第14話 能ある鷹は爪を隠す

「……あの」

「いい加減立ちなさいよ。まるでただ捏ねてる子供」


 いのりは、家宝の鎧を脱がされ代わりに聖衣を着せられてしゃがみ込んでるクーデリアを見下ろしながら苦々しく言う。


「……どうしても?」

「だーめ」


 スフィがクーデリアの背後にしゃがみ込んで羽交い締めにした。


「こ、こらっ」

「いいから立つの」


 スフィは聖衣の力を借りて自分より体格のいいクーデリアを羽交い締めのまま持ち上げた。クーデリアは目を丸めるが直ぐに聖衣の力と悟り、渋々自力で立った。


「それにしても……」


 いのりは立ち上がったクーデリアを見てなる回すように品定めをする。


「鎧を脱がした時から色々感心したけど……凄いわがままボディ」

「くっ」


 顔を赤らめるクーデリアは両腕で胸元を隠す。家宝の鎧の下に隠していた、はち切れんばかりのダイナマイトボディを最初見た時は、果たして聖衣着られるのか心配したのだが、実際に着た姿を見てるとバニースーツを着るために生まれてきたような人間だといのりは確信した。要するに、エロい。


「……見た目は……その……いろいろあるが……まぁ……その……これは……」


 羞恥に負けそうなクーデリアであったが、次第に、聖衣バニースーツがもたらす力に気づいたか胸元から手を離し、軽くぴょんぴょんと跳ねてみせる。


「……これは凄いな。身体に羽根でも生えたかのように軽くなってきてる。……もしかして」


 クーデリアは床に置いた家宝の鎧を、ひょい、とつまみ上げた。


「……嘘でしょ? あの重い鎧がまるで紙で作ったハリボテみたいに軽い」

「剣も楽に扱えそう?」

「かも知れない。或いは大剣も片手でいけるかも知れない……スフィー、何なんだこれは?」

「これが聖衣の力よ」


 スフィは自慢げににこりと笑う。


「いやこれはズルい。私が家宝の鎧を着て研鑽してきた日々が無意味になってしまうくらいズルい」


 クーデリアは羞恥心を忘れて聖衣の力に興奮していた。家督を背負い女騎士として頑張ってきた日々に対する後ろめたさなど、新しい玩具を手に入れた子供の興奮の前には無意味である。


「加護も付いているから見た目より防御力はあるのよ。これなら鎧に頼らなくてもいいんじゃない?」

「う……」


 クーデリアは摘まんでいた家宝の鎧を抱きかかえる。言葉を詰まらせているのはまだ迷っているからだった。

 正直、家宝の鎧は精神的にも物理的にも枷であったのは本人にも分かっていたのだが、それを解き放つ理由カギを持っていなかった。

 しかし今、自分はそのカギを手にしてしまった。或いはバニー騎士団を志望したのは、本当はそのカギを見つけてしまったからなのかもしれない。クーデリアはその戸惑いを、可能性の高ぶりで押しつぶし――


 ぱきっ。


「はい?」

「く、クー……」

「あらら」


 いのりとスフィはクーデリアが抱きしめてる家宝の鎧を指した。

 そして胸元から変な音が聞こえたクーデリアは、それを確かめる。

 家宝の鎧が割れていた。


「おあ――――っつ!?」

「これはもう引けませんねぇ」


 いのりが動揺するクーデリアを見て意地悪そうに笑う。


「いやいやいやいやいやいやここんな傷直せ直せ治せ」


 ぺきぱき。


「クー、そんな慌てると余計に力が」


 ぱりーん。


「あ゛――――っ゛!゛!゛」


 家宝の鎧見事に粉砕。現実ではツッコミどころ満載の、格闘マンガでよくある鎧が瀬戸物のように破壊されるシーンがそこにあった。それをえっちなボディのバニーガールがやらかしたモノだから、情報量ハンパネェ。

 粉々に砕け落ちた家宝の鎧を目の当たりにするクーデリアはがっくりと膝を突き、血の気が引いた顔でお尻の丸い尻尾をぷるぷる震わせていた。


「家宝と言うくらいだから相当古い鎧だったろうに」

「メンテちゃんとしないと丈夫な鎧も簡単に壊れちゃうから……無理させすぎていたのでは」


 スフィは鎧の破片を拾い上げて断面を見つめていた。


「……ん。これならイケるかも」

「はい?」


 半べそ掻いていたクーデリアの目の前で、スフィが家宝の鎧に手を翳した。途端、鎧が朧気に発光してくっつき、みるみるうちに壊れる前の元の形へと戻っていった。


「これは……」


 いのりは魔法のような奇跡を目の当たりにして目を丸める。


「……否、か」

「我が王家に伝わる修復術です」


 スフィが答える。その横顔はどこか寂しげだった。


「それ……貴女のお父様の……」


 クーデリアはその理由を知っていた。


「代々伝わるモノだから、気づいたのは最近だけど私が

「そう……、でもスーありがとう!」


 クーデリアは嬉しそうにスフィに抱きついた。


「王家に伝わる魔法……?」

「前にも話しましたが我が王国は武器武具の鋳造で栄えた国です。それを支えたのが王族のみが使えるこの秘術」

「へぇ」


 感心したふうに言ういのりは、スフィを見て頷いた。


「パワフル女騎士に、武器防具の修理オッケー名工。中々頼もしいじゃないのバニー騎士団。これで後は攻撃系の魔法使いでもいたらパーフェクトなんだけど、心当たりとか無い?」

「うーん」

「基本的に魔法は魔族の力なので……」

「魔族の力?」

「はい」


 スフィは頷いた。


「魔法を行使するための魔力は人体に有害なので……」

「でもスーちゃんのそれは?」

「心法という、魔力を神の力で人体に無害化して使う術です。我が国教である聖堂教は創世神様を信奉して、心法を使えるようになっています」

「創世神……あのちびっ子バニー、そんなにえらいの」


 いのりは自慢げに高笑いするちびっ子バニー神を想像して困惑した。

                  

「ていうか、その聖堂教って……前にも名前を聞いたけど……その連中から協力者呼べない?」


 いのりが訊くと、スフィとクーデリアは顔を見合わせて気まずそうにする。


「どうしたん?」


 いのりはまだ、聖堂教会の実態を知る由も無く。



                         つづく

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異世界転生してバニー騎士団に入団した金バニーガールは強かった。 arm1475 @arm1475

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