6話-⑤

 すっかり空が暗くなり始めて、寮に帰ってきた。

 玄関口で俺に向けられた声がする。

「おかえり~」

「ん? ただいま。ダンジョン帰りか?」

「そうそう。今日はヘルプを頼まれたからね」

 少し制服が汚れている藤井くんが、丁度寮の玄関先で挨拶をしてくれた。

「日向くんはあまり汚れてないね。今日はダンジョンには行かなかったのかい?」

「一応行ったんだけど、色々あってそれ程苦戦はしなかったよ」

「そうなんだ~日向くんだからまた女子に巻き込まれてそうだね~」

「えっ!? あはは…………」

「図星なのかな? ふふっ~」

 藤井くんに図星と言われてハッとなる。俺ってそんなに表情に出るのか?

 寮母さんに挨拶をして、部屋に戻り、いつもの洗濯室にやってきた。

 もちろん藤井くんも洗濯室に来て、一緒に洗濯をする。

「藤井くんはどこのダンジョンに行ってたんだ?」

「僕はD86に行ってたよ」

「D!? 凄いな」

「あはは~ヘルプだからね。僕はあまり強くなくて、メンバーが豪華だった感じだね」

「仮にそのメンバーが強かったとしても、そこに追いつけるだけの実力があるからだと思う」

 少し照れ笑いをする藤井くん。

「そういう日向くんはどうだったの?」

「俺はE117に行ってきた。ここら辺で一番の初心者ダンジョンときいたからな」

「そうだね。でもフロアボスは強いから気を付けてね?」

「そ、そうか? まあ、たまたまパーティーを組んでくれた人が強くて倒せたよ」

 目を大きくして驚いた藤井くんは何かを考え込むと、「うんうん」と頷いた。

「そういえば、探索者で亡くなる人も多いと聞くけど、どれくらいいるんだ?」

 俺の質問に柔らかい表情になった藤井くんが口を開いた。

「えっと、探索者って大きく分けて二種類あるのは知っている?」

「二種類?」

 探索者ってダンジョンに潜る以外に何かあるのか?

「探索者って、大きく分けて、決まった場所を回る保守組と、新しい階層を目指す攻略組に分かれているよ。最初はみんな自分なりの攻略を進めるけど、基本は踏破された階層を回るので保守組というイメージかな?」

 なるほど……保守組と攻略組か。

「保守組は基本的に死亡率は高くないよ。事前情報があるからね。でも、たまに出るイレギュラーがあるから、それがなければほぼ0なんだ。でも攻略組はそうはいかない。新しい階層を目指している彼らは、常に死と隣り合わせと言われているんだ」

「ふむ。一つ疑問があるのだが、そんなに危険なら攻略組である必要はあるのか?」

「そう考える人が圧倒的に多いだろうね。でも攻略組には攻略組なりの良さもあると聞くよ」

「攻略組なりの良さ?」

「ほら。そのうちの一つがあれとかね」

 藤井くんは洗濯室の窓の外を指さした。

 ちょうど窓の外で、大きな飛空艇が空を飛んでいる。

「探索ランキング――――そのランキングは探索者としての活躍がポイントとなり、ランキングに名前が載るんだ。トップ10ともなれば、国からは破格の待遇も受けられるけど、それ以上に世界の人達から注目を集められるからね」

「ランキングか…………」

「えっと、これは秘密なんだけど、誰にも言わないでね? 実はランキング上位に入ると、特別な報酬があると言われているよ」

「特別な報酬?」

「うん。人間では絶対に成しえない特別な効果を持つ報酬が貰えるそうだよ。それが目的で探索ランキングで一位を取るために頑張っているんだと思う」

 少し藤井くんの表情が暗くなる。

 秘密という事は、何かしら彼自身があのランキングに関わっているのだろう。それを詳しく聞くつもりはないけど、いつか聞けたら聞いてみたいと思う。

「でもね。今は大変な時代になっちゃったね」

「大変な時代? 何かあったのか?」

「うん。とんでもない事件があって」

 宏人が視線を飛行艇に移して、続けた。

「ほら。一位の人。アンノウンって呼んでいるんだけど、その人のおかげでランキング一位が誰も超えられなくなってしまったんだよ」

 そういや、この前も名前がない人が一位になったって騒いでいたものな。

 丁度洗濯も終わり、藤井くんに感謝を伝えて部屋に戻った。


 ◆


 先々週獲得したスキル『異空間収納』。

 今はマジックリュックの代わりにしているスキルだが、まだ検証が途中だった事を思い出した。

 その検証というのは、最初に潜ったダンジョンで獲得した素材の中に、ティラノサウルスと兎魔物と子豚魔物の――――――肉が入っている。

 ダンジョン入門書に書かれていたけど、魔物にはいろんな種類があるが、動物型魔物の場合、その肉を食べられると書かれていた。

 強い魔物になればなるほど、その素材自体が強くなり、中でも肉類はより美味しくなるため、高額で取引されるという。

 今回の検証の内容は、異空間に収納していた肉類がどうなるかということだ。

 異空間からそれぞれの肉を取り出してみると、昨日獲ったばかりのような新鮮さだった。

 つまり、異空間に収納した素材は時間が経過しないか、劣化がものすごく遅くなると思われる。



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 【新規獲得スキルリスト】

『魔物分析・弱』『手加減』

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