幸福教団へようこそ! ~神になりし女子高生は異世界を征服す~
出雲大吉
第001話 新興宗教団体、≪幸福教団≫
学校で授業を受けている時にテロリストが現れる。
昔、誰かから聞いたことがあるのだが、健全な男子高校生は一度はこれを妄想するらしい。
果たして、そうなった時に皆はどういう行動を取るのだろうか?
勇敢に立ち向かう?
隠れて暗躍する?
テロリストに扮して、好きな子を襲う?
それとも何もせずにただ震えている?
皆さんはどれが正解なのかわかるでしょうか?
正解は…………
「静かにしろ! 生贄共!!」
体育館の壇上で学校の制服を着て、メガネをかけた女生徒が叫ぶ。
どうして、この女は壇上に上がっているのか?
どうして、生徒達を囲み、マシンガンを突きつけている95名のテロリスト達がこの女をそのままにしているのか?
それはそのメガネの女が持っている物で答えが判明する。
その女、2年2組の神谷ミサもまた、マシンガンを持っているからだ。
つまり、この女子生徒もテロリストなのである。
なんと! 学校の生徒の中にもテロリストが4名もいる!
内2名はいまだに生徒達の中で潜伏しているぞ!
さあ、皆さんはどうしますか?
え? さっきからなんで人数を正確に把握しているかって?
それはね…………正解に繋がる大ヒントだよ!
「聞け、生贄共!! ひー様のお言葉である!! はい、清聴!!」
メガネの女、神谷ミサは壇上の中央にある演台に立っている人物に頭を下げた。
その人物は黒髪黒目の日本人であり、とってもキュートな顔をしている。
だが、真っ赤な和服を着て、頭には金の髪飾りを装着しており、ちょっと変だ。
それが誰かって?
…………私である。
そう、学校がテロリストに現れた時の正解は…………生徒や先生を体育館に集め、壇上の上に立ち、見下ろすことなのだ!!
いや、何故に!?
どうして、こうなった!?
「えーっと…………」
いや、何を言えばいいの!?
私、何も聞いてないんだけど!?
普通に授業を受けてたら私のかわいい信者達が武装して、学校を占領したんですけど!
自分で言ってて意味がわかんなーい!
「ひー様は貴様らのような息をするだけのゴミムシでも、私の糧になれることに感謝しろとおっしゃっている。素晴らしい!!」
神谷ミサが涙を流しながら拍手すると、テロリスト達と生徒の中にいる有名なヤンキー姉妹2名が拍手した。
私、何も言ってなくね?
というか、私のかわいい東雲姉妹は何をしているんだ!?
バカなのか!?
潜伏の意味を調べてこい!
「ふ、ふざけるな!! 何を考えている、神谷、佐藤!!」
急に叫び声が聞こえたと思って、声がした方を見ると、ジャージを着た小太りの体育教師がミサと私を見ていた。
ところで、佐藤?
誰だろう?
私を見ている気がするが、私はヒミコだ。
幸福教団の教祖、ヒミコだ!
ミサは一度、恫喝してきた先生を見たが、すぐにマシンガンの銃口を天井に向けると、マシンガンを乱射する。
すると、すさまじい音と共に生徒達の悲鳴が体育館内に響き渡った。
「黙りなさい!!」
私の後ろからきれいな叫び声が聞こえると、一瞬にして生徒達は静まりかえる。
その女は私の前まで歩いてくると、壇上から生徒達を見下した。
「ひー様の前で許可なくしゃべるな!」
その女は銀色の髪をしており、めっちゃ美人だ。
顔立ちも日本人のそれではない。
そんな彼女の名前はリース・ルフェーブル。
もちろん、私の信者である!
「リース、この男にしゃべる許可を出せ。一応、弁明を聞いてやる」
ミサは体育教師としゃべりたいらしく、リースに許可を出すように言う。
すると、リースが私を見てきた。
あ、私の許可ね。
「許可します」
私がそう言うと、リースが持っている謎の杖を掲げた。
何あれ?
リースっていっつも杖を持っているんだけど、何をしてるんだろ?
「――っぷは! な、なんだ!? あ、声が出せる……」
腰を抜かしていた体育教師がしゃべりだした。
「おい、ゴミムシ! ひー様に何か言いたいことでもあるのか!?」
ミサが体育教師に銃口を向けながら聞く。
「お、お前たちは何をしている!? 冗談では済まないぞ!!」
「冗談? 何を言っているんだ、このバカは? うん、いらんな、こいつはいらない。処分しよう!」
「ひっ! や、止め!!」
体育教師がビビってしまい、腰を抜かしながら後ずさる。
ミサがそんな体育教師に照準を向けた。
「ミサ、止めなさい。ひー様の御前ですよ? ひー様の美しい目を血で汚すつもりですか?」
リースが諭すようにミサを止める。
「チッ! おい、氷室、こいつをひー様の視界に入れるな!」
「あいよー」
ミサはテロリストの1人に指示を出すと、タバコを吸っていたテロリストの男が体育教師を連れて、体育館の外に出ていった。
直後…………
パーンッ!
体育館の外から破裂音が聞こえた。
そして、すぐに氷室が何事もなかったように1人で戻ってくる。
生徒や先生達はさっきの銃声のような破裂音とテロリストが1人で戻ってきたことの意味を理解し、青ざめてしまった。
「…………ひー様」
いつの間にか私の斜めすぐ横にやってきたリースが私に耳打ちをしてくる。
「なーに?」
「…………警察や公安が動き出しました。近いうちに自衛隊も来ると思われます。一部、マスコミも嗅ぎつけたようです」
この子はなんでそんなことがわかるんだろう?
「誰かが通報した?」
「…………いえ、かねてより、我らはマークされておりました」
は?
「聞いてないけど?」
「…………皆、ひー様に心配をかけたくなくて、黙っていたのです」
じーん……!
いい子達!
さすがは私の子供達だ!
幸福教団は素晴らしいね!
「と言っても、どうするのよ? ヘリは? 自家用ジェットは? さっさと海外に高飛びしましょうよ」
こうなったら逃げるしかない。
私は何もしていないが、この子達を見捨てることは出来ない。
私はこの子達を幸福に導く教祖なのだから!
「ご安心を! すべては私の計画通りです!」
リースは耳打ちをやめ、少し離れると、にやりと笑った。
「計画通りなんだ」
じゃあ、問題ないだろう。
リースはウチの参謀であり、頭脳である。
実際、優秀だし、リースに任せておけば大丈夫だ。
「はい…………ひー様、何の身寄りもない私をお救いいただき、ありがとうございました」
リースがその場で跪き、礼を言ってくる。
「うんうん。幸福教団は常にあなたとある。あなたには私がついている。たとえ、地獄であろうと、私がいるところが天国なのです」
「はい! すべてはあなた様のためにあり、あなた様こそが我々の神にふさわしい!」
私が神だってさ。
まあ、神かもしれない。
だって、教祖だし!
全国1万人の信者を持つ幸福教団の教祖なのだ!
「さあ、同士よ!! 歓喜せよ! 今、この時を持って、我らのひー様が神になられる!」
「ああ……ひー様……!」
「ひー様!!」
「ついにこの時が来たのだ!」
「「「「ひー様! ひー様!」」」」
リースが私の信者達を煽ると、信者達は私の名前をコールする。
私は信者達を鎮めるために右手を挙げた。
すると、さっきまで熱狂していた信者達の声がピタッと止まる。
「私はヒミコ。この世のすべての者達に幸福を与える神である」
そう…………私は神だ!!
「狂っている…………」
教師連中が集まっている集団の中から誰かのつぶやきが聞こえた。
「殺せ」
不快な声を聞いた私は冷酷かつ即座に命じる。
すると、パーンという銃声と共に教師の1人が崩れ落ちた。
「他に? 我が幸福教団を否定する者は? このヒミコに逆らう愚か者は?」
誰も何も言わない。
皆、ただ、震え、頭を抱えて、恐怖しているだけだ。
どうやらこいつらは私の幸福はいらないらしい。
「リース」
「はっ!」
リースは私の前に立つと、杖を掲げた。
「天上にいるはただ一人。この世のすべてはひー様のためにあり、この世の神はひー様にひれ伏すだろう」
何それ?
詠唱?
リースって、いい子なんだけど、こういうセンスはないな……
「ゲート、オープン!!」
リースが杖を体育館の天井に向けると、体育館の天井が消えてなくなった。
いや、真っ黒の渦になったのだ。
「はえー……何あれ?」
私、幸せの粉でキメてたっけ?
私はヘロインもコカインもやらないんだけどな…………
もしかしたら教団の倉庫にあるやつを間違って吸ったのかもしれない。
実は私は倉庫でラリッてて、夢を見ているのかもー。
私は黒い渦を見るの止め、壇上の下を見る。
生徒や先生達はもはやパニックだ。
叫び、暴れ、阿鼻叫喚である。
しかし、私の信者達のマシンガンの前には無力だった。
「さあ、喜びなさい! 今こそ! 我らの! ひー様が! 神になるのです!! ミタスタシス!! …………ああ、クソ女神!! ようやくだ!! ようやくお前を殺せる!! 偉大なるひー様の前にひれ伏し、命乞いをするがいい!! アハハハー!!」
あんなに美人なリースが狂ったように笑うと、黒い渦が落ちてきた。
そして、私達は黒い渦に飲み込まれてしまった。
この日、とある学校で前代未聞のテロ事件が発生した。
首謀者は佐藤ヒマリ(17)を教祖とする新興宗教団体、≪幸福教団≫である。
だが、この事件が解決することはなかった。
死体は銃で撃たれたと思われる男性体育教師1名を見つけることが出来たのだが、それ以外はゼロ。
ただし、行方不明者は教祖である佐藤ヒマリを含む≪幸福教団≫の教団員100名、教師28名、生徒447名である。
この事件は世界中で取り上げられ、現代最大のミステリーと呼ばれた。
残った≪幸福教団≫の教団員が『ひー様は神になられた』としか証言しないことからも謎は深まるばかりである。
私は当時、この事件を追うべく、佐藤ヒマリの家である教団本部を家宅捜索した。
そして、教団本部の中を見て、皆と一緒に口をそろえた。
あいつらは…………あの女は狂っている……と。
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