3話-②

 教室に入ってすぐに笑顔で手を振ってくれるひな。

「次の授業は自習時間だって。どうやら一年全部そうみたい」

「明日から連休だからかな……?」

「うん。えっとね? クラスメイトが話していたのを聞いたんだけど、別クラスの人もクラス移動で自習していいみたい」

「別クラスか……」

「それで……詩乃ちゃんにも伝えてくれたら、一緒に過ごせるかななんて思って……」

 少し恥ずかしそうに話すひなに、内心少し驚いた。

 彼女がそういう風に何かをわがままのように言うことはあまりないから。

「いいんじゃないか? 伝えてみるよ」

 すぐに念話を使って顔の見えない詩乃に【ひなから次の授業は一年生全員自習になって、別クラスで一緒に自習してもいいらしいけど、来る?】と伝えると、三秒もしないで入口が開いて詩乃が入ってきた。

 めちゃくちゃ速いな……。

「ん? 貴方って……」

 入った詩乃はすぐのところに座っている凱くんに反応する。

 数日骨折で休んでいたこともあり、俺も彼を見るのは久しぶりだ。

「ちっ」

 入った詩乃と目が合って視線をずらす。

 彼を通って詩乃がこちらに向かってくる。

 その間、クラスの男子生徒達の視線が詩乃に釘付けにされていた。

「まさか誘ってもらえるなんて思わなかったよ~」

「いらっしゃい。詩乃ちゃん」

 クラスの後ろに余っている椅子を持って俺の机の横に付ける。俺の机を中心に横に詩乃、前にひながこちらを向いて座る。

 何故こちら向きなんだ……?

「日向くん? そういえば一つ疑問があるんだけど」

「ん?」

「明日からみんなで旅行に行くでしょう?」

「そうだな」

「なんか藤井くんだけ仲間外れにした感じしない?」

 それは俺も思っている。ただ、まだ仮の加入ということもあり、藤井くんを誘うのは今後を考えたら控えようと思っていた。

「ひなと詩乃の意見を聞きたいけど……俺は藤井くんなら信頼できる人だと思ってる。でも、特別教育プログラムでも学んだけど、パーティーは相性も重要で藤井くん的に俺なんかと組みたくなくなる可能性だってあるから……」

 すると二人は目を丸くしてお互いに見つめ合う。

「日向くん? それは心配しなくていいと思う」

「うん。多分問題ないよ」

「えっ……? あはは……そうだよね。最初からあまり期待してないだろうから……」

 レベル0と一緒にパーティーを組むって最初から期待していないよな。俺は少し傲慢になっていたのかもしれない。

 ひなも詩乃も優しいからこういってちゃんと指摘してくれるのはありがたい。

「ふふっ。日向くん? 私としては日向くんが一緒なら藤井くんと一緒に行ってもいいかな? 二人っきりはちょっとあれだけど……」

「私も大丈夫。日向くんが信頼できる人なら信頼できるから」

 二人とも……ありがたい。こんなに優しいパーティーメンバーに恵まれて嬉しい。

「でも急に誘って大丈夫なの?」

「それもそうだな。今日授業が終わったら誘ってみるよ。さすがに授業始まってから廊下をうろつくのは良くないだろうから」

「そうね。私が行ってもいいけど、会話がままならないし……」

 むぅ……と言いながら俺の机に伏せる詩乃。それを愛おしそうに見つめるひなが頭を撫でる。

 これを目の前で見れるって……幸せだな。

 当然だが、クラスの男子生徒達からの視線が痛い。

 自習という自由時間をダラダラと過ごして、授業が終わり詩乃は帰っていった。

 ホームルームで担任の先生から「連休だからといって羽目を外しすぎないように」と言われた。

 初めての連休を迎えてクラス中は気が抜けた声と嬉しさの声が混ざり合う。

 いつもなら詩乃が来るまで待つのだが、ひなが先に詩乃を迎えに行って、俺は藤井くんのクラスに向かう。

 うちのクラスとあまり変わらない光景が広がっている。

 その中に藤井くんが鞄を片付けている姿が見える。

 一つ気になるとするなら、周りはみんなグループに分かれていて、藤井くんはグループのようなクラスメイトと話したりしない点だ。

 どこか昔の自分のようで、今でもひなと詩乃がいなければ誰とも話すことなく、一人で黙々と片付けて帰ることになるだろう。

 片付けが終わるまで入口で待っていると、藤井くんが出てくる。

 俺に気付いたのか目を丸くして小走りでやってきた。

「日向くん? もしかして僕を待ってたの?」

「ああ。話したいことがあって、少しいいか?」

「もちろんだよ。このまま帰るところだったから」

「じゃあ、寮まで送るよ」

「ありがとう」

 藤井くんと並んで寮まで向かう。

「明日からゴールデンウイーク期間中に実家に戻るって話したと思うんだけど」

「うんうん」

「もしよかったら藤井くんも一緒に来る?」

「えっ……?」

 一瞬顔を赤らめてポカーンと俺を見つめる。

「実はさ。いろいろ事情があってひなと詩乃も来ることになったんだ。せっかくなら藤井くんも誘ってみようって話になってさ」

「そ、そっか。そういうことね。びっくりした」

「あはは……急に誘われても困るよな」

「それはいいんだけど…………いいや。僕は全然いいよ?」

「そっか! それはよかった。旅費はこちらで負担するからさ」

「僕の分はちゃんと出すよ! 生活費とか結構余らせているから大丈夫」

「そう? もしのときは言ってな。ひな達のおかげでパーティー資金はたくさんあるから」

「わかった! じゃあ、僕はこのままチケットでも買いに行くよ。明日何時出発のチケット?」

 『異空間収納』に入れておいたチケットを、ポケットから取り出すふりをして見せる。

「明日の朝八時ちょうどに出発だな」

「どれどれ……わかった。隣の席空いてるかわからないけど、買ってみるよ」

「ああ。よろしくな」

「こちらこそ! 一週間の旅支度もしておかないと……」

「藤井くんってマジックバッグ持ってるよな?」

「うん。持ってるよ」

 それなら『異空間収納』を使うまでもなさそうだ。

 念のため食べ物や日常品をもう少し買い足しておくか。

 寮まで向かっていたが方向を変えて一緒に校門に向かう。

 多くの生徒が玄関に立つ絶世の美女二人に目を奪われるのが遠くからでもわかる。

「やっぱり二人ってすごい人気ね」

「美人だからな。二人とも」

「ふふっ。美人さん二人とパーティー組んでる日向くんってすごいね~」

「いやいや、藤井くんだってこれからメンバーだろう?」

「みんなの期待に添えられるように頑張るよ」

 校門に着いた。

「神威さん。神楽さん。今回の誘いありがとう」

「「よろしくね~」」

 挨拶を早々にひなの家の反対側の駅に藤井くんは向かい、俺はひなと詩乃と一緒に神威家に向かった。

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