第6話 凶戦士のひみつ

 これまでのあらすじ 

 破廉恥なでおっかない逆バニーが、バニー騎士団を一撃で全滅させちゃった。果たしていのりの運命は?


   *   *   *   *   *   *   *


 いのりが目を覚ましたのは廃墟だった。

 壊れた壁に飾られているレリーフや床の豪華な作りなど、TVゲームやファンタジー映画などで見覚えのある、崩壊した古城の中をいのりに想起させた。

 身体が痛い。あの自分と同じ顔をしたバケモノからなんとか逃れられたらしい。

 はっとする。慌ててその姿を探す。

 赤丸は手前で突っ伏していた。いのりは慌てて起き上がって赤丸を揺り起こした。


「きみ!?」

「あ……起きました?」


 赤丸はゆっくりと血まみれの顔を上げる。いのりは小さく悲鳴を上げて、血を拭えるモノが無いか周りを見回した。


「あ……大丈夫……額を軽く切ってただけなんで」

「みんなあんな酷い攻撃食らってたでしょ――」


 いのりは思い出して口を押さえる。深呼吸を数回して嘔吐感を何とか我慢した。

 

「強い人だ、やっぱり勇者様だ」


 赤丸は弱々しい笑みを浮かべるとゆっくりと身を起こした。


「ボクは大丈夫です。みんなみたいにあの凶戦士ベルセルカに魅入られていなかったから」

「でもどうやってあの場を……」

「奴らのトカゲを一匹支配してここまで来たんですよ。魔石の力で無理矢理支配ティムしたのでトカゲの身体保たなくて途中で潰れましたけど」

「魔石?」

「これで」


 赤丸は自分の襟に付いているピンク色の宝石を指した。


「モルガナイトの魔石には魔物を支配ティムする力があるんです」


 赤丸がそう言うとそのピンク色の宝石が砕け落ちた。


「あ」

「もう使用したので壊れたんです。回避の時はガーネットの魔石で体力を強化しましたが、あの斧に一撃加えた時にぶっ壊れました。勇者様みたいに、ボクに適合する石でもあれば長持ちするんでしょうけど」

「適合?」

「あれ、気づいていなかった?」


 赤丸はいのりの襟を指す。

 いのりはようやく何かに気づいたらしい。襟を持ち上げるとそこに金色の石が付いていることに気づいた。


「ん……外れる?」


 いのりが金色の石を摘まむとそれはするっと外れる。するといのりの金色のバニースーツが変色を始め、赤丸やバニー騎士団たちが装備していた鎧みたいな黒いバニースーツに変化した。

 同時に、ずしん、と鎧の重さがのし掛かる。


「うわ……な……なに……クソ重ぉ……」

「あー、適合しているのだから石はそのままにした方がいいですよ」

「あ……う、うん」


 いのりは慌てて襟に金の石をはめ直す。再びそれは金色の光を取り戻して身軽になった。正直こんな派手なスーツは脱ぎたかったが今はそうは言ってられないようである。


「聖衣って冗談じゃ無かったんだ」

「その金色の石に見覚えが無いんでよく分からないんですが、適合してる以上、多分防御力や魔法攻撃に対する抵抗力も備わってるはずです。今はそのままにした方が……くっ」

「き、きみ」


 心配するいのりに赤丸は頭を振ってみせる。


「いや、これ、魔石を二つも使ったからボクの体内のマナ使い果たして……生命力を触媒に転換するから暫く休めばまた回復するので……」


 そう言うと赤丸はまた仰向けに寝転んだ。いのりはそれを見てほっとする。


「さっきのあたしと同じ顔をしたバケモノは……」

「あれは侵略してきた魔界の先兵です。人類軍が公式に確認出来たのはついさっきでした」

「先兵? 確認?」


 いのりはきょとんとする。


「そういえばこの世界の現状説明する前にやられてしまいましたよね。

 ……もう半年も前ですか、魔界が突然人間界に侵攻を始めまして、魔界に近い処にあった王国が滅ぼされたことで人類は奴らに抵抗すべく連合軍を組織しました」

「王国を滅ぼした?」

「ここです」

「え」


 いのりは辺りを見回す。この無人の崩壊した古城跡は魔界の侵攻によるものなのかと驚いた。


「凄かったですよ、魔界の怪物たちは」


 赤丸はその目で見たように語り始める。


「為す術も無くて、僅かに生き残った者達が死ぬ気で説得しましたが時間が掛かりました。さっきの凶戦士ベルセルカが戦場に出てるまでは高をくくってましたからね」

「あいつが……でもなんであたしと同じ顔……」

「顔が同じなのは多分、勇者様だからでしよう」

「はい?」

「はあ?」

「そこから先は妾が説明しよう」

「「あ」」


 宙に突然、そーちゃんが出現した。


「そちらに限界出来なくての、失礼する」

「宙に浮いてる方がらしいというか……」

「じゃろ? じゃろ?」


 そーちゃんは笑いながら空中反転した。


「――それはおいといてじゃ。おんしは知らないだろうが、最初に勇者召喚を行ったのは半年前なんじゃ」

「え」


 いのりは瞬く。


「半年前に召喚されたのに何でさっき現れたの?」

「半年前の召喚の儀は失敗だったんです」


 赤丸が答えた。


「予期せぬ魔界の急襲でね。……その結果」

凶戦士ベルセルカ召喚てきたのじゃ」

「――」


 いのりは両手で口を押さえて絶句する。


「……まさか」

「気に病むな。あれは召喚の儀を失敗した事で出来てしまったおんしの影みたいなものじゃ、おんし自身では無いし、何より魔界側の関与も見られる」

「関与?」

「勇者召喚の儀の中断で失敗させてあのような怪物を作り出す子を図ったのじゃろう。儀式には妾も遠隔で力を貸していたのじゃが、途中魔界側の関与の痕跡もあった。いわば魔界の連中に勇者召喚の儀を逆利用されたのじゃ。あそこにはがおってなあ、奴の仕業に間違いない」

「我々バニー騎士団は中断してしまった勇者召喚の儀を改めて完遂させ、やっと勇者様をお迎え出来たのですが……魔界の勢力圏となったここで再開したのははやはり無謀でした」


 宙を仰ぐ赤丸は悔しそうに言う。


「妾にも責任がある」


 そーちゃんは頭を振った。


「召喚の魔法陣を未完のままこの地に刻んでしまった以上、人類の勢力圏で再度執り行うのは不可能であった。召喚系は同じ魔法陣を同時に使うことは出来ぬからなあ、魔法陣を取り消すにはもう一度執り行って完遂させる必要があった」

「こんなヤバいところに呼ばれたのはその為……」

「はい」


 赤丸は頷いた。


「犠牲者も想定はしていましたがまさかここまでとは……」

「妾の顕現を付与した聖衣はやっぱり急ごしらえじゃったわ。使

「まー、流石にバニースーツは男が着る物じゃ無いし」


 いのりはそう言うと、ちらり、と赤丸を見る。


(その割にこの子、妙にバニースーツ似合うのよね。でも他の連中の話なら女には着せさないって話だし……)

「改良の余地はあるじゃろな」

「いやあちょっとそれはもうご遠慮願いたい」

「あの凶戦士の衣装を参考にしてもっと露出を増やせば」

「いやもうやめて破廉恥すぎる」


 いのりは堪らず突っ込んだ。


「あ、そうじゃ」

「何」

「肝心なこと言うの忘れておった、それを伝えに来たんじゃ妾」

「だから何」

「あの凶戦士こっちに来とる」

「「それを早く言えっっ!!」」




                    つづく

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