺達と一緒に探索者しようぜ!」
他の二人からも「頼むよ~」と声を掛ける。
「あ……あ……ど、どうして……指示をだしてくれる……ポーターがいいんだ?」
「ん~実はさ。ポーターってめちゃいらないじゃんって思ったんだけどさ。特別教育プログラムで鈴木くんに指示されてな。それで一瞬で先輩に勝てたんだ! それから先輩にパーティーについていろいろ教えてもらえて、誰よりも後ろでサポートするからこそ一番指示役に適しているのがポーターだって教わったんだ! さっきの戦いでもお前の指示は本当によかった! 命を預けてもいいと思えたんだよ!」
「っ!?」
次第に斉藤くんの両目に大粒の涙が浮かぶ。
「……うん。僕も探索者になりたい。鈴木くんのところが誰よりも先に先輩に勝って……みんなで話し合うパーティーがすごく羨ましかった! だから――――やらせてください! 僕もパーティーメンバーになりたいです!」
「やったぜ! 大歓迎だ!」
四人が喜びの瞬間を迎えたそのとき、気絶していた斉藤くんの元メンバーが起き上がる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます