第096話 性格は違うけど、仲良さそうだね


 私が大村さん(+宮部さん)とヨハンナを呼んでしばらくすると、ノックの音が会議室に響いた。


「ヒミコ様、大村さんと宮部さんが来ました」


 受付のエルフの子の声だ。


「通してちょうだい」

「はい」


 エルフの子が返事をすると、扉が開き、さっきまで会っていた大村さんと宮部さんが学校の制服姿で入ってきた。


「休んでいるところをごめんなさいね」


 私は近づいてくる2人に謝る。


「いーえ。呼ばれれば行くわよ」


 大村さんは冷静に返事をした。


「あ、お風呂と制服をありがとう。いやー、久しぶりに着たから懐かしいね。本来なら卒業してるけどさ」


 宮部さんはテンションが上がっているようだ。


「いえいえ。お似合いですよ」

「ありがとー。私も捨てたもんじゃないね。あ、敬語の方がいいかい? 神様だよね?」

「いえ。お前達からしたら私は高校の後輩でしょうし、敬語はいりません。ただ、私のために祈って頂けさえすればそれでいいです」


 ジークやエックハルトなんかは完全にタメ口だしね。

 原因は動画のせい。


「ヒミコ様ー、ヒミコ様ー……」


 宮部さんは目を閉じ、両手を合わせると、私に向かって祈りだした。


「まあ、それでいいです……」


 適当な人だなー。

 まあ、別にいいけど……


「それで? 頼みたいことって何かしら?」


 大村さんが聞いてくる。


「あー、ちょっと待っててください。もう1人来ますから。お茶を出しましょう。何が良いです?」

「フラペチーノ」


 宮部さんが即答した。


 出せないって言ってんのに……


「リース、買ってきなさい」


 めんどくさいからリースに頼もう。


「えーっと、どこに売ってます?」

「ほら、本部がある最寄りの駅の中のコーヒー屋よ。何度か行ってるでしょ?」

「あー、はいはい。じゃあ、買ってきます。1つで良いです?」

「勝崎は飲まないでしょうから5人分……いや、絶対にヨハンナも飲むか。6つで」


 甘いものが大好きだし、絶対に飲みたいって言うだろう。


「了解しました」


 リースは頷きながら答えると、一瞬にして姿が消えた。


「あのー、ひー様、さり気に俺の分を省いたのはいいんですけど、リースって日本に帰れるんですか?」


 あ、勝崎には言ってなかった。

 まあ、いっか。


「リースの魔法で転移したのよ? 帰れるに決まってんじゃん。説明がめんどくさいから皆には言ってはダメよ? あっちに帰っても私達は指名手配されているからね。準備がいるの」

「あー、なるほど……」


 勝崎は納得したようだ。


「ごめんだけど、あんた達も誰にも言わないで。あんた達を先に帰すと、色々と問題があるの」


 私は大村さんと宮部さんにも黙っているように頼む。


「だろうね。間違いなく、警察に保護され、事情聴取だろう。そして、正直に話して、精神病院っと……嫌だよ。帰る時は皆で帰る方がいいね。そんでもって世界を滅ぼそう」


 宮部さんって、理解力がすごいな。

 例の観察力上昇のスキルかな?


「世界は滅ぼしませんよ。幸福に包むのです」

「一緒だと思うけどなー……まあ、いいや。でも、帰れるならフラペチーノじゃなくて、ゲームを頼めば良かった」

「前にナツカとフユミがリースに頼んだやつならありますけど……」


 確か、ナツカの部屋に転がっているはずだ。


「貸して」

「後で渡します」

「やった! 頼んでみるもんだねー」

「私は幸福の神ですから」


 ナツカの部屋から取ってくるだけだしね。

 あの姉妹、速攻で飽きてたし。


 私と宮部さんが話していると、ノックの音が響いた。

 そして、扉が開き、ヨハンナが入ってくる。


「ヨハンナ、参上いたしました!」


 ヨハンナがどこで覚えてかは知らないが、敬礼をする。


 大村さんと宮部さんはそんなヨハンナを凝視した。


「あれ? 見かけない顔…………その服を着ているということは生徒さんですか。新入りです?」


 ヨハンナが近づきながら聞いてくる。


「ええ。篠田さん達と一緒に帰ってきたんです。こちらは大村さんと宮部さんです」


 私はヨハンナに2人を紹介した。


「始めましてー。キツネ族の長であるヨハンナです」


 ヨハンナが挨拶をする。


「キツネ耳? 初めて見た…………あ、大村です」

「本当に獣人族っているんだねー。さっきのエルフもびっくりだけど……あ、宮部です」


 どうやらこの2人は亜人を見たことがないようだ。


「この1年で見なかったの?」


 私は意外に思い、2人に聞いてみる。


「ええ……初めてよ。もちろん、話には聞いていたけど」

「私達はあんまり出歩いていないからね」


 町で獣人族を見かけるとしたら奴隷関係の場所か……

 そういうところは治安が悪そうだし、近づかなったんだろう。


「本物ですよー」


 ヨハンナは器用に耳と尻尾を動かした。


「ホントだ……」

「すごい!」


 大村さんと宮部さんが驚いている。


「いやー、新鮮な反応ですねー! 早く、首領に会わせたい!」


 ヨハンナは何が嬉しいのかわからないが、喜んでいる。

 まあ、驚かせたいのか……


「首領?」


 大村さんが私に聞いてきた。


「こいつらのボス。でっかいライオン」

「ライオン……」


 でっかい猫だよ。

 あ、大村さんは犬派だったね。

 ペロだっけ?


「見てみたいなー」


 宮部さんは嬉しそうだ。

 さすがは適当人間。


「首領は平原にいますし、すぐに見つけられるんで、今度、会ってみてください。あ、それでヒミコ様、私に用って何でしょうか?」


 3人は交流を深め終わると、ヨハンナが用件を尋ねてくる。


「あー、それね、うん。大村さん。実はこのヨハンナはとっても強いんですよ」


 知らんけどね。

 一族の長で戦場に出ようとするくらいだから強いんだろう。


「ん? あ、そう……」


 当たり前だが、大村さんは意味をわかっていないっぽい。

 だが、さっきまで笑顔だった宮部さんの顔が真顔になった。

 私の意図を察したようだ。


「ね? あんたって強いよね?」

「もちろんですよー。私はキツネ族の長ですよ? キツネって弱いイメージがあるかもですが、立派なハンターですからね。鉄くらいなら一撃で切り裂いてやりますよ」


 ヨハンナが爪を立て、牙をのぞかせた。


「だって!」


 すごいね!

 頼りになるね!


「うん。それが何?」

「えっとね、お願いがあって、大村さんのスキルをちょっと貸してほしいんだよね」

「それはいいけど……」


 大村さんは表情を変えずに隣にいる宮部さんを見る。


「君に戦場に出ろって言ってるんだよ。こっちの世界には電話も無線もないから連絡手段がない。連携や戦況を知るのに念話を借りたいってことだよ」


 やっぱり宮部さんは気付いていたようだ。


「ふーん……」

「基本的には後方にいればいいから! それにヨハンナを護衛につけるから! とっても強いし、頼りになるよ!」


 ね?


「え? 私、後方です? 敵をぶっ殺しに行く予定なんですけど……」


 無駄に肉食獣の血を思い出すんじゃないよ!

 キャバ嬢のくせに!


「前戦に出るのは兵の役目です。指揮官は後方でしょう…………まさかですが、ジークもですか?」

「当たり前じゃないですか。トップが皆を引っ張るんです」


 えー……


「マシンガンなどの武器を与えたんですからそれで行きなさいよ。トップはどーんと後ろで構えていなさい」

「えー……」


 こりゃ、ジークにも言わないとダメだな。


「とにかく、あんたは大村さんを守りなさい。物資の補充や戦況の報告を担う重要な役目なのよ。武器も食糧もなかったら戦いようがないでしょ」

「はーい……」


 ヨハンナは渋々、頷いた。


「というわけで、大村さん、実に心強い護衛がいますので安心です」

「この人、いつのまにかいなくなって、前線に出てそうだけど?」


 大村さんがヨハンナをじーっと見る。

 すると、ヨハンナがそっと目を逸らした。


「未成年の生徒達も増えてきたし、風紀を乱すキャバクラは潰そうかな……」


 教育に悪いと思う。


「わー! やめてー! 私のお城がー!! わかりましたよぅ……護衛しますよぅ……」


 ヨハンナがしくしくと泣き出しているが、どう見てもウソ泣きだ。

 そういうは客の男にやれっての。


「ヨハンナは信用できます!」


 私は大村さんに向かって断言した。


「はあ、まあ、それはわかったわ……でも、戦場か…………」


 やっぱり嫌だわなー……

 異世界で1年も過ごしているとはいえ、冒険者になって、モンスター退治をしていたわけでもないだろうし。


「無理ならいいですよ。強要するようなものではないですし、こっちで何とかします」


 栄養ドリンクで頑張ろう。

 もしくはエルナに頼むかな。

 あいつもお告げを使えるし、イルを戦地にでも送れば…………いや、無理か。

 大村さん以上にやりたがらなそうにないし、ミルカが泣きそう。


 私はどうしようかなーと悩み続ける。


「行ってもいいわよ。でも、トウコも連れていくわ」


 しーんとしていた室内に大村さんの綺麗な声が響いた。


「宮部さんも? いいの?」

「ええ。いいわ」


 宮部さんに聞いたのに大村さんが答える。


 どうやら、私が悩んでいる間にコソコソと念話で何かを話していたっぽいね。


「じゃあ、おねがい。出発は2週間後くらいになるから」

「ええ、任せておいて」

「褒美をよろしくー」


 大村さんは笑顔で頷き、宮部さんは軽く答えた。


「ちなみに聞くけど、受けた理由は?」

「皆が頑張っているんだから手伝おうと思っただけね」


 嘘くせ。


「憎き女神教を倒すのは当然じゃないかー」


 その女神からスキルをもらって重宝してるくせに。


 うーん、これは保身かな。

 新参だし、信用を買いたいのだ。

 この子達は1人じゃないし、後輩のことも考えているのだろう。


「お前達の活躍に期待します。ヨハンナ、絶対に守りなさい!」

「はっ! このヨハンナの命と名に懸けても!」


 おー、ヨハンナがかっこいい!

 …………最初から真面目にやれや。


「勝崎、作戦は決まりました。マイル侵攻を開始しなさい! ただし、あくまでも陣を敷くだけです。敵本拠地の爆破及び開戦は獣人族の移動と嫌がらせが済んでからです」

「それはいいんですけど、嫌がらせって何っすか?」


 勝崎が呆れたように聞いてくる。


「ふっふっふ。信者が増え、私の神としての力もそこそこ上がりましたからね。女神アテナに宣戦布告という名の煽りをします」


「はあ? まあ、良いですけど……」


 女神アテナよ、お前はミスをした。

 お前が生き残る方法はエルナのように私の下につくことだけだった。

 だが、お前は私の子を殺した。

 私の幸福教を認めなかった。

 そして、私を否定した。


 殺す!


 さようなら、幸福を知らない愚か者さん。

 ふふふ。


 しかし、リース、遅いな……

 話、終わっちゃったよ……

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