第4話 金バニー23のひみつ

第4話ですがあらすじ

金バニーいのりが剣を握った!


*   *   *   *   *   *


「死霊化して耐久力が低くなっていたとはいえ、我々が苦戦していたあの飛竜を二度も一撃で……」


いきなり赤丸から長剣を投げ渡されて思わずキャッチし、背後の殺気に反応して条件反射で攻撃してしまってしょんぼりしているいのりを見てリーダーは愕然とする。

 5発の突きで飛竜の四肢を吹き飛ばしたふうに見えたのだが、かろうじてリーダーはいのりの動きがそれ以上の反応をしていたことに気づいていた。つまりと推測出来る。熟練の剣士を自負していただけにリーダーは思わずぞっとした。


「何者なんだこの女……いや……それより」


 リーダーの関心はいのりよりその手が握る長剣だった。


「おい赤丸」

「はい?」

「どさくさに紛れて俺の剣投げやがったな」

「あはは」


 リーダーの隣にいるピンク頭の若輩バニー騎士は笑って誤魔化した。


「いや俺はそれを怒ってるんじゃ無い。確かに投げたのは俺の剣だよな」

「ええ――あ」


 赤丸はようやく気づいた。


「何で金色に――否、何か形まで変わってる」


 いのりが手にする長剣は、赤丸が放り投げた時は、記憶に間違いなければ確かに普通の鈍い鉛色の使い古されて刃こぼれもあった黎鉄の長剣だったハズである。

 では何故いのりが今手にするその剣が、豪華な装飾に飾られた黄金色に輝く重厚な剣とすり替わっているのか。


「……あれ?」


 いのりもようやくそこで自分が持っている剣の異様さに気づく。


「うわ、上、何この高そうなっやだっ」


 吃驚したいのりは黄金の剣を放り投げる。

 咄嗟に反応したリーダーがそれをキャッチすると、黄金の剣は瞬時に愛用の剣の姿に戻った。


「な、なんだこれ?」

「妾が勇者に授けた力じゃ」


 一同の困惑を面白がってみていた創造神のそーちゃんが笑いながら答えた。


「勇者はその手にした武器を聖なる武具へ変化させることが可能なのじゃ」

「な――」


 いのりは絶句した。


「しかも勇者が纏うバニーの聖衣も武具の特性に合わせて変化するよう付与エンチャントしておるゾ、なかなか派手じゃぞい」

「な……なんてことを……っ!」


 混乱したいのりはバニー騎士団たちが要るにもかかわらず背中に手を回してバニースーツを脱ごうとするが肝心のチャックが見当たらなかった。


「あー、それは妾の許可無しには脱げんぞい」

「なーなにしてくれんのぉぉぉぉぉぉ!!」


 キレたいのりがそーちゃんに詰め寄るが、そーちゃんは悪びれた様子も無く口笛さえ吹いていた。


「トイレとか風呂とか、まともな一般生活出来ないじゃない!!」

「戦闘中だけじゃ、日常生活ではちゃんと脱げるようになっておるから安心せい。つーか今はおんしにやるべきことがあろう?」

「何がっ!?」

「おんしのその強さを男どもに説明する事じゃ」

「ええ……」


 言われていのりがバニー騎士団のほうへ振り向くと、一同が整列していのりのほうを見ていた。


「破廉恥な振る舞いは兎も角――この力、紛れもなく創世神様から使わされた勇者と認めざるを得まい」


 リーダーは恭しく敬礼した。

 いのりはほとほと困り果てた顔でため息をついてうなだれた。


 いのりは幼い頃から古武道の達人である祖父の厳しい教育を受けていた。

 幼い頃両親を事故で亡くし、唯一の肉親であった祖父に引き取られたのだが、その祖父はご近所でも有名な変人であったという。

 偏屈な性格の老人で、幼女のいのりを引き取って直ぐ修行を始め、自身の流派の技をその小さな身体に容赦なく教え込んだのである。余りの無茶ぶりに心配した近所の人たちが児童相談所に通報するなど何度も問題になったほどである。

 だか、祖父の教育が武術だけでは無く、学問や礼儀作法も同時に行われた事や、いのり自身の武術家としての高い素質が早くに開花したこともあり、文武両立した礼儀正しい少女へ成長した事で、児相やご近所とのトラブルも次第に減って行った。

 果たして、小学校を卒業する頃にはいのりは祖父から流派の印可を受け、近所でも評判の大和撫子に成長していた。全ては愛する孫が世知辛い世間を独りで生き抜く術を限られた時間で教えたいという焦りだったのだろう、いのりが中学2年の時に病に倒れて帰らぬ人となり、いのりは天涯孤独の身となった。


「まーそれでも悪い男には騙されるんだけどねー、お爺ちゃん本当ゴメン、とほほ」


 いのりは苦笑いしながら説明する。


「謙遜を。勇者殿、何という人生……っっ」

「拙者感動しました……っっ!」

「何か忘れているような気もしますが下半身の苛々も治まったのでヨシ!」


 赤丸以外のバニー騎士団の面々は情に脆いらしく、いのりの苦労人人生に感動して泣いていた。


「相変わらずお手軽な奴らじゃのう」


 そーちゃんは騎士団たちの隣で赤丸と一緒に正座してお茶を飲んでいた。いのりは皆に長い身の上話につき合わせてしまったので恐縮していたこともあり、この二人の態度に触れることはややこしそうになると思って避けた。


「で」赤丸は湯飲みを置いて、「リーダー、どうなされます?」

「決まってるだろ、我々はいのり殿を魔界の侵攻に立ち向かう聖なる勇者として認める事に異存は無い!」

「まーそういうわけでよろしくですー」


 赤丸は笑顔でいのりと握手した。いのりはまだこの世界の事(特にバニー騎士団たちのノリ)について行けない処もあったが、ひとまず孤立しないで済みそうだと安心した。

 いのりはふと、あることに気づいた。


「……魔界の侵攻って言ってたわよね?」

「さっき、妾もゆぅたぞい」

「ここ、どこ?」

「ここは魔界と人界の境界、最前線」


 赤丸がさらっと答えた。


「人類がギリギリ活動出来る境目、ここを越すと生還率が限りなくゼロに」

「じゃあ、昏い空があるあの先からやってくるのは」

「昏い空?」


 言われて赤丸がいのりが指す方を見る。


「ああ、あれは魔界の――」


 そこまで言って赤丸の呑気な顔に緊張が走る。


「リーダ-! 奴だ! 凶戦士ベルセルカが現れた!」



                  続く

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