第12話 新生、バニー騎士団!
「バニー騎士団、点呼! いち!」
いのりはそう言って挙手した。
「バニー騎士団、2!」
続いてスフィが両手を挙げてみせる。
「……さん」
スフィの隣に居るクーデリアが気まずそうにぼそりと言う。
「声が小さい!」
いのりはクーデリアを指した。
「あんた、自分から希望して入団したんでしょ? もう少しやる気見せないっ!」
査問会でのスフィの処遇がいのりの弁護?によって不問となり、パニー騎士団はライゼン王国の若き国王クラナッフの直属部隊となった。
その決定直後にクーデリアは国王に直談判し、二人だけになってしまったパニー騎士団への編入が認められたのである。査問会中、幼馴染みの窮地に何も出来なかった自分を悔やんでいたこと、逆境に抗ったいのりを見て思うところがあったのであろう。
クラナッフもクーデリアに何かを感じたのであろう、その申し出を許可した。査問会後、三人は王城の広場でいのりに提案で再結成の儀を始めたのだが、何故かクーデリアは気が乗らない様子であった。
「……しかしだなあ」
クーデリアは被っていたウサ耳ヘッドギアを摘まんでみせる。
「この格好は……」
「クー、入団したのですから聖衣の着用を……」
「いや、ソレだけは譲れない」
クーデリアは明らかに丈のあっていないぶかぶかな自身の鎧で固辞する。
「私の鎧は家長に与えられる伝統の鎧。これを脱ぐのは我が一門に泥を塗るに等しい」
「でもねぇ、明らかにフィットしてないし」
「そ、そんなことはないっ」
動揺するクーデリアはにらみ返す。クーデリアは決して小柄では無く、背丈はいのりとほぼ同じなのだが、その伝統の鎧はどうみても、
「……男用よね、しかもガタイの良い」
「うっ……」
「そもそもソレあんたに合うように調整して貰えなかったの?」
「言っただろう、これは家長に与えられる伝統の鎧」
「……クーの家、当代は男子に恵まれなかったのです」
スフィがいのりに耳打ちする。
「ふーん、結婚して入り婿でも迎え入れればよかったんじゃない?」
「それは断る」
クーデリアは憤った。
「私が女の身で騎士になったのは、我が一族の血統の誇りのため! それを赤の他人の男に委ねるなど――」
「なんかこの世界、男だの女だの少し拘りすぎじゃない?」
いのりは呆れたふうに言う。
この世界に転生したいのりが元の世界との最大の違和感は、魔法や魔物がいること以上にそこにあった。
男尊女卑が激しいとは思っていたがどうも歪な感じがしていた。
同時に、それはよく似ていると思った。
「……こっちの世界にも頭のおかしいフェミとか居るのかねぇ」
「ふぇみ?」
「あー、いやぁ、お姫様には説明すると長くなるけど、あたしの居た世界じゃ他人のためとか言って格好良く威勢の良いコトいうけどブレブレな言動ばっかりで、自分が優れた人間だと他人に認めさせたいだけの承認欲求の塊みたいなのがおってねぇ」
「他人を思いやる気持ちを持つだけでもまだ善人なのでは?」
「世の中、良い子ぶる奴がみんなまともだと思っちゃいけない。自分のために他人を踏み台にしてよしとするゲスは本当に……ううっ思い出しただけで腹が立つ……」
スフィはいのりから立ちのぼる殺気に思わず引く。
「……例の彼氏さんのコトですか?」
「あいつはもう彼氏でも何でも無い――っ、今度会ったらボッコボコにしてやるぅぅぅぅぅぅ」
「会うというってももう元の世界には……」
「そだねーもうあいつと会うこともないから安心だわー」
「何だこの女……」
いのりは突然殺気を消してけろっとする。このコロコロとした変わりぶりにクーデリアは困惑した。
「というか」
スフィはいのりの顔を見て
「なんか苛ついてません?」
「わかるぅ?」
いのりはため息をつくと両手を背中に回し、
「いい加減脱ぎたいのよぉこれぇぇぇなんでそーちゃん出てこないのよォォォォ」
スフィは、いのりが牢屋に閉じ込められていた頃から背中を気にしていたのを覚えていた。どうやらバニースーツをどうしても脱ぎたいようであるが、このバニースーツ、肝心のボタンもチャックも付いていないのである。
「なんであたしのだけこんな変な仕様なの……」
「宝石を外すと私たちと同じ聖衣になるのに何故か脱げないのは、いのりさんのそれは特別仕様だからなんでしょうかね」
「あのちびっ子神様、後で、とか言ったきり姿見せないしどうなってるのよ……」
うんざりした溜息を吐くいのりをみて、クーデリアはやれやれと肩をすくめる。
「スーには悪いがそれだから余計に装備したくないのよね……ましてやあの教団の……」
「ん?」
いのりはそれを聞き逃さなかった。
「教団?」
「この聖衣を作った創世神様を崇める聖堂教会のこと」
「あー、というか、ええ……? あんなポンコツ神崇めてる奇特な連中おるの?」
「奇特も何も、スーの国の国教」
クーデリアに忌々しそうに言われてスフィは恐縮してしまう。
「この国では有力な教団の一つに過ぎないけど、近隣諸国では国教として認定していた国が多かったわ」
「していた?」
「その悉くがあの凶戦士に滅ぼされたのよ。まるで恨みでも買ったように真っ先に狙われた」
「へぇ」
いのりはスフィの顔を見る。スフィはどこか気まずそうに佇んでいた。
「まぁ只の偶然だとは思うけど。何せ大半が魔界と接していたた国ばかりだったし」
「この国は国教認定していないの?」
「我がライゼン王国は複数の民族が集まって興された国で、宗教も限定せず多様化と信仰の自由を認めているる。例え創世神様の宗教といえど例外はない」
「多民族?」
ふと、いのりはこの王城へ来るまでのことを思い出す。
今三人が居る王城の広場は見張り台を兼ねており、城下町が一望出来るのだが、改めて観てもその活気のなさは少し異常である。しかしスフィの話でいのりはその理由をなんとなく察した。
「難民、かな?」
「はい?」
「多民族の街だったら、割と文化の相乗効果で活気があるモノだけどね。
いのりの指摘にスフィとクーデリアは申し合わせたように黙り込む。
最初に口を開いたのはクーデリアであった。
「……魔界と接している諸国からの難民だ。だが彼らがある意味盾になってくれたおかげで人類は持ちこたえる時間が得られた」
「シビアだねぇ」
「そう言わざるを得ないのが現状だ。だからこそ我が国は彼ら難民を受け入れ……おい触るな」
「でもそんなのいつまでも保つわけ無いし」
「ああ。だから我々は魔界の軍勢に勝たねば――ああっだからもう耳を弄るな!」
「それ、耳と認識しているんだ」
いのりはクーデリアのウサ耳ヘッドギアを弄りながらそう言って嫌らしそうに笑う。指摘されたクーデリアは顔を真っ赤にした。
「お、お前なぁっ!」
「クッコロちゃんにはバニーとは何であるか教え込む必要があるわねぇ?――そう、バニー道をっ!」
「ば、バニー道ぉっ?」
つづく
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