第10話 逆転査問会(その2)
今までのあらすじ
凶戦士を斃したいのりとスフィ、何故か裁判にかけられる?
「ところで査問会ぃ?」
いのりは女騎士を睨んだ。
「別に悪いコトしたわけじゃないのになんでよぉ」
「裁判では無い、査問会だ」
「同じじゃないの」
「いえ、違います」
スフィが入ってきた。
「ボクの今回の任務の責任を問う場です。勇者様は恐らく不問のハズです」
「不問、ねぇ」
いのりはもう一度女騎士を睨む。
「アンタ、知り合いがこんな目に遭ってるのに心配じゃないの?」
しかし女騎士は何も答えず先を進む。
いのりはその背を複雑そうな顔で見つめるが、しかしスフィに急かされて付いていった。
女騎士についていった先は、教会のような豪華な装飾が一杯の広間だった。奥にキリスト像でもあれば完全にいのりの知る教会であったが、その場所には装飾品で飾った椅子が三つ横並びになっていた。ここが査問会の場なのであろうか。
いのりとスフィはその席から見下ろせる、広間の中央に横並びに設けられた質素な椅子に座らされていた。先ほどの女騎士はいのりの横に立っていた。
暫くして横にあった扉が開かれ、そこから例の上級大将コーマと、それに続いて分厚い本を抱えたローブ姿の老人、そして金銀でコーデされたローブを羽織る金髪の若い青年が入室してきた。その青年の凜々しい顔にいのりは少し火照った。
「アレ凄い何、生王子様?」
「国王様の前である、私語は慎め」
女騎士が警告した。
「うそん、王子様じゃ無くて王様? あの若さで?」
「先代の王は先の魔王軍との戦いで名誉の負傷で勇退された」
「ほー?」
感心するいのりだったが、関心は隣に座るスフィに移っていた。
スフィは国王が現れてからずうっと俯いたままであった。
三人はほぼ同時に着席する。国王はいのりをみて、ふむ、と唸った。
「あなたが勇者なのか」
「うわイケボ」
「はい?」
「あ。いやいやいや、え、ええ、は、はい」
いのりは動揺してしまう。やはりイケメンには弱いようである。
「……ふん」
そんないのりを見て、上級大将コーマが不機嫌になる。それを察した女騎士が小声で、静かに、といのりに忠告する。
「だってぇ……イケメンだし……なんであのイケメンが上司じゃないの、スフィ?」
いのりが振るが、スフィは俯いたまま何も答えなかった。まるで目を合わせたくない人間がいるかのように。
「おい、そこまで」
「ねークッコロ」
「ク、……くっころ?」
女騎士は困惑する。
「じゃあくーちゃん」
「誰がクーちゃんだ、私にはクーデリアという名前がある」
「やっぱくーちゃんじゃん」
「気安く呼ぶな!」
「国王の御前である、静まれ!」
コーマが二人のやりとりをみて大声で叱る。女騎士クーデリア方をビクッと震わせ、気まずそうに横目でいのりを睨んだ。
「……お前のせいで叱られたでは無いか!」
とクーデリアは文句を言うが、いのりは両方とも無視した。
そんなやりとりを見ていた国王がクスクス笑っていた。
「国王、査問会の場ですよ……」
厚い本を開いていたローブ姿の老人が困ったように言う。
「あー、すまない、つい」
「イケメンは何やっても様になるわね……」
「その、一つ良いか」
「はい?」
国王に声を掛けられていのりはドキッとする。
「イケメンとは何か?」
「反則よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉその質問反則ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
「そろそろお戯れは」
「あ、はい」
いのりはオーバーアクションで気絶しそうなフリをするが、隣にいたスフィからも叱られ、素に戻って大人しく着席した。
「国王、そろそろ査問会の開始を宜しいですか」
「あ、ああ」
ローブ姿の老人に促されて国王が気まずそうに頷くと、ゆっくりと立ち上がったコーマが高らかに宣言する。
「これより先の勇者召喚の任でのバニー騎士団全滅の咎でスフィア・ロム・アルトリアの処遇を決める」
「スフィちゃんの本名かあ」
「何を呑気に……」
「くーちゃんの本名は?」
嫌味に言うクーデリアに、いのりはニヤニヤしながら聞く
「私の本名だと?」
「クーデリア・トア・エトワールです」
「スフィ……貴女ねぇ」
スフィは俯いたまま囁いた。クーデリアはそんなスフィを見て呆れる。
「お前ら何を勝手に話をしてる!」
コーマがまた怒鳴った。叱られたクーデリアは背筋を伸ばして緊張するが、全く気にもしていないいのりに、小声でおのれ……と睨んでぼやいた。
「これだから女は……」
「んー?」
いのりは吐き捨てるように言うコーマの捨て台詞に眉をひそめた。
「まずは! スフィア・ロム・アルトリア! 卿の処分である!」
コーマは不機嫌のまま話を続ける。
「卿は創世神様の指導の下に結成されたバニー騎士団の生き残りである! しかし結成最初の任務であった勇者召喚の儀で、あろうことか諸国から集った勇士たちを死なせた! これは万死に値する!」
「なんじゃそりゃあ!?」
コーマの発言に思わずいのりは立ち上がる。
「なんで?! あの連中が死んだのは別にスフィちゃんのせいじゃないでしょ!?」
「黙って座っておれ! まだ話は続いておる!」
「続いてって――」
いのりは反論しようとしたが、それをスフィが手を上げて無言で制する。いのりは渋々座り直した。
スフィは自分の辛い運命を予期していたように堪えているようだった。
僅かに震えるその肩を見てしまっては、いのりは黙って従うしか無かった。
つづく
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