第三十話:ディック、おんなのこぱーちーに加入する(条件付き)

「男性…… 恐怖症? それって僕がダメというよりは男性全てがダメという事なんでしょうか?」


 ミカの背後でカタカタ震えているシェリンダは会話が無理そうなのでミカが代わりに対応する事になった。


「過去に育ての親から執拗に虐待を受けていたらしくて、命の危険を感じたシェリンダが逃げた先で出会った私と行動を共にする事になったんですが…… あの時のシェリンダは本当に酷くて見ていられないくらいだったんです」


「そうでしたか…… だったら僕はいない方が良さそうですね。ミランダさんもそれでいいですよね?」


「うん、しょうがないよね。ディック君ならワンチャンいけるかなと思ったんだけどね」


 ところがミカは首を左右に振りながら二人の出した回答を拒否する。

 

「いいえ、むしろ丁度いい機会なんです。このタイミングでディック様と出会えたことが運命とすら思えます。シェリンダ、どうして貴方は最初ディック様に自ら声を掛けたのかしら? いえ、掛けられたのかしら?」


 ミカの背中に隠れて顔を出さず、必死にミカにしがみつきながら声を絞り出す。

 

「その…… ディックさんを最初見た時…… 女性かと思ったので、安心してつい自分から声を……」

 

「初対面の子供にもたまに「お姉ちゃん」呼ばわりされますから慣れてると言えば慣れてますが……」


 と言いながらミカからひょっこり顔を出したシェリンダと目が合うディック。

 

「ひぃっ! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 ディックは今まで他人からそこまで拒絶されたことが無かったため、実はかなりショックを受けて凹んでいる。


「シェリンダ、ディック様はその程度で怒るような御方ではないわ。むしろ貴方に拒否されて落ち込んでいらっしゃるわよ」

 

「……あっ…… ごめんなさい…… どうしても男性だと思うと身体が拒否反応を示してしまいまして……」


「うーん、ディック君の性別が判明するまでは上手く行ってたのにねえ…… 男性だと思わなければ…… あっ、そうだ! こんなのはどうかな? ミカちゃん、シェリダンちゃん、ちょっとコッチに来て!」


 ミランダはミカとシェリンダを自分の近くまで呼び寄せて、ディックに聞こえない様にひそひそ話をしている。


 その内容にミカは目を輝かせており、話の途中でチラチラとディックを見ながら嬉しそうに「なるほど、その手がありましたか」と言っており、シェリンダは「えぇっ!」とか驚いたり「……でも」と何やら躊躇しているような反応をしている。

 

「とりあえずやるだけやってみましょうよ。それでもし同じ反応になるよであれば別の手段を考えましょう。シェリンダちゃんもそれでいいわよね?」


「試してみるのは…… はい…… でも、ディックさんがなんて言うか……」


 ミカが「わったしにまっかせて!」と自信満々に胸を叩く。

 

 そしてシュババッとこれまたロクサーヌびっくりの速度でディックの背後に回るミカはディックの耳元で話しかける。

 

「シェリンダの男性恐怖症を克服するためには、ディック様のお力が必要なのです。何卒ご協力願えませんでしょうか?」


「えっと…… 何をしたらいいのか分かりませんけど、僕で力になれるのであれば構いませんよ」


 ミカからのOKサインを確認したミランダもディックに近づいて、腕を組んで捕まえる。

 

 ミカも逆側の腕を組み、二人で揃ってディックをどこかに連れて行こうとしている。

 

「えっ? ど、どこに行くんですか?」


「今からギルドの倉庫に向かいまーす」


「僕がギルドの倉庫に向かうとシェリンダさんの男性恐怖症が治せるってよく分からないんですけどおおおお」


「行けばすぐに分かりますよ。とーっても可愛く・・・してあげますからね」


「えええええっ! 可愛くってどういう事ですか? 」


 倉庫の扉は開かれ、三人が入ると同時に閉められた。

 

 ドア越しでも微妙に聞こえる三人の声。

 

『えっ…… こっ、これを着るんですか? 流石にこれは…… というか勝手に着ちゃって平気なんですか?』


『冒険者引退した子が置いてった装備だから使っちゃって大丈夫だよ。いやー、残しておいて本当に良かったよ』


『なんかすごい下がスース―するんですけど……』


『ディック様、滅茶苦茶似合ってます。というか、私がドキドキしてるんですけど……』


『ディック君、恐ろしい子…… 次はメイクをするわよ。ここに座って頂戴』


『ディック様、凄いお肌ツヤツヤでシミもニキビも一切なし、おまけに唇までぷるんぷるん……ゴクリ』


『メイク不要な気がするわ。でも一応下地にアイメイク…… あとは、グロス…… っと…… 最後にウィッグを着けて…… 完成よ』


『『こ、これは……』』


『自分でメイクしておいて言うのもあれだけど、女としての自信無くしそう……』


『大丈夫です。私はとっくに失ってます』


『それは自信満々に言う話ではないわ』


 ― 倉庫に入ってからおよそ三十分後 ―

 

 倉庫から三人が出てきたそこには…… お肌がツヤツヤして満足げなミランダとミカがいた。

 

「なんか今日は一日分仕事した感じがするわ」


「女の私ですらクラっと来てしまいます。さすがリシェル様の想い人」


「ううっ…… 僕の理想はギルマスの様なたくましい男なのに……」


 そこには三十分前までいたはずのディックはいなかった。

 

 代わりに居たのは「どこからどうみても美少女剣士」がそこにはいた。

 

 ディック(?)を見たシェリンダは顔を真っ赤にして再びミカの後ろに隠れてしまった。

 

「シェ、シェリンダ? やっぱりダメっぽい?」


「ちっ、違うの! その…… あまりにも綺麗だったから直視できなくて……」


 ミカとミランダはお互いの顔を見合わせて成功した事を確信して微笑み合う。

 

「よしっ、ディック君…… いえ、君は今から美少女剣士”ヒルダ”と名乗るのよ」


「よろしくおねがいします。ディ…… ヒルダ様」


「ヒルダさん…… よ、よろしくおねがいします。」


「よ、よろしくおねがいします(これスカート履く必要絶対ないと思うんだけどなあ…… 動き様によっては見えちゃうよぉ)」


 ここに新たなパーティーが結成され、シェリンダの宿賃を稼ぐ為に意気込む三人。


 その時、どかどか大きな足音を立てて複数人がギルド建物内に入ってくる。

 

 人数は四人で男性三人、女性一人の構成だった。

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