2話-②

「ん? どうした? もう疲れたのか?」

 俺もずいぶんと息が上がっている。このままでは喰われるのは時間の問題だ。


《危機により、スキル『持久力上昇』を獲得しました。》


 これは助かるっ……!

 少し上がっていた息が正常に戻った。

 これなら持久戦に持ち込んで、位置を変えて逃げ切る事もできるかも知れない。

 それにしても、ティラノサウルスがこちらを睨み、咆哮を放つだけで攻めてこない。

 一体どうしたんだ…………?

 その時、俺の後ろから水の流れる音が聞こえた。

 水?

 周囲探索で周囲を確認すると、ちょうど俺の後ろに先程の猛毒の池がある事に気づいた。

 あれ? もしかして、ティラノサウルスもこの猛毒は怖いのか?

 念のため、猛毒の池の水を手ですくってみる。

 状態異常無効のおかげなのか、俺の手は全く溶ける気配はなく、ただの水にしか感じない。

 だが、俺の手からこぼれた水滴は、地面に落ちるや否や、地面を焦がして鼻をつく匂いを発生させる。

 俺が一歩前に出ると、ティラノサウルスが一歩後退する。

 そうか! やっぱりお前はこの猛毒の水が怖かったんだな! でも残念――――俺にこの猛毒は効かない!

 俺は両手ですくった水を全力でティラノサウルスに投げ掛けた。

 猛毒の水が当たると、ティラノサウルスは悲痛な叫びを上げて、その場に転がり始める。

 それをただ眺めていられるほど俺には余裕がないので、急いで猛毒の水を手ですくって、痛そうに転がっているティラノサウルスに掛けてはまた池に走ってを繰り返す。

 獲得した速度上昇のおかげなのか、自分が思っていた以上に早く動けるために、ティラノサウルスの外面がどんどん溶けてダメージを負っていった。

 それを何度も何度も繰り返して、気が付けばティラノサウルスは動かなくなった。

 俺が読んだダンジョンの入門書では、倒したと思った時こそ、魔物が狙っている可能性があるそうで、相手が死んだと思える時こそ気を付けろと書かれていた。

 余裕のない俺はその言葉を信じ、倒れたと思えるティラノサウルスに、もう一度池の水をすくってきて掛けてみた。それでようやくティラノサウルスが倒れたと確信することができた。

 倒したティラノサウルスの皮膚は半分ほどが溶けてはいるが、中の骨は健在だ。猛毒の水でも骨は溶けることなく残っている。

 もしこの骨を利用することができれば、もっと楽にダンジョンを攻略できないか?


《閃きにより、スキル『魔物解体』を獲得しました。》


 閃き……?

 今獲得した魔物解体は倒した魔物に使えるスキルのようだ。

 スキルの内容を知らないけれど、獲得した瞬間にそう感じるからだ。

 この感覚から、獲得しているスキルには直接使用するタイプと常時発動しているタイプに別れているのが分かる。

 スキルリストを開いてみると、感覚通りに直接使用するタイプが『アクティブスキル』、常時発動しているタイプが『パッシブスキル』という項目に分類されていた。

 どっちが良いとかではなく、それぞれをしっかり認識する事が大事だと思われる。

 今の俺の『アクティブスキル』は『スキルリスト』と『魔物解体』だけだ。

 早速獲得した魔物解体を使って、ティラノサウルスを解体させてみる。

 ティラノサウルスの全身を不思議な光の粒子が包むと、亡骸の全身が白い光に染まり、一瞬で解体された骨や皮が地面に並んだ。それと大きな紫色の宝石が目立つがこれは『魔石』と呼ばれている宝石だ。

 魔石は不思議な力が込められていて、今の世界ではなくてはならない物となっている。

 何故なら世界で賄っている電力は、既存発電を廃止し、魔石発電に切り替えているからだ。

 大昔は色んな発電があって、それで自然を破壊していたそうだが、それに怒った女神様が人間に試練を与えるためにダンジョンを作ったと伝わっている。入門書にそう書かれていた。

 それもあって、クリーンエネルギーである『魔石発電』が主流になっていて、最近は魔石を用いた装備の『マジックウェポン』や『魔道具』まで開発されている。

 まぁ、そんな難しい話はよく分からないが、少なくともこの魔石は高額で売れる。

 大きさで値段が違うとされているが、目の前の魔石は直径三十センチほどの大きさだ。

 Eランクダンジョンの魔物からは一~三センチの魔石が落ちると入門書に書いてあったのに、古い入門書だから間違いだったのか? それともイレギュラーの魔物だったりするのか?

 ひとまず大きさについては置いておくとして、こんなに大量の素材と魔石……どうやって持ち運べばいいんだ?

 魔物の素材で作った道具の中に、『マジックリュック』というのがあって、あれは普通のリュックと形と大きさは変わらないけど、中に大量の物を入れられる異空間となっているそうだ。

 ただ、非常に高価で、駆け出しの探索者では手に入れるのは難しいと書かれていた。

 そういや、スキルを獲得できるんだから、こういう素材を格納できるスキルなんて覚えたりしないかな~?

 …………。

 …………。

 ちょっとだけ期待したけど、そんな事はなかった。


《閃きにより、スキル『異空間収納』を獲得しました。》


 おおお! 願ってみるものだな!

 早速覚えた異空間収納を使い、目の前の素材と魔石を異空間に入れてみる。

 その場にあった素材が、嘘のように一瞬で消え去る。

 異空間収納の使い方は三種類あるようで、一つ目は前方十メートル以内の物を異空間に収納する。二つ目は、異空間に収納した物を外に取り出す。三つ目は、異空間に収納した物を確認する。

 三つ目はスキルリストと似ていて、空中にメニュー画面のような画面が出てきて、中に入れてある素材の名前と量、写真が表記されている。さらに画面を出さなくても、念じれば脳内で映し出されるので迷う事なく取り出すことができて、とても便利だ。

 もしや異空間収納で猛毒の水を収納したらどうなるのだろう?

 試しに目の前の猛毒の池の水に異空間収納を使用してみる。が、池の水は収納することができなかった。

 もしかしてダンジョンの中の物は収納できないのか? それとも液体は無理なのか?

 念のため、池の水を手ですくっても、収納はできなかった。

 検証したいのは山々だけど、これ以上検証する方法がないので、この水を何とかできるものを手に入れたらまた来よう。

 ティラノサウルスとの激戦を制して、俺はまた一本道を進んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る