7話-③

 広々とした部屋には豪華なソファがいくつか並び、それぞれに軍人服の人達が座って睨み合っている。

 一番奥の初老の男性と隣に座る初老の男性が話し始めた。

「まだ魔石Δの売主は見つけられないのか?」

「既に数日買取センターに立たせておる。だが、全く接触がないようだな」

「…………よりによって、こんな時にこんな物が見つかるとはな」

 目の前には五センチほどの紫色に輝く魔石が置かれていた。

「おいおい、そんな貴重なモノを外に出しておくな」

「ふん。日本でここより安全な場所はない」

「まぁ、それもそうだな」

「日本ランキング最上位が二人もいることだしな」

 一番遠くのソファーに座った二人の目が光る。

 一人は逞しい体を持ち、鋭い眼光の深緑色の髪を持つ若い男性の軍人。もう一人は、髪が赤く染まっており、顔に大きな傷が目立つ若い女性の軍人だ。

「それで? その無限魔石はどうするつもりだ?」

「今のところ、神威家と神楽家から買い取りたいと申し出があった」

「またその両家か。誰だ? 情報を流したのは」

 その質問に、奥の二人が手を上げた。

「だよな。やっぱりお前らだよな。はぁ…………軍の機密を家族にバラす馬鹿がいるか! 馬鹿野郎おおお!!」

 テーブルを激しく叩いた年配の軍人が二人を睨みつける。

 だが、二人は全く動じない。

「元帥。失礼ですが、我が神威家からの援助をお忘れで? こんな大事な機密は早々に渡してください」

「おいおい、朱莉。それはこちらも同じだぞ? うちの神楽家だって負けてねぇぜ」

「ふん。斗真のところよりうちの方が援助しているぞ?」

「それはただ歴史が長いだけだ。うちだって機密の一つや二つ知る権利はある」

 いがみ合う姿を見た元帥が大きなため息を吐いた。

「元帥。その魔石をどうしてもうちの神威家に譲って貰いたい」

「いやいや、うちの神楽家にもどうしても欲しい」

「一つしかないんだ。うちの方が大事だぞ。お前の所で使い道なんてないだろ」

「はあ!? うちの妹のために使う方が良いに決まっているだろうが!」

「…………お前んところは、耳さえ塞げば何とかなるんだろう?」

「それが大変だってんだ!」

「…………うちの妹は隔離しないと生活もできない。だからせめて屋敷を自由に動ける範囲にしてあげたいんだ。あの魔石があればできるかも知れない。だから我が家が全力で買い取る。いくらかかっても構わない」

「……本気か。朱莉」

「当たり前だ。うちの妹が少しでも楽に生きられるなるなら、私の命くらい安いもんだ」

「はっ! 日本ランキング二位が聞いて呆れるぜー! だが、妹を想う気持ちは本物だ。それでも俺だってこの機会をみすみす捨てる訳にはいかない。あんな魔石が手に入るのはあと何年後か分からないからな」

「じゃあ、勝負するか?」

 赤髪の女の言葉に場が一瞬凍り付く。それに間髪入れず、元帥の怒声が飛んだ。

「お前ら! 待て! 勝負は許さんぞ!」

「「元帥!」」

「お前らが戦えば、必ずどちらかは再起不能になる。それだけは許さん。もしお前らが勝手に勝負したら、この魔石は海の中に沈めるぞ!」

「「くっ…………」」

「もう少しだけ待て。売主がいるってことは、もう一つ手に入る可能性があるかも知れないってことだ。両家に売れるようにするから待っていろ」

「「…………」」

 二人は睨み合った。

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