6話-①
■ 第6話
次の日。
入学して二度目の週末になった。
平日もダンジョンに潜れるんだけど、今週はずっと神威さんの訓練に付き合ったからな。
生徒会である彼女だけど、特例で生徒会には参加しなくても良いらしい。
むしろ、何かに縛られないために特例を目当てで生徒会に入ったそうだ。
そんな彼女の週末は恐らくダンジョンでレベルを上げているんだと思う。
俺も負けないように、新しいスキルを獲得しておかなければな。
◆
二度目となるEランクダンジョン117の前にやってきた。
ダンジョンは日本中にいくつもあるが、Eランクダンジョンが一番多く、そこからランクが上がるごとに数が少なくなっていく。
Dランクダンジョンまでは数が多いので番号を覚えるのは中々難しい。
Bランクダンジョンは世界でも7か所しかないので、1~7まで覚えやすくて、どちらかと言うと国の名前になっていたり、Aランクダンジョンに至っては世界で2か所しかない。
早速ダンジョンに入ろうとすると、軍人が俺を止めてくる。
「レベルは?」
「…………0です」
「0!?」
「大丈夫です」
「いや、すまないが入れる訳にはいかない。手の甲を見せてくれ」
渋々右手の甲を見せると、俺のライセンス刻印を見つめる。
「…………君の頑張りは理解するが、そのレベルで一人で入れさせる訳にはいかない」
「分かりました」
俺も子供じゃない。ここで彼を困らせる訳にはいかないからな。
一旦そこを離れて、どうしようか悩んだ時、昨日神威家で獲得したスキルを思い出した。
スキル『絶隠密』。早速使ってみる。周囲から自分の気配が消えていくのを感じる。
この前は無我夢中で使ったけど、こうして使ってみると面白い。
どれくらい隠密で行動できるのか試してみる。
目の前を歩いている探索者を横切りながら目を見る。まるで何も見えていないかのように、正面しか見ていない。
本当に見えないのか? 手を振ってみても全く反応が見られない。
これなら大丈夫と思い、ゆっくりとEランクダンジョン117の入口に近づく。
軍人は俺を全く見てない。ゲートの隣を通って中に入っても、全く止められなかった。
「止まれ!」
ビクッとなって、後ろを見つめると、なんと凱くんが一人で入口にやってきていた。
どうやら俺じゃなく凱くんを止めているらしい。
「あん? なんだ?」
「手の甲を見せなさい」
「ちっ」
凱が右手の甲を軍人に見せる。
「通ってよし」
「ちっ。止めるんじゃねぇよ。こんな雑魚ダンジョン如きに」
悪態をつきながら中に入っていく凱くんだが、俺が見えないようで全く反応もしないまま、俺の前を通り過ぎて中に入っていった。
「はぁ、最近の高校生はあんなんばっかか?」
溜息を吐く軍人に苦笑いがこぼれる。
ひとまず、俺も中に入った。
◆
《スキル『ダンジョン情報』により、『トロルノ牢』と分析。》
ん? 『トロルノ牢』?
ここは通称『Eランクダンジョン117』と呼ばれているはずなんだが、実はちゃんと名前があったという事か?
そういえば、以前入ったダンジョンは『ルシファノ堕天』という名前だった。
どうやら前回入ったダンジョンとE117は違うダンジョンだったようだ。
それにどちらにもちゃんと名前が付いている?
『ルシファノ堕天』は遠くにお城が見え、周囲には高い山が聳え立つダンジョンだったが、ここは全く別物で、どこか外国にあるような平原が続いている。
緩やかな起伏に一面が緑に染まっていて、障害物が全くないのもあり、遠くまで見渡せる素晴らしい景色だ。
周囲を眺めて気づいたのは、ここにはお城のようなモノが見えない。つまりダンジョンだからといって必ずお城がある訳ではないようだ。
平原をゆっくり歩いていくと、初心探索者と思われる二人が水色の可愛らしいまん丸い魔物と戦っていた。
名前は知らないが、某ゲームに出て来そうなスライムに似ている。魔物じゃなければ、飼いたいと思えるくらいだ。
二人の探索者は一人が魔物の注意を引きながら、もう一人が武器で攻撃をして、魔物が攻撃された側に振り向いたら、役割を変えて戦う戦法を取っていた。
簡単そうに見えるが、二人の呼吸が合わないと難しそうだ。
二人の戦いを眺めて、二人が勝利してハイタッチをするところを確認し、その場を後にした。
平原は緩やかではあるけど確実に下降していて、遠目ではあるが向こうには川が流れている。さらにこちらよりも探索者が多くいる。
ひとまず、川を目指していると、俺の前にさっきの魔物が現れた。
どうやら絶隠密は魔物にも効くらしく、目の前の魔物は全く反応を見せない。
ゆっくりと近づき、しゃがんで魔物に触れてみる。
《閃きにより、スキル『魔物分析・弱』を獲得しました。》
《スキル『魔物分析・弱』により、魔物『コル』と判明しました。》
《弱点属性は火属性です。レアドロップは『極小魔石』です。》
この魔物は『コル』というのか。スキルのおかげで、名前や弱点属性にレアドロップ品まで分かるようになるのは大助かりだ。
触った感触的には、見た目通りぷにぷにして大変触り心地がいい。
昔、一度だけショッピングモールで触った事があるウォーターベッドというモノに一番近いかな。
あまりにも触り心地がよいので、ぷにぷにと触り続けていたら、コルが弾けた。
…………ちょっと揉み過ぎたか。
《経験により、スキル『手加減』を獲得しました。》
…………。
…………。
これでコルを無限に揉めるな。
それにしてもこの揉み心地癖になるわ~。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます