第三十一話:Aランクに昇格しそうなパーティー現る

 威圧的な何かを感じるせいか、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。

 

 その雰囲気を敏感に察したシェリンダは近くに居たディックの背後に隠れてディックの服にしがみつき、小刻みに震えながらもこっそり顔を除きだして彼らの動向を伺っている。

 

 そう、男性であるディックの背後に…… その様子を見たミカは一瞬驚きながらもすぐにニコニコした顔つきに変わり、二人の様子を微笑ましく見守っている。

 

 そして、ディックはそのパーティーの存在に心当たりがあった。

 

(あれ、この人達は…… でもアランさんがいない。それにいつも以上に刺々しい雰囲気だし、アランさんと何かあったのかな?)


 ディックとアランは元々面識があったのだ。

 

 当時、お互いのパーティで足を引っ張っている自覚があり、ギルドですれ違う度に同類であることを匂いで感じていたのだ。

 

 以降はたまに会うたびに近況報告や、お互いを励まし合っていたりするのでディックにとっては数少ない同姓の友人でもあるのだ。

 

 そのアランがパーティーに居ない上に、彼らの雰囲気がいつも以上に近寄りがたいものになっている事にディックは無関係ではないかもしれないと感じていた。


 ディックは二人に少し離れた所で様子を見ようと小声で提案し、二人はそれに了承して、ゆっくりと受付から距離を取り始める。

 

 ギルドに入って来た四人のうち、先頭に立っていた男性がミランダに声を掛ける。

 

「ミランダ、無事に依頼達成してきたぜ。確認して貰おうか」


 そう言うと、男性――トーマは依頼達成確認用の素材をミランダの目の前に提示する。


「お帰りなさいませ、雷・ライトニング・サンダーの皆様。内容の方を確認させて頂きますね…… ってメンバーが一人足りないようですが、アランさんはどちらに?」


「あぁ、アランね…… ちっと帰り際に揉めちまって行動を別にしてるが、すぐ戻ってくるだろ。アイツも子供じゃねえしな。とりあえず手続きを進めてくれ」


 何か適当に誤魔化そうとしているトーマに対して不穏なものを感じたミランダは目を細めて口調が厳しめになっていく。


「……そうですか。では、一つ警告しておきますね。皆様は今回の任務達成によりBランクからAランクに昇格しますが…… その場合、実力以外にも品位、人間性が問われるケースが増えてきます」


「おいおい、俺達冒険者にそんなお貴族様みてえなマナーでも習えってのか? 冗談じゃない、ガラじゃねえんだよ」


「Aランクになるとこれまで以上に貴族の依頼も増えてきます。場合によっては、王族に関わる事も無い訳ではありません。その際に依頼人の機嫌を損ねたり、態度が悪かったりすると任務を達成できたとしてもクレームとして処理され、次回以降拒否される事も珍しくありません。その様な対外的な対応も行っていかなければならないにも関わらず、内輪揉めも対処できないようではAランクへの昇格を認める訳には参りません。全員揃ってから改めてお越しください」


 ミランダは最初から知っていた。パーティーメンバー全員がアランの事を疎んでいた事を。

 

 アランが能力的にパーティーについていけていない事も知っている。だからこそ、彼は戦闘外でのサポート部分で活躍している事も知っているし、評価できるに値する動きをしていた事も知っている。

 

 最悪アランを脱退させる必要があるにせよ、穏便にかつ双方が納得できる形で処理できるかトーマのリーダとしての素質を確認しようとしている。 

 

 本来であればここまで厳密に確認する必要はないのだが、彼らは依頼人どころか同業者達からの評判もよろしくない。


 トーマを筆頭にロベール、ナタエルも女性冒険者に対してセクハラによるクレームから始まり、目につく有望な若者に自分達以上に目立たれる事を良しとしないため、裏で色々と画策していたりする。表には出ていない為に面と向かって処罰はできないが、アランもミランダもなんとなく気付いていたし、それとなく注意もしていたが全く受け入れてくれる様子はなかった。

 

 そんな評判が悪いにも関わらず、アランの幼馴染も妹も何も言わないのは、彼女等は冒険者ではないため、そんな情報は一切入ってこないのだ。

 

 デボラもトーマの恋人のくせしてトーマがいない時を見計らっては、イケメン冒険者に色目を使い、貢がせたりして節操がない事は一部で有名だ。

 

 ミランダとしては、こんな連中はAランク昇格どころか冒険者資格を剥奪しても構わないのだが、いかんせん上位冒険者の絶対数が少ない為、嫌々ながらも頼らざるを得ないのも現実なのだ。

 

 何故なら最近はあの過去にディックが所属していた勇者パーティこと『災厄の化身カラミティ』がディック脱退時期頃からギルドに顔を出さないから依頼が溜まり過ぎているのが問題であるためだ。


 トーマはミランダの話を聞くのを面倒くさそうに頭をガシガシ掻きながら「わかった、わかった」と対応している。

 

「本当に理解できているのであれば、アランさんをここに連れてきてください。その時に改めて昇格処理を行います。それまでは、保留とさせていただきます」


 ロベールが少々焦り気味にトーマに小声でアランの生存について確認するがトーマは「こんな所でその話をするんじゃねえ」と制止する。

 

 四人は嫌々ながらもアランの生存確認を行いに、またあのダンジョンに向かわねばならなくなってしまった。

 

 自分たちがダンジョンから出る時は既に虫の息だったし、生きてるとは思っていなかった。

 

 だが最悪、魔物に殺されてしまった扱いにして上手く誤魔化せば何とかなると考えているのだ。


 そんな良からぬことを企む男子達とは打って変わって、同じ女性から上から目線で対応されているように感じていたデボラはそれが気に入らず「調子こいてんじゃねえよ、売れ残りババァのくせに」とミランダを鼻で笑いながら去っていく。

 

 ミランダは笑顔のまま、こめかみに青筋を立ててトーマ達を見送った。

 

 が、彼らはまだギルド建物内に居た。

 

 何故か……

 

 ロベールとナタエルが外に向かおうと振り返る瞬間に絶世の美少女を視界に入れてしまったからだ。

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