第030話 今後の予定


 元クラスメイトの女子4人は完全に心が折れたようで、焦点の定まらない目でフラフラと仮設住宅を出ていった。

 すると、すぐに村上ちゃんが入室してくる。


「ご慈悲に感謝します」


 村上ちゃんはそう言いながら一礼してきた。


「お前も上手になりましたね」

「何のことでしょう?」


 村上ちゃんがすっとぼける。


 あの子達は恐怖し、混乱していたが、絶対に私を否定する言葉を言わなかった。

 普通は恨み節の一つでも言いそうなものなのにだ……

 だが、4人ともまったく言わなかった。

 村上ちゃんが事前に指示をしたからだろう。


 村上ちゃんはわかっていたのだ。

 あの子達が少しでも私を否定する言葉を吐けば、私があの子達を殺す気でいることを……


「まあいいです。あの子達をお風呂に入れ、きれいな服に着替えさせなさい。その後は食事を摂らせて休ませるように。一応、前野にも見せなさい」


 大丈夫だとは思うが、医者にも見せた方が良いだろう。


「食事は米でよろしいですか?」

「いいえ。後でお前にスキルで渡します。数日は贅沢をさせましょう。1年間も苦労したのですからそれくらいあっても罰は当たりません」


 こんな状況で贅沢を覚えた人間はもう戻れない。

 この1年間の苦労した生活には戻りたくないと思うからだ。

 これであの子達は完全に落ちる。

 絶対に私に逆らわない従順な信者の出来上がりだ。


「仕事は何をさせましょう?」

「そうね…………まずは住宅地の造成や裏方仕事を適当にさせてください。後はお前達に任せます。とてもではないですが、危険な仕事ができる性格をしていません。便利なスキルは持っているのでそれらを活用できる仕事でもさせるといいでしょう。あ、もちろん、情報収集は忘れないように」


 1年間も冒険者をしていたのならば、情報はそこそこ持っているだろう。

 他の学校関係者とかね……


「かしこまりました」

「あの子達は以上です。村上ちゃん、勝崎とエルフの代表を呼んでください」

「はっ! 失礼します!」


 村上ちゃんが敬礼をして、退室したので、私は目を閉じる。


『ヨハンナ』

『はーい、何でございましょう?』

『すぐにこちらに来なさい…………ちなみに、お前達は何をしていますか?』


 東雲姉妹が心配だ。

 あいつらは何をするかわからない。


『エルフに釣り竿を借りたんで、川で釣りをしています』


 川魚を食べる気かな?

 危なくない?


『そうですか…………楽しんでいるところ悪いですか、お前達とエルフとの共生について話があるので来てください』

『わかりました!』


 私は目を開けると、机の上に置いてある銃をしまった。

 そして、しばらく待っていると、勝崎とこの村のエルフの長老がやってくる。


「おー! ヒミコ様、ご機嫌麗しゅう!」


 この村の村長であるカールが笑顔で挨拶をしてきた。


「お前も元気そうで何よりです。生活はどうですか?」

「はい! 食料も安定していますし、新しい住居も快適です。そして、何より女神教を打ち破れたのは最高でした!」

「うんうん。それは良かったです。実はこの度、西部の獣人族が幸福教団に降りました。そして、今、獣人族がこの森に向かってきているのですが、以降の生活について話し合いの場を設けようと思ったのです。もうすぐ、狐族の長であるヨハンナが来るので話し合いをします」

「なるほど…………わかりました」

「まあ、座りなさい……っと、この椅子はダメですね」


 誰かさん達が色んな汁を出してたからなー。


 私はさっきまで元クラスメイト女子4人が座っていた椅子をスキルで消し、新たなる椅子を出す。


「はい、座りなさい」

「ヒミコ様がお座りになられては?」

「お前は自分の年齢を考えなさい」


 じじいのくせに。


「もう700歳が見えてきましたからなー……では、失礼して」


 カールはよっこいしょと言いながら椅子に座った。


 700歳だってさ。

 すごい。

 さすがは長命種のエルフだわ。


 私が感心していると、ノックの音が響く。

 間違いなく、ヨハンナだろう。


「入りなさい」

「失礼します。ヨハンナ、参りました」


 ヨハンナが入室し、頭を下げた。

 なお、その際、ヨハンナのエロい胸元がチラッと見えたのだが、カールはスッと眼を逸らしていた。

 だが、勝崎がガン見していた。


「勝崎、私のキツネに何か?」


 私はエロ猿の勝崎を睨む。


「何でもありません!」


 勝崎は背筋を伸ばし、大声を出した。


「まったく…………お前というヤツは…………カール、この子が狐族の長であるヨハンナです。ヨハンナ、この子がエルフ族の代表のカールです」


 私は2人にそれぞれを紹介する。


「ヨハンナと申します。森の賢者と謳われるエルフ族にお目にかかれて光栄です」


 ヨハンナがまたもや、頭を下げた。

 なお、またもや愚行を犯した勝崎を腹パンしておいた。


「これはご丁寧に。私はこの村の長老をしているカールです」


 カールも椅子に座ったままだが、頭を下げた。


「カール、先程も言いましたが、数日後には獣人族がここにやってきます。住まいをどうするかを決めたいと思います」


 私は早速、本題に入る。


「ヒミコ様、それについてですが、我々獣人族の長の会議で話し合ったのですが、私達は平原に住もうと思っております」


 本題に入ってすぐにヨハンナが手を挙げて、獣人族の意見を述べた。


「平原ですか?」

「我らは数も多いですし、エルフの住まいである森にお邪魔するのは問題ではないかと考えております。それに我らの大半は元々、平原に住んでおりましたし、そちらの方が良いのです」


 そういえば、そんなことを言っていたな。

 ライオンなんかは平原というか、草原にいそうだし。


「とはいえ、森も必要な種族もいるんじゃないの?」

「浅い所で少しほど森をお借りできれば十分です」

「って言ってるけど?」


 私はカールに話を振る。


「こちらは問題ありません。獣人族はむやみに争いを起こす種族ではありませんし…………ただ、平原は危険では? 戦地になる可能性が高い」


 砲弾や銃弾が飛び交うこともあるだろうしね。


「問題ありません。我らは戦士。今までに亡くなった同志のためにも戦うと決めております」


 エロチョロギツネのくせに勇ましいことを言っている。

 やはり、獣人族は普段は温厚だが、戦うと決めたら徹底的に戦う種族なんだな。


「勝崎、獣人族は戦士とはいえ、私の子。失うわけにはいきません」


 私は獣人族の覚悟を聞き、勝崎に声をかけた。


「もちろん、承知しております。すでに平原に前線基地を作る計画はできております。ここに獣人族の住居区を加え、早急に作りたいと思います。問題は女神教の動きです」


 基地を作る前に動いてくる可能性もあるのか……

 敵は5000を失ったが、まだ援軍が来ている。

 簡単には攻めてこないだろうが、厄介ではある。


「では、こちらから攻めなさい。ただし、本気ではありませんよ? 戦車を並べ、攻めるぞーと見せかけるだけで十分です。敵は先の敗戦がありますし、簡単には打って出ないでしょう」

「もし、攻めてきたら?」


 そこまでバカではないと思うが……


「その時はヘリでも何でも使って持久戦に持ち込みなさい。要は基地の建設に気付かれないようにすればよいのです」

「かしこまりました」


 まあ、後は本物の軍人に任せよう。


「ヨハンナ、獣人族も基地建設を手伝いなさい」

「わかりました」


 よしよし。

 獣人族は1000人以上もいる。

 建設機械と人海戦術を使えば、早いうちに基地もできるだろう。


「では、後のことはお前達に任せますので、仲良くやりなさい」


 人類、みーんな、友達!

 ただし、女神教は死ね。


「ひー様はどうされます?」


 勝崎が聞いてくる。


「数日、ここで休んだら獣人族の森に帰り、そこから北を目指します。ドワーフの懐柔ですね。あとはリース探しです」


 やっぱり、リースがいるわ。

 いちいち、指示するのも面倒だし。


「ヒミコ様、ドワーフは厳しいかもしれません……」


 ヨハンナが頬に手を当て、首を傾げながら言ってくる。


 どうでもいいけど、動作がいちいちエロいな……


「何故です?」

「ドワーフは北の山に住んでいるのですが、そこはドラゴンが住む山なんです。ですので、女神教も簡単には攻めることが出来ずにいます。そんな状況ですし、ドワーフがヒミコ様を必要としているかは微妙です。ドワーフは火の精霊を信仰していますし…………」


 うーん、エルフや獣人族はピンチだったから簡単に降ったが、ドワーフは微妙か……

 しかも、信仰もある。

 私が行っても、難しそうかも。


「ドラゴンはドワーフを襲わないのですか?」

「ドワーフはドラゴンに剣などの金属を貢いでいるようです」

「それで見逃してもらっていると?」

「そう聞いています。ただ、実際がどうなのかはちょっと……」


 まあ、わからんか。

 噂程度だろうしね。

 だが、ドワーフがドラゴンに襲われていないのは確かだし、裏技的なものがあるのだろう。


「ドワーフは時間がかかりそうね……」


 宗教にすがらせるには弱みが必要なのだ。

 弱みを作る必要がある。


「だと思います。まだ東のハーフリングの方がピンチでしょう。東部は女神教の力も強いうえにハーフリングは戦いを得意とする種族ではないので……」


 イメージ的にハーフリングって小さそうだし、弱そうだ。


「それでよく生き延びていますね?」

「魔法が得意ですし、逃げたり隠れたりするのも得意なんです」


 確かにそんなのを滅ぼすのは難しいかも……


「では、東部に行ったほうがいいのですかねー……」

「それがよろしいかと……」


 ふーむ……

 そうなると、西の森に転移で帰るのはないな。

 車で東に行くかね?


「わかりました。検討してみます。では、お前達はすぐに行動を起こしなさい」

「「「はっ!」」」


 ハーフリングはともかく、ドワーフはめんどくさそうね……

 しかし、ドラゴンか……

 ドラゴンは人じゃないから信者になることはないだろうし、マジで邪魔だわ。

 うーん……………………あ、そうだ!


 ふふっ……ヒミコ、良いことを思いついちゃった。

 ドラゴンを殺しちゃえ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る