第032話 リースは必要!


 篠田さんから奴隷となったエルフの情報とリースの目撃情報を教えてもらった私はリースと連絡を取った。

 そこでリースと話してみた結果、リースって実は相当ヤバい子なんじゃないかと思いだしている。


 リースは教団を設立してすぐに幸福教に入った子だ。

 美人で頭も良く、非常に優秀な子である。


 実際、リースが入ってからは教団も急激に勢力を広げ出したし、信者の数も多くなった。

 ただ、暴走癖のある子で外国の怪しい組織と繋がったり、資金を得るために色々と悪いことを私に告げずに行うことも多い。


 悪い人間ではあるが、基本的には真面目な子であり、教団の男性の女性関係には特にうるさい。

 ある教団員(H君)が信者を騙して、えっちなことをしようとした時も激怒していたし、学校を占拠した時にある教団員(H君)が女生徒に手を出そうとした時も激怒していた。


 そんなお固いリースも私に対して、敬いや友情以外の目で見てくる時もある。

 ただ、スキンシップがちょっと過激な時もあったが、まあ、外国人だし、そういうこともあるよねと思っていた。


 私は心が広いし、世の中には色んな人がいるのもわかっている。

 リースは優秀だし、私のために尽くしてくれるので、多少のことは許してきたし、これからも許すつもりである。


 でも、あいつ、ド変態だったらしい。

 私が首輪につないで監禁するって脅したのに、ちょっと喜びやがった。

 私はSと言われることもあるが、そういう女王様的なSではない。

 怖いわ…………


 しかし、今、リースが必要なことは間違いない。

 勢力が大きくなってきたし、これからも幸福教団はもっと大きくなるだろう。

 今はそれらをまとめることが出来る人間が必要なのだ。


 今、集合している幹部はミサ、勝崎、村上ちゃん、青木、前野、東雲姉妹である。

 こいつらはミサ以外、一芸に秀でてはいるものの、リーダーを張れる人間ではない。

 辛うじて、勝崎や村上ちゃんがやれるかもしれないが、勝崎や村上ちゃんは甘すぎる。

 敵は私達よりもはるかに大きい勢力を誇る女神教なのだ。

 正攻法ではいつまで経っても好転しない。


 私には日本に置いてきたかわいい信者たちがいる。

 その子達が私の帰りと幸福教による統一世界の実現を待っているのだ。

 こんな異世界の征服に何年もかけてはいけない。


 ここは多少の汚い手を使ってでも、迅速に女神教を潰さないといけないのだ。


「よし! やっぱり、リースを捕えに行きましょう!」


 私はテーブルをポンっと叩いた。


「リースですかー……あいつ、本当に裏切ったわけではないんですか?」


 ミサはまだリースを怪しんでいるらしく、裏切りの有無を聞いてきた。


 確かにリースの行動は傍から見たら怪しいだろう。

 だが、私には信者の情報が見えている。

 いまだに私への信仰心が一番厚いのはリースなのだ。

 そんなリースが私を裏切るわけがない。


「リースが裏切るわけありません。ちょっと事情があるみたいですね…………奴隷となったエルフを救出しないといけませんし、ここは私達で動きましょう。篠田さん!」

「は、はい!」


 私が篠田さんを呼ぶと、篠田さんは背筋を伸ばして返事をする。


「素晴らしい情報です。お前はきっと幸福になれるでしょう」

「あ、ありがとうございます…………」


 まーだ、ビビっているな。

 少しは飴もやるか……


「お前はゲームが好きですか?」

「え!? ま、まあ、多少はやってましたけど…………」

「そうですか、そうですか。では、これをあげましょう」


 私はミサに返すつもりがいらないと返された携帯ゲーム機を篠田さんに渡す。


「何ですか、これ?」


 ん?

 知らないの?

 ちょっと古すぎたかな?


「あのー、ひー様、これ、めっちゃ古くないですか? 私が生まれる前のゲームじゃないですか…………」


 アラサーの村上ちゃんが呆れたように言ってきた。


「まあ、古いと言えば、古いですけど…………面白いですよね?」


 私は一心不乱にゲームをしている東雲姉妹に聞く。


「意外と……」

「まあ、ゲームの定番だし」


 文句を言っていた東雲姉妹もハマっているようだ。


「ほらー」

「いや、面白くないとは言ってませんよ。私もやったことあるし」


 やっぱり、村上ちゃんはやったことがあるのか。

 まあ、あまり突っ込まないでおこう。

 アラサーだもん。


「あ、あの、ありがたくいただきます」


 篠田さんは喜んでくれたようだ。


「うんうん。楽しみなさい。他に不足なものはありませんか?」

「大丈夫です。お風呂にも入ってますし、服もいただきました」


 うんうん。

 女の子はきれいにしないと!


「ひー様、私もですけど、なんで制服なんです?」


 ずっと学校の制服を着ているミサが聞いてくる。


「お前、私の私服を着たいですか?」


 貧弱ボディーのくせに。

 比べられるよ?


「……………………みじめになるんでいいです」


 ミサが私の胸部を見て、そっと目を逸らした。


 別にそこまで大きくはないんだけどねー。

 あと、ぶっちゃけて言うと、ミサの服は触ったことがあるから出せるんだけどね。


「不足なものがあれば、すぐに言いなさい」


 私はミサを無視し、篠田さんに微笑みながら告げた。


「はい。ありがとうございます」


 篠田さんは頭を下げてお礼を言うと、村上ちゃんと共にキャンピングカーから出ていった。

 どうやらこれから前線基地建設の仕事を手伝うらしい。


「さて、今後の予定が決まりました。マナキスに行き、リースと奴隷となっているエルフを回収します」


 私は村上ちゃんと篠田さんがいなくなると、ミサと東雲姉妹に告げる。


「どうやって行きます?」


 ミサが聞いてくる。


「ランベルトが言うには中央とキールの間らしいので、獣人族の集落に戻り、キールに向かいましょう。そこからはランベルトを頼ります」


 本当はヘリで行きたいが、さすがに目立つ。

 ここは地理や情勢に詳しいランベルトを有効活用するべきだろう。


「いいですけど、さすがに格好は考えた方がいいんじゃないですか? 私ら、イロモノすぎですし」


 変な赤い服に金の髪飾りの女、明らかにこの世界にはない学校の制服を着たメガネ、同じ顔をした金と黒の髪の双子メイド……

 確かにめっちゃ目立つね……

 何の集団かわからん。


「私の私服を着ても目立つだろうし、その辺もランベルトに相談しましょう」

「それが良いと思います、町の中もずっと馬車の中はさすがに息が詰まりますし、冒険者に扮するかした方がいいと思います」


 そうした方がいいだろう。

 何日も閉塞空間にはいたくないし、このメンツだと調査は私がやることになるだろう。

 だって、他3人は好戦的すぎて、人にものを聞くのとかは向いてないんだもん。


 私のアイデンティティである赤い服を脱ぐことになるが、こればっかりは仕方がない。

 まあ、私だって、学校に通っていた時は当然、制服だったし、普段は普通の私服を着ていたので問題ない。


「出発は獣人族がこの村にやってきてからとします。それまでは待機と準備…………って、ナツカ、フユミ、聞いてますか?」


 私はゲームに夢中になって、一向に顔を上げない東雲姉妹に確認する。


「「えっ!? き、聞いてたよ! どっかに行くんでしょ?」」


 ナツカとフユミが同時に顔を上げ、ユニゾンで答える。


 この慌てようからして。絶対に聞いてねーじゃん。


「ハァ……まずはランベルトのところに行きます」

「ランベルト?」

「誰?」


 こいつら……

 もうご主人様の名前を忘れてやがる……

 マジで忠誠心のかけらもない犬2匹だわ。


「お前達のご主人様でしょ……」

「あー……そういえば、そんな名前だったような気がする」

「ご主人様はもうご主人様っていう名前だから……」


 嫌な名前……

 まあ、日本人からしたらカタカナの名前はわかりにくいのはわかる。


「とにかく、数日中に向かいます。お前達はそれまで遊んで待ってなさい」

「「はーい!」」


 人手が足りない今はこいつらも前線基地建設を手伝わせるべきなんだろうが、こいつらは絶対にトラブルを起こす。

 私の目の届くところに置いておくべきだろう。


「大変ですねー……」


 ミサが他人事のようにつぶやいた。


「あんたに至っては何もしてないじゃん」


 東雲姉妹は一応、護衛の仕事はしているが、ミサは何をしてんだ?

 本来は私がしていることをミサがやるんじゃないの?


「私は巫女ですので…………」


 巫女って、マスコットか何かかな?

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