5話-③
その時、後ろから間抜けた声が聞こえてきた。
「おほ~熱いのぉ~」
「ぬわっ!?」
「あっ……」
びっくりしすぎて、思わず神威さんの手を振りほどいた。
後ろには、さっき会ったお爺ちゃんがニヤニヤしながらこちらを見ている。
「さっきのお爺さんですか」
「お、おじいちゃん!?」
「ほっほっほっ。ひなたよ。良い小僧を見つけたものじゃ」
「おじいちゃんって!?」
俺と神威さんとお爺さんの声が一気に被る。
「小僧。どうやって冷気を止めているんじゃ?」
「え、えっと……俺のスキルで…………」
スキルという言葉を聞いたお爺さんから、殺気が放たれる。
隣にいた神威さんは一歩後ずさるが、歯を食いしばって耐える。
「ほぉ…………本物か。儂の威圧を耐えるか」
「お爺さんは『スキル』という言葉に聞き覚えがあるんですか?」
「ふむ。知りたいか?」
それはもちろん知りたいに決まっている。
ゲームやらアニメとかで良く聞いた事はあるけど、そもそも俺にとって『スキル』というものが何か知りたい。
「はい。知りたいです」
「タダじゃ教えられないな~」
「では何をすれば?」
にやりと笑ったお爺さんは、神威さんを指さした。
「?」
「儂の孫と結婚――――」
ドガーン!
目にも止まらぬ速さでお爺さんが吹っ飛んで、開いた扉から遥か彼方に消え去った。
やっぱり神威さんに逆らうのはやめておこう。
《恐怖により、スキル『防御力上昇』を獲得しました。》
…………ありがとうよ。『スキル』さん。それに何気に初めての理由で獲得したな。
「ひ、日向くん」
「は、はいっ!」
「さっきの話は聞かなかった事にしてください!」
「は、はいっ!」
神威さんの怒りモードに逆らう気が全く起きなかった。
「…………」
何故か神威さんは残念そうな表情を浮かべた。
◆
「おかえりなさい」
「「ただいま」」
落ち着いた神威さんを連れて、元の部屋に帰ってきた。
テーブルには豪華な食事が所狭しと並んでいる。
「日向くん。もう遅くなってしまったので、寮には私から連絡しておきました。一緒に食事してから帰ってください」
「は、はい。それはそうと…………そちらの方は…………」
さっきまでいなかった見た目が熊のような大きな体を持つ男性。スーツを着ているが今にも弾けそうな体つきだ。
強い探索者だと言われても信じるくらいには、弱い俺でも一目で分かるくらいに、凄まじい強さを感じる。
「うむ。俺は神威昌という。ひなたの父だ」
「は、初めまして! 鈴木日向といいます!」
まさか神威さんのお父さんまで現れるとは思いもしなかった。確か神威財閥と言っていたんだから、総帥とかになるのかな?
「お父さん。おかえりなさい」
「た、ただいま」
神威さんのお父さんが、彼女の反応を見て驚いた。
「聞いてはいたが…………目の前にすると今でも信じられん……」
「ですね。私も同じですわ」
「日向くん。感謝する」
急に頭を下げられて、あたふたして俺も頭を下げた。
多分冷気の事なんだろうと思う。
それからテーブルに並んだ美味しい食事を楽しんだ。
食事を美味しそうに食べる隣の神威さんを、俺だけでなく、おじさんもおばさんも愛おしく見つめていた。
きっと食事も一人で取っていたのかも知れない。
おじさんとの談話はとても面白くて、色んな国の話をしてくれた。さらに元は探索者だったようで、凄腕探索者だとおばさんは嬉しそうに話してくれた。
いつか機会があれば、神威財閥の職場を案内してくれるとの事で、一つ楽しみが増えた。
◆
食事を終えて帰るために玄関に神威さんと共にやってきた。
「神威さん。ではまた学校で」
「日向くん!」
「ん?」
「…………名前。名前で呼んでほしい」
「っ!?」
「嫌……かな?」
「そ、そんなことはない! でも、その、時間がほしいというか…………」
そもそもこんな綺麗な人を名前で呼ぶってどうしたらいいのか全然分からない!
名前で呼ぼうとすると、心臓が爆発しそうだ。
「分かった。でも、いつでも……呼んでくれていいからね?」
「お、おう!」
「ふふっ。帰り、気を付けてね」
「ああ。神威さんも冷気、気を付けてね」
「うん!」
笑顔で手を振る彼女を置いて、俺は神威家の屋敷を後にした。
◆
「彼は帰ったのかしら?」
「はい。お母さん」
お母さんの質問に淡々と答える。
最近感覚がずれそうになるけど、彼がいなければ、発動した氷神の加護が周りを氷らせてしまう。
だからこそ、感情を極力出さないようにする必要がある。
「良い男の子だね。これからも仲良くね」
「はい。彼には凄く助けてもらってますから」
「ひなた。必要なものがあるなら――――――いえ、これは無粋な事だったね。でも神威家は全力で貴方を応援するわ。だって、貴方は私達の娘だもの」
「お母さん…………」
「ふふっ。今日は久しぶりに笑顔が見られて嬉しかったわ。でも一人の時は危ないから…………」
「はい。すぐに部屋に戻ります」
「…………ええ。おやすみ」
「おやすみなさい」
お母さんに挨拶をして、すぐに部屋に向かった。
私の部屋は本邸から少し離れた別邸にあるので、急いで向かう。
到着した場所にある端末に右手をかざすと、重苦しい音が周囲に響いて、分厚い扉が開く。
さらに中からは冷たい冷気が外に漏れ出す。私の氷神の加護の永久絶氷だ。
中に入るとすぐに扉が閉まる。
光一つない暗闇の中に、私は閉じ籠もった。
---------------------
【新規獲得スキルリスト】
『隠密探知』『読心術耐性』『排泄物分解』『絶隠密』『防御力上昇』
---------------------
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます