第9話 逆転査問会(その1)

 前回までのあらすじ

 色々アブナイ逆バニーぶっ飛ばしました。 あと赤丸まさかのお姫様。



「……それは兎も角、勇者として召喚されて魔界側のクソ強い奴斃して王都に凱旋したら普通、救世主として大歓迎されるよね?」


 異世界転生した金バニーの風俗嬢、宇佐美いのりは薄暗い牢屋の鉄格子を鷲掴みにする。


「何でこんな牢屋に入れられにゃならんのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ?!」

「御免なさい、折角あの凶戦士ベルセルカを斃して戴いたのに、こんなコトになるなんて……」


 いのりの向かいの牢獄にいる赤丸が済まなそうに答えた。


「いやあ、赤丸ちゃんが謝る必要なんてナイナイ。つか何あの出迎えたえっらそーなおっさん?」

「彼はこのライゼン王国の上級将軍コーマ殿です。バニー騎士団はあのお方の指揮下にあります」

「あんなのが上司ぃ?」


 いのりは心底嫌な顔をする。


「元の世界にもあーゆうサラリーマン客、いたのよねぇ、何かとエラそうに部下にパワハラ、セクハラ繰り返してそうな奴。何?『騎士団全滅させてのこのこと還ってこれたな?』だって? バカ言うんじゃ無いよあんなおっかない奴相手にして良く無事に帰ってきたな、って喜ぶのが普通じゃん!」

「騎士団は魔界に立ち向かうべく各国から選りすぐりの戦士によって編成された人類連合軍でした。この王国からは半数以上参加されていただけにあのお方はこの事態にご立腹なんでしょう」

「事態って!? あの逆バニー、人類側メチャメチャに荒らし回ってたんでしょ? おっさんがバニースーツ着たくらいで勝てるかと思ってた方がおかしいのよ!」

「あの聖衣は創世神様が人類が魔界に対抗するために用意されたものです。まさかあそこまで相手が強かったとは想定外でした……」

「それよそれ」


 いのりは赤丸を指した。


「オッサンたちが決して弱かったとはあたしも思っちゃいない、あの筋肉は思い出しただけでもご飯三杯イケるほとキレッキレに見事だった。にもかかわらずあっさり負けた。あの変態衣装を過信していたからよ」

「せ、聖衣です……」


 赤丸はそろそろ自信がなくなってきたようである。

 苛立ついのりは仰いだ。


「聞いてる? ちびっ子神様っ!」

「私も先ほどから呼びかけてはいるのですが……」

「……ちっ。神様なんだし間違いなくこっちの声聞いてるわよアレ」


 いのりはこめかみに血管浮き立たせる。


「全くの役立たずのシロモノ渡して、ばつが悪くて無視してんのよきっと」

「決してそのようなお方では……ん?」


 赤丸は牢屋に近づく足音に気づいて、格子越しに音のする方へ向く。

 やってきたのは牢の番人だが、一緒に鎧姿の人物がいた事に気づいた。


「貴女は……」

「ん?」


 いのりは件の鎧の主を見る。


「ありゃ? さっきの女騎士さん?」


 いのりはその顔に僅かだが見覚えがあった。この王都にやってきた時、自分たちを包囲した兵を指揮していた、腰まである長い赤髪の美女だった。

 ガッチリした重そうな鎧を装備しているのだが、その細い美麗な顔の主には明らかに持て余しているサイズなのがよく分かった。まるでだぶだぶの服を着ているようである。

 女騎士は赤丸の方を向いた。


「バニー騎士団副長赤丸ならびに破廉恥女」

「だーれが破廉恥だって?」

「お前だお前」


 女騎士に指されていのりは睨み返す。


「これから査問会を始める。大人しく牢から出て付いてこい」

「査問会ぃ?」

「これからお前たちはバニー騎士団の件で処分が下される。黙秘並び虚偽の発言は一切認められないからそのつもりで」


 女騎士は二人に感心など無いようで冷たく言い放った。


「ちょいまち。なんであたしらが査問――裁判? 裁かれなきゃならないのよ」

「裁かれるのはお前では無い」


 いのりは、え?と暫くきょとんと目を丸めていたが、やがて思い出したように赤丸のほうを見た。


「お前は今回の事件の重要参考人ではあるが事と次第によってはその咎を問われるだろう」

「だからさぁ!」


 いのりは格子をひっぱる。ガシャン、と鈍い音が牢屋に響いた。


「なんで凶戦士あいつぶっ飛ばしたのにこの扱いわ!」

「勇者様、後は私に任せてください」


 赤丸が静かに遮った。驚いたいのりは言葉を失う。

 沈痛そうな赤丸を見て、女騎士はため息をついた。


「……、本当、貴女、昔から独りで抱え込んで」

「ん?」


 いのりは女騎士のつぶやきを聞き逃さなかった。


「……もしかしてアンタたち知り合い?」


 女騎士は何も答えず只、二人に牢屋から出るよう促した。

 いのりは渋々開けられた牢の扉から出てくる。赤丸も無言で昔の牢から出てくると、いのりに深々とお辞儀した。


「勇者様申し訳ありませんでした」

「んもー、謝らなくて良いの! それよりこれからどうすんの?」


 は思わず瞠った。


「な、何で私の名前を」

「言ったじゃん、


 いのりはそう言って女騎士の顔を見た。

 女騎士は無言でその場に佇んでいた。



                   続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る