1話-③

 次の日。

 出かける前に一階にいる寮母さんを訪れた。

「おはようございます。日向くん」

 相変わらずの無表情が冷たい印象を抱かせる。

「おはようございます。実は、初めてダンジョンに向かおうと思うんですけど、近くに初心者ダンジョンでおすすめ場所を教えてもらえませんか?」

 すると、彼女は一枚の地図をとって前に広げてくれた。

「ここが学校でここから南に向かうと、初心者におすすめのEランクダンジョン117があります。ここなら一人でも入れると思います」

 意外にも丁寧に教えてくれた。

「ありがとうございます」

「日向くん。探索者は命あってのものです。決して無理はせずに頑張ってください」

「はいっ……!」

 寮母さんに例を言って、寮を後にして教えてもらった通りに道を進んだ。

 南に進んだところにダンジョンを管理している建物とダンジョン入口が見えてきた。

 ダンジョンは基本的にそれに見合ったライセンスを持っていないと、入場する前に止められる。入口前にはゲートが作られていて、常に誰かが見張っているのだ。

 ダンジョンは常に死と隣り合わせ。国としてはダンジョンの強さに見合わない人は入れさせたくないからだ。

 ダンジョン入口の前に立つ建物の中に入る。

 受付がある二階に上がって、中に入った。

「いらっしゃいませ。初めてでしょうか?」

 すぐに綺麗な女性の声が聞こえてくる。

「はい。初めてです」

「その制服は誠心高校の生徒さんですね。ではこれからライセンスを付与致しますので、少々お待ちください。そこの水晶に手を当てるとご自身の潜在能力ランクが見れますよ」

 この水晶は潜在能力を調べる水晶で、触れるとそのランクに応じた光を放つ。FランクからSランクまで七つの色に分けられていて、Sが赤、Aは橙、Bは黄、Cは緑、Dは青、Eは藍、Fは紫だ。

「あれ……? 箱がない……? 裏かしら」

 受付周りをアタフタ探したお姉さんが小さく呟いた。

「ライセンス付与箱を持ってきますので、こちらで少々お待ちください」

 受付のお姉さんが慌ただしく、受付の裏に消えていく。

 待っている間に久しぶりに水晶に手をかざしてみる。

 水晶は――――――黒い色に染まっていく。

 これが俺がレベル0と言われる所以だ。

 潜在能力は色があるからこそ、ランク付けされるのだが、俺は黒色――――つまり、色がないと判断され能力なし、レベル0というわけだ。

 それにその予想は正しく、俺のレベルは未だ上がった事がない。

 そんな事を思いながら、水晶に長時間手をかざし続けていた。

 真っ黒な闇が水晶から不気味に溢れると、どんどん大きくなっていく。まるで俺の心を見透かしたように。

 俺はただただ溢れる闇に複雑な想いに駆られていた。

 レベルが0から上がらないという絶望を示す闇。

 溢れてくる闇にどんどん飲み込まれていく。部屋中が闇に巻き込まれているとも気づかずに。




「お待たせしまし――――あれ? 誰もいない? もしもし~あれれ? さっきの生徒さん……帰っちゃったのかな?」

 彼女は誰もいなくなったカウンターで大きく溜息を吐いた。


 ◆


「う、うわあああああああああああああ!」

 地獄に落ちる――――という言葉を思い出すくらい、真っ暗なところから落ちていく感覚。

 一体何が起きているんだ!?

 俺はたしか、受付で水晶に触れていたはずなのに、気が付けば暗闇の中、ただただ落ちている。

 何も見えない。全身に感じるのは高い場所から落ちていく感覚だけ。

「な、なんだ!?」

 急に足首を掴まれる感覚から、足元を見つめるけど、暗闇で何も見えない。

 次の瞬間。視界が一気に広がる。

 落ちていると感じていたのだが、ちゃんと地面に立っていた。

「こ、ここはどこだ!?」

 必死に周囲を見渡してみても、薄暗い景色で遠くがよく見えない。空の上には星々が輝いているので夜っぽいけど、全体的に霧がかかった景色に思わず息を呑んだ。

 さらに追い打ちをかけるのは、遥か遠くに見えるお城のようなものが、現実からあまりにもかけ離れた風景に呆気に取られる。


《困難により、スキル『ダンジョン情報』を獲得しました。》


 えっ!? ダンジョン!?

 そ、そうか! この不思議な景色はダンジョンの中だったんだ!

 覚悟はしていたのだけれど、初めて入るダンジョンに何もかもが不安で仕方ない。


《スキル『ダンジョン情報』により、『ルシファノ堕天』と分析。》


 ルシファノ堕天? このダンジョンの名前か? そんな名前は聞いた事もないけど、俺が向かうはずだったEランクダンジョン117ではないのか?

 ダンジョンは全て数字で管理されているはずなのに、ここには名前が付いている?


《困難により、スキル『周囲探索』を獲得しました。》


 今度はなんだ!?

 声が聞こえた直後から、何故か周りがより手に取るように分かる。

 そこで感じるのはあまりの禍々しさ。耐えられない悪寒が俺を襲う。あまりの衝撃に、その場に自分の胃の中のものを吐き出した。


《困難により、スキル『異物耐性』を獲得しました。》


 また……また新しいスキルというのを獲得したんだ。そもそも『スキル』って何だ? 聞いた事もないぞ?

 その時、悪寒とはまた違う痛みを感じた。

 全身を襲う激痛に、声すら出せずその場に倒れた。


《困難により、スキル『状態異常耐性』を獲得しました。》


《困難により、スキル『状態異常耐性』が『状態異常耐性・中』に進化しました。》


 だ、誰か…………助けて…………。


《――――『状態異常耐性・大』に進化しました。》


《――――『状態異常耐性・特大』に進化しました。》


《――――『状態異常無効』に進化しました。》


 頭に不思議な言葉が何度も鳴り響いて、俺はそのまま気を失った。




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【新規獲得スキルリスト】

『ダンジョン情報』『周囲探索』 『異物耐性』『状態異常無効』

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