4話-①

■ 第4話





「そんな事でいいのか?」

 俺の質問に大きく頷いて応える彼女。神威ひなたさん。

 女の子を泣かせてしまって、妹から教わった『女の子を泣かせたら全力で謝って、彼女の頼みを全て叶える!』を実行する。

 彼女がやって欲しいことが全く理解できなかったけど、減るもんでもないので了承した。

 帰ろうとしたが、立ち上がれなさそうな彼女に手を貸してあげる。

 あの冷たい雰囲気と冷気は、彼女が持つ力のせいらしい。

 油断すると冷気を放ってしまって、人を氷漬けにするって言われて、氷漬けにされなくて本当によかったと一安心した。

 これから彼女には極力逆らわないようにしておこう。いくらスキルを獲得できるからといって、Sランク潜在能力を持つ彼女にかかったら俺なんか一瞬で氷漬けにされてしまうと思うから。

 ただ、それほど強いのに、凱くんを怖がっているのが不思議で、でもそれが女の子らしくて可愛いなと思えた。

 会話をしながら、帰り道を一緒に歩く。

 こうして誰かと一緒にするのは妹以外では初めてというか、仲良くしている同級生がいなかった。

 地元では…………誰一人俺に寄り付かなかったからだ。

 なんだか高校生になって良かったと思えた瞬間だった。

「あ、神威さん。俺、寮なんで」

 校舎の出入り口から外に出て、俺は敷地をそのまま奥に向かうので、帰宅組で校門に向かう神威さんとは真逆の道だ。

 そもそも彼女がどこに住んでいるのかは知らない。

「ん……また……」

 少し寂しそうに手を上げる彼女に、一瞬ドキッとしてしまう。

 ――――その時。

 妹が言っていた『女性を一人で帰すのはいけないの! ちゃんと最後まで見送らないとダメよ?』を思い出す。もしかして、ここで神威さんを送らないといけないのか!?

 そもそも俺は妹以外の女子と話したことがないので、どうしていいか全く分からない。

 悩んでいるうちに、神威さんはスタスタと敷地を出て行った。

 どうした方が正解だったか分からず、俺はモヤモヤしたまま寮に戻った。


 ◆


「日向くん~」

 …………。

「日向くん?」

 隣から急に人の顔が現れる。

「うわっ!? 藤井くん!?」

 まさか自分が呼ばれているとは思わず、驚いてしまった。

「なんか難しいことを考えてそうだなと思って~」

 同じ三階なので、並んで歩く。

「えっと…………女子って良くわからないなと思って」

「女子? ふふっ。クラスメート?」

「お、おう……」

「あまり詳しいわけじゃないけど、相談なら乗るよ?」

 藤井くんは見た目からして、ものすごくモテそうな雰囲気がある。

 男らしさで言うなら、藤井くんは対象外だと思う。何故なら藤井くんは男らしさというより、可愛らしい弟のような見た目をしているからだ。

 小動物的な、守ってあげたいと思えるくらいに可愛らしい。

「ごほん。日向くん」

「ん?」

「いま、僕を小動物とかだと思ったでしょう?」

「え!? どうしてバレ――――あっ」

「はぁ、よく思われるんだよ。僕ってそんなに男らしくないのかな?」

 そ、そうだね。

 その仕草とかもどちらかと言えば、女の子みたいというか、可愛らしいというか。

 でも藤井くんだからこそ似合うのでいいと思う。

「確かに男らしさは足りないだろうけど、それは藤井くんの良さだからいいと思うけどな」

「えっ? そ、そう?」

「人はそれぞれだからな。男だからって男らしさばかり目指しても仕方がないと思うよ」

「そうか…………なんかそう言われるの初めてだけど、そうかも。ちょっとポジティブに考えてみるか!」

 悩みが解決したのなら嬉しい限りだ。

「あ! 違う違う。僕じゃなくて日向くんの相談に乗るんだった。とりあえず夕飯の時でいいかな?」

「俺もその方が助かる。先に風呂に入りたいしな」

「分かった。じゃあ、三十分後に食堂で」

 三階に着いて藤井くんと別れ、それぞれの部屋に入る。

 …………これって高校生っぽい! というか、俺に友人みたいな人ができた……?

 いや、落ち着け。これは何かのまやかしかも知れない。

 俺のレベルが0だと知られたら、間違いなく嫌われる。だから過度な期待はしないでおこう。

 もしかしたら、神威さんのことを相談すると、幻滅されて笑われるかも知れない。

 だから期待することなく、さりげなく相談することにしよう。


 ◆


「日向くん~こっち~」

 風呂から上がり、約束通り食堂に向かうと、先に着いていた藤井くんが手を振ってくれる。

 それにしても…………それが部屋着なのか? ちょっと可愛い。フードが付いているぬいぐるみみたいなパーカーと中にはジャージか。

「お待たせ」

「僕も今来たとこ。先にご飯持ってこようか」

「だな」

 カウンターに用意されたトレーを持ち、お椀に米を自分が好きな量を盛る。

「!?」

 俺よりも細い体に、あんな量が入るのか……人体って分からないものだ。

「それで、クラスメートの女子とどうしたの?」

 席に着くとすぐに聞いてくる。

「帰り道がたまたま一緒になったんだけど、俺は寮だから、玄関で見送ってしまったんだ」

「ふむふむ」

「でも妹から、女性を一人で帰すのはいけないの! ちゃんと最後まで見送らないとダメよ? ――――と言われたんだよ」

「ふふっ。可愛らしい妹さんだね。それにモノマネも上手!」

 妹の口調になっていたようだ。いつも一緒だったしな。

「ん~それに関しては、妹さんの言い分が正しいんだけど、一つだけ問題があるよ」

「問題?」

「その女子がついてきて欲しいかどうかによるかな?」

 藤井くんにそう言われて、俺は雷に打たれたかのような衝撃を覚えた。

「そもそも日向くんだけの視点でしょう? その子が送られても困るかも知れないから」

 そ、そうか…………神威さん的には俺なんか邪魔だろうからな……。

 送らなくちゃいけないと勘違いした。俺はなんて傲慢だ…………。

「だからね。そういう時は、送ろうか? と聞けばいいと思うよ」

「えっ? 聞く?」

「うん。それですぐに『いらない』と返ってきたら、そのまま帰ってくればいいし、向こうから返事に困ってそうなら、送ってあげたらいいと思う」

「そうなのか?」

「そうそう。女心は複雑なんだよ~」

「それ、いつも妹も言ってる」

「あはは~妹さんと馬が合いそうだ」

「妹は誰にもやらんぞ」

「あれ? もしかして妹大好きお兄ちゃん?」

「う、うっ…………」

「あはは~日向くんの意外な一面を知れたよ~」

 藤井くんはいたずらっぽい笑みを浮かべて、山盛りになったご飯を一粒残さず食べ切った。

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