第7話 負けっぱなしじゃ女が廃る

前回までのあらすじ 逃げおおせたと思っていたらあの怪物追ってきた どうする?


   *   *   *   *   *   *   *   *


「うー、しつこいやっちゃあ……」


 いのりは頭を抱えてしゃがみ込む。


「お店にも時々あんな感じのヤバい客現れたよなあ、その時は怖いお兄さんがなんとかしてくれたけど……ねぇ神様ぁ、怖ーいお兄さんのオプションとか無いの?」

強請ねだっても無駄じゃあ、妾にはそこまで権限が無い」

「勇者は呼べるのに?」

「痛いとこ突くのぉ」


 そーちゃんは苦笑いする。


「これでも妾はこの世界の創世神だから、」 

「んー?」


 いのりはそーちゃんの言葉に違和感を覚えた。その違和感が何なのか、その時は知る由も無いのだが、いのりは何故それを問いたださなかったか、後に後悔することとなる。

 そこで再びそーちゃんの身体が半透明になってぶれ始める。


「またか……うう、すまぬ、また奴の影響が出ておる……逃げられるなら逃げるんじゃぞ……」


 そーちゃんはそこまで言ってまだ消えてしまう。

 いのりはやれやれ、と肩をすくめて見せた。


「兎に角今は逃げるか、それとも」

「反撃しましょう」

「あんた……」


 まだ回復出来ていないハズの赤丸が立ち上がっていのり見据えながらいう。


「反撃と言ったって、どうすれば」

「この地にあった王国は、武器の鋳造で栄えた技術立国でした」


 赤丸は今や廃墟となった城内をゆっくりと見回す。それはどこか懐かしむようで、しかし辛そうな面持ちで。


「あんた、もしかしてこの国の……」


 訊かれて、赤丸は頷いた。


「この王国が魔界に対抗するための勇者召喚に失敗した事が原因です。ボクはそれに決着を付けるために創世神様のお力を借りて聖衣を作り、各国の協力の元、猛者を募ってバニー騎士団を組織し、勇者様を正式に召喚して反撃しようと思ったのです」

「つまり、

「――」


 思わず瞠る赤丸。

 いのりは難しそうな顔で頭を掻いた。


「あの集団の中で何か浮いてたからねぇ、あんただけ。隠し事するような人間は信用しないのよねぇあたし」

「う……」


 赤丸はいのりの顔を見て言葉を詰まらせる。確かに赤丸はいのりに全てを明かしていなかった。


「隠し事をされてて、素直に従うお人好しなんてもうゴメンなのよ。何せ悪い男に騙されてねぇ……思い出すだけでもムカツクぅぅぅぅぅ」


 いのりはその場で地団駄を踏む。ヒモだったあのクズ男のことは二度と思い出したくなかったようである。


「だからさぁ――負けっぱなしは女が廃る」

「え……」

「アレがあたしの影ならあたしにも責任はあるでしょ? なのにアンタ、あたしには恨み言一つ言わないし命がけで助けてくれた。他の連中もあたしの身の上話で泣いてもくれた。だったらあんな気の良い連中の仇をとらないでどうするの」


 そう言っていのりはウインクする。

 赤丸は呆然としていたが、やがていのりの言わんとしていることに気づいて驚いた。


「闘ってくれるのですか!」

「つーか、逃げられんでしょアレは」


 そう言っていのりは肩を落とす。


「奴はどうやってここにあたしたちがいるコトを?」

「はい?」

「まーあたしの感だけどさぁ、奴があたしの影なら何らかの繋がりを感知しているんじゃ無いかね? あたしが召喚されたばかりなのに奴が現れたのはその所為」

「あ……」


 赤丸は驚いた。正直言って召喚した勇者の第一印象が余り宜しくなかった。

 のほほんとしてて頼りなさそうに見えていたこの若い女が、まさかこの危機的状況で自分より冷静に状況分析出来るふうな賢そうな女には見えていなかったのだ。

 とはいえ赤丸もそれは可能性としては考えていた。しかし逃げても無駄だという事を言っても、迎撃を進言して果たしていのりが従ってくれるだろうか不安だった。

 赤丸はあの凶戦士ベルセルカに対して初めて勝機を抱いた。この勇者なら勝てるかもしれない、と。


「まーその為には武器の一つでも無いと」

「あります」

「あるの?」

「はい」


 赤丸は頷いた。


「先ほども言いましたがこの王国は武器鋳造で栄えた国。そしてここはその王城。滅ぼされましたが武器はまだ眠っています」

「エライ自信あるわね」

「この王国くにの生まれですから」


 赤丸は嬉しそうに胸を張った。


「しかし時間はありません、急いで探しましょう」

「心当たりあんの?」


 訊かれて、赤丸はいのりの背後を指した。


「そこはかつて王座がありました。その裏の奥に、王家が用意した武器がまだ眠っているはずです……つっ」


 赤丸は軽い立ちくらみを覚えるが、いのりが咄嗟に駆け寄ってそれを抱き支えた。


「済みません……まだ回復出来て無いようです」

「……」

「……どうかされました?」


 いのりが赤丸の顔をじっと見つめているので不思議がった。

 やがていのりが何かを理解したのか、うんうん、と頷くと、赤丸の肩を担ぎ、赤丸が指したほうへ歩き出した。


「あっちに宝物殿みたいなのがあるわけ?」

「はい。そこなら武器が……」

「……それは当てにしない方がいいかも」

「?」


 二人はやがて突き当たりにある大きな扉を目の当たりにする。

 赤丸はその扉を見て戸惑った。


「鍵が……」

「魔物か、あるいは盗賊か」


 いのりはため息をついて、鍵が外されていたその扉を開けた。


「しまった――」


 赤丸は舌打ちした。宝物殿の中は略奪された後でほぼがらんどうであった。


「魔界の侵攻で危険な場所になったから近寄らないと思ったのに、まさか武器まで持ち出されていたとは……」

「魔界の連中が持ち出した可能性もあるけど、高く売れる物があるならこんなヤバそうな場所でも行くのが人間ってもんよ。まあ想定済み」


 いのりは落胆する赤丸に苦笑いしてみせる。


「どのみち剣や槍じゃあの巨大な斧に勝てるとは思えないから。――工房は何処?」

「工房?」

「武器鋳造で名を馳せた国なんでしょ? そこへ案内して」



 二人が宝物殿の前に立った頃、凶戦士は遂に城砦へ踏み入った。接触まであと僅か。果たして?



                  つづく

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