5話-③

 みんなで他の魔道具を見回したが、浮かれた妹は微笑ましくてそれどころではなかった。

 他にアミューズメント施設を回ったり、凛と一緒にみんなでプリクラを撮った。

 以前ひなと詩乃と先に撮ってしまったからな。これで妹も笑顔で許してくれた。うん。笑顔でね。最後に凛と二人だけのプリクラがなかったらきっと笑顔はなかっただろう。

 お昼はひな達のたっての希望でファミリーレストランで食べる。俺も妹も普段は母さんのご飯や弁当を食べるから中々ファミリーレストランはこない。俺も地元では冷たい視線が集まることもあり、中々来れなかった。だからとても新鮮な気持ちで来れる。

 藤井くんも似た感じのようで、いつも食堂や自炊ばかりだから楽しみという。

 やってきたファミリーレストランでテーブル席に案内され、五人でそれぞれ好きなものを頼もうとした――――が、藤井くんの提案で「メニューに載っている商品、全部ください!」と笑顔で言う彼に、店員はものすごく困った笑顔を浮かべた。

 そのおかげでテーブルいっぱいに並ぶ全ての食べ物をみんなでシェアする。

 それぞれ好きなものを頼むのもいいが、こうしてみんなでいろんな料理をシェアできるのも楽しい。行ったことはないがバイキングやビュッフェというスタイルがあるらしい。きっとこんな感じなのだろう。

 みんなでワイワイと楽しそうに食べながら、次々とパクパク食べる藤井くんはさすがというべきだな。

 食事が終わりショッピングモールを後にして帰路につく。

 そのとき、俺達を囲む男達がいた。

 大柄の男達四人。見た目から柄の悪そうな雰囲気があり、卑猥な笑みを浮かべている。

「そこの可愛い子ちゃん達~そんなつまらなさそうなガキどもなんかより、俺達と遊ぼうぜ」

 恵蘭町は田舎なのもあり、駅前に来れば大体の人の顔を覚えたりする。

 とくに若者となるとある程度顔見知りが多かったりするが、彼らは一度も見たことがない。

 連休だからどこから遊びにきた連中だろうか……? それに見た目だけじゃなく、どこか探索者としての力も伝わってくる。

 昔はわからなかったけど、俺も探索者になったからか、相手が探索者として活動している気配みたいなものを感じ取ることができるようになった。

 例えば、母さんも探索者になろうと思えばなれるが、探索は行っていない。学生の頃や俺達を産む前は探索者としてダンジョンに潜っていてレベルも上がってるかもしれないけど、現在は探索者の気配はしない。

 そのように相手の強さではなく、いまダンジョンに通っているかどうかの気配からして、彼らは今でもダンジョンに潜っているのがわかる。

 詩乃は怖い表情で彼らに対峙しようとしたが、それより先に彼女達の前に立つ。

「おいおい~そんな細身で俺達の相手をするってか? ああん? ダンジョンには怖い魔物なんてうようよいるんだ……てめぇみたいなガキに少し世間というものを教えてやるよ!」

 そう言いながら迷わず太い腕を振り下ろす。

「お兄ちゃんっ!」

 心配する妹の声が聞こえるが心配ない。

 彼が言った通り、ダンジョンには怖い魔物がたくさん出現する。ダンジョンに入って死にかけて、あのティラノサウルスとの戦いで多くの命が亡くなったことも経験した。

 藤井くんが守った探索者達が魔物の絶望に晒されたのも見た。

 だからこそ、彼の殺気はあまりに――――甘すぎる。

 振り下ろされる腕を、左手で引っ張り、右手で男の腹部を叩き込みながら後方に高く吹き飛ばす。俺よりも大きな体が宙を舞い、後ろに飛んでいく。

 その様子を見ていた相手の残り三人が呆気に取られているが、妹達を守るために先に攻撃した彼らに仕掛ける。

 以前、詩乃から俺が凱くんを殺そうとしたなんて言われたのは今でも覚えている。だから常に対人戦はスキル『手加減』を発動させる。

 人体にいくつもあるツボを攻撃して一撃で全員を気絶させていく。

 これもお爺さんとの稽古のおかげで、武術がより強力に使えるようになった。

 相手がお爺さんのときは、さすがに強すぎて試せなかったが、彼ら相手なら効率のいい攻撃を叩き込むことができる。

 一人、また一人、地面に倒れていく。

 地面に横たわっている男達四人を確認して、念のため全員気を失ったのかしっかり確認する。

「さて、この人達はどうしたらいいんだろう……?」

「お兄ちゃん~! 今のすごく――――かっこよかった!!」

 キラキラした目をした妹が興奮気味に声を上げた。

「日向くん。ちゃんと証拠動画は撮っておいたし、ちゃんとお巡りさんに通報もして、この場所も送ったからこのまま放置して大丈夫だよ~」

 そう言いながらスマホを見せてくれる詩乃は、ピースサインをする。

「さすが詩乃だ。ありがとう。助かった」

「ふふっ。日向くんが真っ先に体を張るからびっくりしちゃった」

「こんな人達を相手にひなや詩乃が手を出すまでもないと思ってな」

 俺が手を出さなくても二人なら余裕で退くことができただろう。二人が投げ飛ばす姿が容易に想像できる。

「お兄ちゃん、本当に強くなったんだね!」

「あはは……レベルは上がってないけど、これくらいの連中なら何とかなるかな?」

 ご機嫌になった妹が俺の右腕に抱きついてきた。

「それにしても、白昼堂々とあんなに強引に声を掛ける探索者っているんだね?」

「そう言われてみればそうだな。俺も初めてみたけど、詩乃達は見たことあるか?」

 ひなと藤井くんは首を横に振る。

 ただ、詩乃だけは苦笑いを浮かべた。

「私は何度かあるかな。いわゆるナンパってやつだね。ひなちゃんも駅前に行ったら、ひっきりなしにナンパされると思うよ?」

 詩乃の声でひなを見ると、ひなは――――初めて会った時のような、冷たい目をしながら、倒れた男たちを見下ろしていた。

「ひな……?」

 俺の呼ぶ声に、ひなはすぐに笑顔になる。

「私はすぐ家に帰っちゃうから。中学生のときは同じ学校の男子生徒から告白とかされたことあるけど、あそこまで強引な人はいなかったかな」

 ひながSランク潜在能力なのは周知の事実だったんだろうし、強引に手をかけて凍らされるかもしれないからね。俺には当然のように思えるな。

 やっぱり可愛い女子は声を掛けられることも度々あるんだな……。

 俺達は地面に転がってる男達を放置して家に戻った。

 詩乃のスマホに彼らを逮捕したという連絡が入り、彼らが先に俺に攻撃したのをばっちり動画に撮ったのが証拠となり、こちらには何もお咎めなしだった。

 探索者が力任せに誰かに暴力を振るった場合、二度とダンジョンには入れなくなる。

 日本のダンジョンの全てには検問所が設置されているし、警備の軍人さんが常にいるので彼らはしばらくダンジョンには入れなくなるはずだ。

 母さんが帰ってくると、妹が今日あったことを報告しながら一緒に夕飯の準備をする。慣れている藤井くんも手伝って、リビングでは俺とひな、詩乃が待ちながらテーブルを拭いたり、箸を置いたりする。

 厨房の奥からずっと興奮しっぱなしの妹の声が聞こえてきて苦笑いがこぼれてしまった。

「凛ちゃん。すごく嬉しそうだね」

「今日はかっこいいお兄ちゃんにいろいろやってもらったからね。ねえ? お兄ちゃん~」

「あはは……妹に少しでもかっこいい兄になれたのならよかったよ」

「日向くん。すごくかっこよかったよ」

「うんうん! いつもの日向くんに戻った感じ!」

 こう面と面と向かって褒められるとくすぐったいものだな。

 完成した夕飯がテーブルに並び、またテーブルにいっぱいの料理が並ぶ。いつも一人前ずつだから慣れないが、そこに藤井くんの姿がいれば不思議となれるものだ。

 母さんが腕によりをかけて作ってくれた美味しい夕飯は、レストランの料理よりもずっと美味しくて、いつもより多く食べてしまった。


 夜も少し更けた頃、寝る支度が終わってリビングでくつろいでいたとき、テレビでニュースが流れた。

「本日、Cランクダンジョン3で起きたイレギュラーから二週間が経過しました。これより、政府や各関係者の黙とうが始まります。視聴者の皆様も一緒に黙とうをお願い致します」

 あの惨劇を思い出したのか、藤井くんが自分の両腕を抱きかかえる。

「――――黙とう」

 アナウンサーに合わせて俺達も黙とうをする。きっと俺達以外にも当事者じゃない人々も、多くが黙とうを捧げているはずだ。

 もう二度とこのような惨劇が起きませんように……。

 黙とうが終わり、ニュースに政府の有名な人々が映る。

 その中に一際目立つ二人がいた。

 軍服姿の二人。一人は夜でも燃えるかのように目立つ真っ赤な長い髪の女性。もう一人は大柄で歴戦の戦士のようなオーラをかもし出している男性。二人とも画面越しですらわかるほどの強者の雰囲気。

「あ、お姉ちゃん」

「バカ兄……」

 ひなと詩乃の口から同時に出る。

「たしか二人とも姉さんと兄さんが将軍だったよな?」

「そうだよ。こっちがうちのバカ兄。こっちがひなちゃんのお姉さん」

 なるほど…………ひなの姉さんってひなと似てるかと思ったけど、全然違う。ひなはお母さん似なんだけど、姉さんの方はお父さん似なんだな。服からでもわかるくらい筋肉もあるし、外で並んでて姉妹と言われてもわからないな。それに髪色も全然違うな。

 詩乃の方は細身の詩乃とは真逆で兄さんの方がひなのお父さん並みの筋肉質な体なのがわかる。体も大きいし、そこにいるだけで存在感を放っている。

「ほえ~ひぃ姉のお姉ちゃんで、しぃ姉のお兄ちゃんなんだ~」

「あまり似てないでしょう~」

「うん!」

「ふふっ。お互いにお母さんとお父さん似だからね。ひなちゃんところもそうっぽいね」

「うん。でもすごく優しいお姉ちゃんだよ。怒ると怖いけどね」

「ふふっ。それにしても髪色から推測するに……炎系かな? ひなとは真逆なんだね?」

「うん。お姉ちゃんはそれも残念がってたけどね。できれば私も炎系の力に目覚めてほしかったみたい」

 ふと妹を見つめる。

 俺は『レベル0』だけど、妹には何かしらの才能があるはずだ。あまりそういう話はしていないから、妹の潜在能力がどの程度なのかはわからない。

 もし俺に似た力を目覚めさせたら、俺が何か教えることもできるのだろうか? それとも俺とは真逆の力を目覚めさせて大活躍するのだろうか?

 視線に気付いたのか「うん?」と首を傾げる。

 それはともかく、妹が自分の夢を叶えるような潜在能力だったらいいなと思う。

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