【WEB版】レベル０の無能探索者と蔑まれても実は世界最強です～探索ランキング１位は謎の人～

２話－①

■ 第２話

　目が覚めたら、ベッドの上――――であって欲しかったけど、やっぱりダンジョンの中だった。

　というか、ダンジョンの中で気を失ったらほぼ死ぬと聞いていたのに、どうやら生きているようだ。

　気を失う前に色々スキルを獲得したという変な声が頭に直接響いていた。

　あれは本当だったのだろうか？

《困難により、スキル『スキルリスト』を獲得しました。》

　ん？　スキルリスト？

　すると目の前に不思議なウィンドウが現れる。

　映画とかで見た事ある宙に浮いたウィンドウで、どうやら俺の視界に張り付いてるみたいで視界を動かしてもウィンドウは全くズレない。

　そこには７つのスキルが書かれていた。

　『ダンジョン情報』『周囲探索』『異物耐性』『状態異常無効』『体力回復・中』『空腹耐性』『スキルリスト』の七つだ。

　恐らく俺が倒れている間に『体力回復・中』『空腹耐性』を獲得したのだろうな。

　ということは、俺が倒れていても、俺の意思と関係なくスキルを獲得するんだ。

　一眠りしたからか、頭がすっかり冴え渡っている。少なくとも昨日のような驚きよりは、現状を受け入れる事ができている。

　ひとまず冷静に現状を分析する。

　俺はなぜかわからないが、ダンジョンの中に入れたのだと思う。

　その証拠に『ダンジョン情報』によって、このダンジョンの名前が『ルシファノ堕天』という事まで分かっている。

　次は、何かが起きるたびに『スキル』というのを獲得している事について。

　これはとても便利で、中でも『空腹耐性』のおかげなのか、気を失って起きたはずなのに空腹感がまったくない。

　さらに『周囲探索』のおかげなのか、周りが認識できるようになった。これはとても不思議な感覚で、第二の自分がパソコンの画面から俺を中心としたマップを見てるかのような感覚。何とも言えない感覚だけど、おかげで周囲の状況が手に取るように分かる。

　気絶していたのに無事だった理由としては、たまたま周囲に魔物がいなかったからだ。

　それと空気に『絶大毒素』『絶大麻痺素』が含まれていて、息を吸えば吸う程に毒状態と麻痺状態に陥るらしい。これも周囲探索で分かるようになった。

　獲得したスキル『状態異常無効』がなければ、死んでいたと思うとゾッとする。

　ということで、この安全圏がいつまで安全なのか分からないので、道を進もうと思う。

　ひとまず出口は見あたらないので、出口を探しながら進んでみよう。

　暗闇にも少しずつ慣れてきたが、霧のせいか中々目視はできないな。不思議と空に浮かぶ星々や遠くのお城は見えているんだがな……。

《困難により、スキル『暗視』を獲得しました。》

　うわっ!?

　急に視界が緑色に変わって、めちゃくちゃ見晴らしがよくなった。

　これなら歩きやすいし、岩とか魔物とか目視できそうだ。

　後方には道がないので、前方に続いている道を慎重に歩き始める。

　昔、ダンジョンに興味があった俺は『ダンジョン入門書』というのを読んでいた。

　ダンジョンにはトラップと呼ばれるモノがあって、踏むと魔法が発動して飛ばされたり、大爆発が起きたり、様々なデメリットが起きると書かれていた。

　目視でトラップを見分ける事は不可能って書かれていたので、ダンジョンを進むのが少し怖くなるが、トラップは低難易度ダンジョンにはほぼ出てこないと書かれていたので、ここがＥランクダンジョン１１７なら問題なさそうだ。

　それでも心配なのでゆっくり進むと、小さな池が見えてきた。

　『空腹耐性』があるものの、喉は乾いたので水が飲めるのは非常に助かる。

　近づくと、直径三メートルくらいの小さい池で、傍から湧き水が流れていた。

　それにしても暗視のせいなのか、池の色が変に見えるけど、喉を潤したい一心で池の水を手ですくって飲み始めた。

　…………めちゃくちゃ変な味がする。

　喉が渇いていなかったら、とても飲みたいと思えない味だ。

《危機により、スキル『体力回復・中』が『体力回復・大』に進化しました。》

　は？　危機!?　どうしてだ!?　周囲探索で敵っぽいものは全く見当たらなかったんだけど!?

　周りを隈なく探しても敵の影は全く見えない。

　もしかして虫型か？

　全身を探してみても、小さな虫は見つからない。

　…………となるとだ。もしかして、この池の水か？

　たしか、変な味がしていたんだが…………。

　俺は恐る恐る池の水をすくって、隣の岩にかけた。

　ジュワッ――――と音を立てて岩はみるみる溶けて跡形もなく消え去った。

「ええええ!?　この池の水って猛毒だったのかよ！」

　思わず、溶けた岩に向かってツッコミを入れてしまった。

　普通の湧き水だと思って飲んだけど、状態異常無効がなかったら…………。

　ダンジョン内ではもっと慎重にしなくちゃいけないと改めて思った。

　猛毒の池の水はもう飲まないことにして、さらに道を進める。

　両脇が大きな山になっていて、道が段々細くなった。とてもじゃないが、山を登れるとは思えない。絶壁に近いからだ。

　道が曲がりくねっていて、山に阻まれて遠くは見えない。そんな道を慎重に進むと周囲探索に今まで感じた事がない存在を感知した。

　俺は岩の陰に隠れて、恐る恐る進んでいき、その存在を遠目から確認する。

　そこにはゲームやアニメに出てくるような恐竜ティラノサウルスに似た魔物が、恐ろしい眼を光らせながら周囲の獲物を探していた。

　ダンジョンは命懸けとよく聞いていたが、その理由がようやく分かった気がする。

　スライムやらゴブリンやら最弱魔物から戦って徐々に強くなるのが普通だというのに、ティラノサウルスは見た目だけでも超強力魔物なのが一目で分かる。

　この先を進むにしても一本道しかない。

　さすがに戦えるはずもないので、ティラノサウルスがいなくなるまで一旦引き返そうとしたその時。

　俺は足元にある木の枝に気づかず、踏んでしまった。

　バギッ――――と静かな周囲に木の枝が折れる音が鳴り響く。

　もちろん、ティラノサウルスの鋭い眼光がこちらを向いたのは言うまでもない。

　これはまずい！

　そう思った時には、既に来た道を全力で戻っていた。

　しかし、ティラノサウルスは俺を見逃すはずもなく、巨大な身体なのに凄まじい速度で追いかけてくる。

　巨体が走る音が段々と近くなって、全身から焦りの汗が吹き出る。

《危機により、スキル『速度上昇』を獲得しました。》

　言われなくても分かるわ！

　あんな巨体の魔物に踏まれたり噛まれたら一瞬で終わるわ！

　ただ、速度上昇を獲得したおかげで、走る速度が明らかに上昇した。

　それでもティラノサウルスを振り解けず、段々と距離が近くなる。

《危機により、スキル『速度上昇』が『速度上昇・中』に進化しました。》

《――――『速度上昇・大』に進化しました。》

《――――『速度上昇・特大』に進化しました。》

《――――『速度上昇・超絶』に進化しました。》

　少しずつ距離が離れていくのを感じる。明らかに俺の走る速度が速くなっている。

　気づけば、完全にもといた道に戻ってきていて、池がある場所にやってきた。

　もちろん速くなったのはいいことだ。これならあの巨体からも逃げられるだろう。

　だがしかし、それも逃げ道があればの話だ。

　獲得したスキルのおかげで距離を離せるようになったのに、まさか逃げ道がもうないという現状に絶望が訪れる。

　振り向いた俺の視界に映ったティラノサウルスは、そろそろ食べられると言わんばかりに涎を垂らしながら俺にゆっくり一歩ずつ近づいてくる。

　く、くそ……このまま戦うか？　でも俺に戦う事ができるのか？

　こんなところで死ぬわけにはいかないので、ティラノサウルスと戦う覚悟を決める。

　何となく俺がピンチの時に新しいスキルを覚えるから、あのティラノサウルスと戦えば、何かしらの新しいスキルを獲得するかも知れない。

　そう思うと、自然と口角が吊り上がり、心の中から勇気がわいてくるようだ。

　グルァァァァアアアアア！

　目の前で大きな咆哮を放つティラノサウルス。

　いやいやいやいや！　いくらなんでもこんな魔物を倒すとか無理だろう！

　ティラノサウルスが勢いよく飛び上がり、俺を踏みつけようとする。

　それを横に飛び込んでギリギリ避ける。

　ティラノサウルスが一歩一歩大地を揺らす中、俺は必死になって避け続けた。

　何とかしなければ、このままでは死んでしまう。

　そう思いながら必死になって避け続けているうちに、ティラノサウルスがこちらに跳んでこなくなった。