11話-①
■ 第11話
部屋にノック音が聞こえて、扉を開いたら藤井くんが「やあ」と手を上げた。
入ってすぐに「これ、お土産」と手渡されたのは、紅茶に合いそうなクッキーだった。
早速開いて紅茶と一緒に並べる。
「C3は随分と大変みたいだな」
「やっと一層に慣れ始めたけど、まだまだかな。明日から午後から夕方まで毎日通うことになったよ」
「毎日!? 疲れないのか?」
苦笑いを浮かべた藤井くんは「でもまあ……僕のためにみんな頑張ってくれてるから。僕も頑張りたいんだ」と話した。
どうやら何か事情がありそうだけど、そこは深く聞かないことにする。
「それにしても日向くんは凄く逞しくなったね?」
「そうか? 俺はそんな感じはしないけどな」
詩乃にあれだけ強いと言われても尚、今の俺は強いという実感がない。
みんなみたいにレベルが上がるなら、目に見えて分かるはずなのに、それもないから。
「一つ聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
「うん? いいよ?」
「実はうちのメンバー達がマジックウェポンを使っているんだが、やはりみんなマジックウェポンを使っているのか?」
「あ~それはちょっと違うかも。マジックウェポンって性能によって値段に差があるけど、一番安いものでも百万円はするから、学生で持っているのはかなり限られているね。一年生のときからコツコツお金を貯めて買った上級生くらいかな? それにしても二人とも持ってるんだ?」
「ああ。どれくらいの性能かは分からないけど」
そう話した藤井くんが、腰に掛けていたポーチを開いた。
すると中から、一メートルサイズの弓が現れた。ショートボウといったところだ。
「これは僕が使っているマジックウェポンで、矢がなくても魔石を充填すれば魔法の矢が撃てるものなんだ。小魔石でも百発は撃てるからコストパフォーマンスがいいけど、弓の性能の中では低い部類じゃないかな。でもこれでも結構な値段がするよ?」
「そんな高いマジックウェポンを持っているのか!?」
「あはは……実はうちって魔道具屋を営んでいるんだよ。だから買ったというよりは、僕用のマジックウェポンを作ってもらったんだ」
「なるほどな……ちょっと見せてもらってもいいか?」
「どうぞ」
初めて手に取った武器は、不思議と手に馴染んだ。これも武術スキルのおかげか?
弓を握る部分の上に魔石の装置みたいのが付いていて、そこから矢が生えてくるのか。
「じゃあ、今度マジックウェポン見に行く? 紹介するよ」
「ありがとう。その時はぜひお願いするよ。色んな探索者の武器を見てから相談するよ」
まず購入できるお金を貯めないとな。
「うん。それがいいよ。じゃあ、普段はどうやって戦ってるの?」
「普段は、武術かな? 殴ったり蹴ったり」
「へえ! 珍しいね。それなら武術用の武器でもいいかも知れないね」
「武術用武器?」
「うん。例えば、鉤爪とか、ナックルとか」
そう言われると映画で見た武器が簡単に想像できる。探索者でもそういう武器を使ってる人がいるんだな。
「分かった。それを念頭に置いて見てみるよ」
「うん。ためになったならよかった。色んな武器が揃ってるから日向くんが欲しがっている武器も紹介できると思う」
「ありがとう」
藤井くんが持ってきてくれた美味しいクッキーとポーションで作った紅茶を飲んで、藤井くんは帰っていった。
まさか藤井くんの家が魔道具屋だったとはな……。
部屋の電気を消して、マジックウェポンを買うためにはどうしたらいいかと悩み始めた。
安くても百万円という言葉。今でも買えなくはないが、これはひな達が倒してくれた分だ。
もちろん、パーティーの戦力強化のために使っても彼女達は文句一つ言わないと思うが、最優先は俺の武器よりも母さんへの生活費だ。
ならマジックウェポンのためのお金をさらに稼ぐ必要がある。
明かりが消えた暗い部屋の中、絶隠密を使って愚者ノ仮面を取り出した。
無骨なヘルメットは中が一切覗けない仕様になっている。
全体が黒く、目の部分も赤く色が染まっているだけで中が覗けたり、硝子になっているわけではない。
ゆっくりと仮面を被ると、視界が一気に変わる。全方位を常に見れる感覚は、やはり人間離れした何かを感じざる得ない。
愚者ノ仮面を被ることは攻撃ではないので、絶隠密状態が解除されることもなく、俺は窓を開けてそのまま外に出て窓を閉めた。
仮面を被っていると重力を感じなくなるというか、壁であっても簡単に止まっていられる。
三階なのに、このまま飛び降りられると分かる。壁から大きく飛んで校庭に着地した。
予想通り痛みはなく、そのまま真っすぐ――――E90を目指して走り抜けた。
絶隠密の凄いところは、超高速で移動しても風一つ発生せず、音もなく移動できる。
数分もしないうちにE90に辿り着いた。
中に入ってすぐにフロア探索を行ってボス部屋に向かう。
流れ作業のようにボス部屋に辿り着いたら仮面を外してボスを倒す。
仮面を付けたままだと、魔物が消えてしまうので素材を回収できないからだ。
フロアボスを一撃で倒して素材を回収して、絶隠密が使える六十秒を待ってから仮面を被ってまた走り出す。
それを数時間繰り返した。
すっかり深夜になってしまったけど、素材はかなり手に入ったので満足だ。
もし毎日夜に狩りができれば、もっとポーションや素材を集めることができるんだが……。
不満を言っても仕方がないので、今日はゆっくり眠ろうと思う。
…………もう一回風呂に入らないといけないのか。それは困った。こう風呂に入らなくてもスキルの力で綺麗になれたりできないものか?
《閃きにより、スキル『クリーン』を獲得しました。》
やっぱりスキルさんは俺の味方のようだ。
スキルさんに感謝しながら新しいスキルを使ってみると、無色の泡に包まれ全身を包んでいた不快感が全て消えた。
これなら風呂に入らなくても問題ないか。
まあ……日本人として風呂に入らない日は作りたくないが、こういう場合はいいよな。
そのままベッドに入り、急いで眠って体調を整えようと思う。
《閃きにより、スキル『睡眠効果増大』を獲得しました。》
また新しいスキルを獲得した。
スキルの効果なのか、すぐに眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます