13話-②

「そういえば、藤井くんの家って、ベルナース魔道具屋さんの家だったよね?」

「うん。そうだよ。お父さんの方がね」

 そういや、ひなの神威家も詩乃の神楽家も財閥の家だったよな。

 財閥という名前で呼ばれるくらいだから、家も大きい。それだけ彼女たちの家がお金持ちなのがわかる。

 たしか藤井くんの家もお店を経営していると聞いていたけど、まさか財閥だったとは驚きだ。

「財閥ってお互いに顔合わせとかあるのか?」

「うん。あるよ~パーティみたいなものはあるけど、幼い頃は参加してたんだけどね。こうなってからは……」

 詩乃は自分のイヤホンを指差す。イヤホンの形をした耳栓で、耳を塞がないと生活もままならないからな。

 今では通常のイヤホンでもなく、魔石を使う魔道具としての耳栓を付けないと、聞こえる音を防ぎ切るのも難しいみたい。

「僕もあまり行かなかったかな? お父さんの藤井家はそうだけど、僕の母の方は財閥とかではないからね。腹違いの兄さんたちはよく行ってるみたいだけどね」

「兄弟たくさんだったよな?」

「うん! 兄が三人と姉が一人だよ~」

 ひなが用意してくれる紅茶を飲みながら、ゆっくり時間を過ごす。

 そういや、全員姉弟がいるよな。ひなにはお姉さんが、詩乃にはお兄さんが、藤井くんにはお兄さんとお姉さんか。

 ふと妹のことを思い出した。

 先週起きたイレギュラーもあって、俺の無事を伝えるために妹や母さんには連絡を取っている。元々俺のわがままで二人に頼りたくなくて連絡を取ってなかった。

 今では仲間もできて、ちゃんとダンジョンにも通えるくらいには強くなれたと思う。

 これならもう頼りっぱなしにならず、心配をかけることもないだろう。

「日向くん? どうしたの?」

 ひなが不思議そうな表情で俺を見つめる。

「藤井くんの兄弟を聞いていたら妹のことを思い出してな」

「そういえば妹がいるって言ってたもんね」

「ああ。一つ下の妹で、少し詩乃に似てるかな」

「えっ? 私?」

 意外そうに自分の指差して驚く詩乃。こういうところもどこか妹に似ている。詩乃と知り合ったばかりのときにも妹に似てるなと思ったことは多々あった。

「悪い意味じゃないぞ?」

「それは知ってるわよ。日向くんが誰かを悪く言うなんて聞いたことないもの。日向くんの妹ちゃんか~会ってみたいな」

「うちの妹、可愛いからな」

 すると三人ともポカーンとして俺を見つめる。

「ん? みんなどうした?」

「なんというか……日向くんが誰かを可愛いっていうのが珍しくて。妹ちゃんのことは話さないから意外だなって」

「そんなに話していなかったかな……そう言われるとそうかもしれないな。今は離れて暮らしているのもあるからな」

「連絡とかもあまり取らないようにしてるって以前言ってたよね?」

「ああ。妹に心配かけすぎると悪いし……」

「…………それってさ。逆効果じゃないかな?」

「逆効果?」

「うん。たぶんだけど、連絡しない方が心配だと思うよ? 私は兄の心配なんて欠片もしていないけど、日向くんの妹ちゃんって心配性ならなおさら心配してそう」

 ひなと藤井くんもそれに同調するように頷いた。

「イレギュラーの件で家族と連絡を取らないといけなかったから、それからまた連絡取るようになったし、週末には実家に戻るしな」

 今週の授業が終われば、週末から十日間の連休が待っている。

 家計のことを考えれば、往復料金がもったいないと思うところだが、母さんや妹に無言の圧力で帰ってくるように言われているし、俺としても久しぶりに実家に帰りたい。

 それに、ひなたちのおかげでダンジョンの素材でずいぶんと稼がせてもらった。

 俺から二人にできるのは能力を抑えて上げるくらいしかできないのに、こんなにも貰ってばかりで何とかもっとたくさん返したい。

 ふと、ひなと詩乃が少し寂しそうな表情を浮かべているのに気付いた。

「そっか……そうよね。ゴールデンウイークは実家に戻るのが普通よね」

「詩乃とひなは実家暮らしだもんな。藤井くんも戻るのか?」

「ううん。仮に実家に戻るにしても、今の実家はイギリスにあるから」

「イギリス!?」

 藤井くんは苦笑いを浮かべて頷いた。

「ベルナース魔道具屋はイギリスからだものね」

 神威家も神楽家も藤井家もすごいんだな……。

 外国を身近なもののように話す詩乃、三人とも財閥の子息らしい表情だ。

「僕はゴールデンウイークはダンジョン漬けになるかな~」

「私もダンジョンかな~」

 急にどんよりとした雰囲気になってしまった。

「そういえば、みんなは午後からどうするんだ?」

 話題を変えた方がいいと思って、本来なら午後からダンジョンに入る予定だったのが、入場禁止になってしまったからいけなくなった話題を振ってみる。

 先週は、それぞれで過ごすことにして学校が終わり、三人でひなの家を訪れていた。

 藤井くんに関してはまだちゃんとパーティーを組めたわけではないので、みんなで慣れてから神威家にも招待しようとひなから提案もあった。

「今週もそれぞれかな~? 日向くんはどうするの?」

「担任の先生が特別教育プログラムというのがあるって言ってたから、そこに行ってみようかなと。みんなは行かないのか?」

 どうしてか三人の表情はあまり明るくない。

「ん……僕は遠慮しようかな」

「私もちょっと……」

「私は行ってもね~」

 みんなあまり行きたがらないんだな。詩乃は……まあ、仕方ないけれど。

「そもそも僕は先輩たちのパーティーでいろいろ学んでるから、いまさら初心者の講習を受ける意味はあまりないんだ」

 イレギュラーのときも一緒にパーティーを組んでいた先輩と一緒だったものな。

「先輩たちのパーティーを抜けてよかったのか?」

「抜けるというか、元々僕のヘルプに回ってくれてたからね。僕がいない方が先輩たちとしてもやりやすいと思う。先輩たちはうちの魔道具屋と契約を交わした人たちだから」

「契約……?」

「魔道具屋と専属契約をして、武器を宣伝する代わりに他の魔道具屋の武器を使わないと言う契約だよ。各国でもいろいろあって、ベルナース魔道具屋はかなりのシェアなんだ」

 思っていたよりも藤井家ってすごいんだな……。

「ということもあって、改めてパーティーよろしくお願いします!」

 藤井くんは改まって頭を下げてきた。

 C3の二層まで進んだ彼だが、進行が遅くなっても構わないから同級生とパーティーを組みたいとのことで、俺にパーティーを組まないかと提案してきた。

 それをひなたちに相談した結果、こうして一緒にお昼を食べる関係まで進んだ。本来なら仮パーティーでダンジョンに潜り、お互いに納得した状態でパーティーを組むのだが、入場禁止のせいで遅れている。

 まだ実力を見たわけではないけど、俺よりは強いと思うし問題ないと思う。

「日向くんは特別教育プログラムに参加する?」

「一応行ってみようかなと思う。まだパーティーのこと全然わかってないから」

「ふふっ。それがいいかもね。それにしてもSランク潜在能力を持つ二人と組んでいる日向くんが初心者講習会なんてな~」

「偶然だよ。俺なんかと組んでくれる二人には感謝ばかりさ」

 ちらっと見たひなと詩乃はキョトンとした表情で俺を見つめる。

 お互いに顔を合わせて溜息を吐く二人の息の合った仕草は、姉妹と言っても過言ではない。

 姉妹だとしたら、詩乃の方が妹で、ひなの方が姉かな?

「そろそろお昼休みも終わりだね。戻ろうか」

「ああ」

 藤井くんはここで別れることになる。俺は夕飯を神威家で食べるから、寮で食べる藤井くんとはまた明日の朝会うことになる。

 俺は三人を教室まで見送って、その足で体育館に向かった。


 大勢の生徒が集まっているが、大半が一年生で、上級生が運営を手伝っているようだ。

 ステージの上には入学式でも紹介された生徒会のメンバーがちらほら見える。

 本来ならひなもこの場にいないといけないのでは……? と思いながらも、彼女の能力上仕方ないのかなと思う。

 もしひなの冷気が出なかったら、今頃彼女は誰よりも率先してあの場に立っていた気がする。

 自分ではまだ見たこともない凛々しいひなを想像しながら列に並んでると、一年生の中から俺をちらちらと見る目があった。

「おい……あいつって姫たちの従者じゃん?」

「まじだ。あれか。俺たちを嘲笑いにきたんじゃないか?」

「違いねぇな。どうせ毎日姫たちによくしてもらってんだろう」

「ったく。羨ましいぜ」

 彼らだけじゃなく、何人も俺を邪な視線で見るのがわかる。

 いつの間に……こんな風に見られるようになったんだな。地元に戻ったと錯覚するほどだ。

 そんな中、プログラムの開始の案内がなされて、各々の部門で分かれた。

 部門は『近接部門』『遠距離部門』『魔法部門』『ポーター部門』の計四つの部門である。

 俺は普段なら『近接部門』になるのだろうけど、最近は魔物の解体や二人のサポートをしているので『ポーター部門』になると思う。

 冷たい視線がちらほら注がれる中、『ポーター部門』に立つ。

 この部門は戦闘系の部門ではないのもあり、みんな強そうには見えない。

「これからポーターについていろいろ教えるぞ。教えるのは基本的に二年生の先輩になるからな。それと冷やかしで来たやつがいるなら、今すぐ帰っていいぞ」

 それが誰に向いての言葉なのか、簡単にわかってしまう。ただ、俺は冷やかしに来たわけじゃなく、ちゃんと学びたいと思ってる。

「まあいい。では始めるぞ」

 それからポーターという存在が探索に取ってどれだけ重要なのかを教えてもらった。

 ダンジョンでは魔物を倒すだけが全てではない。中には狩りだけで経験値を獲得してレベルを上げる人もいるというが、それでもポーターなしではすぐに限界がくる。

 それにダンジョンから取れる素材は高く売れる。現に俺は何もしなくてもひなと詩乃が倒してくれた分だけでもあんなに高く売れて、今でも信じられない額が集まった。

 二人が強いからではあるけど、俺なんかでもそこそこ倒せて稼げるから、みんなはもっと稼げると思う。

 となると、一人で全部やるよりはやはり分担の方が捗るはずだ。

 たまたま俺には『魔物解体』というスキルや『異空間収納』があるからいいものの、それがないと考えると結構手間だろうと思う。

 それに、似たことを詩乃が言っていたしな。

 その日から午前中は通常授業、午後からはポーター部門のプログラムに参加し続けた。

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