第二十九話:ディック、おんなのこぱーちーに加入する?
ディックは冒険者ギルドの掲示板を眺めながら自分でも達成できそうな依頼を探している。
あの時、ゴブリン洞窟で本人は意識をしていなかったが、それなりの数を討伐した事で少しではあるが自身がついていた。
とは言え、まだゴブリンで数を熟すのか、一歩上にチャレンジするのか葛藤していた所……
受付の方から大きめの声が聞こえて来たのでつい振り返ってしまった。
そこには受付嬢のミランダに詰め寄る魔法使いとそれを呆れながら見つめているシスターの冒険者がいた。
「えー、いないんですか!? 今日中に資金作れないと宿追い出されちゃうんですよ!」
「そんなこと私に言われても困るんだけど……」
「だから言ったでしょ、無駄遣いしちゃダメだってあれだけ言ったのに」
「だって持ってない魔導書が売ってたんだもん、しょうがないじゃん」
「だからってそんな都合よく…… って、いたああああっ!」
そんな都合よく居たディックを視界に収めたミランダは突如大声を出されてビクッと驚いたディックと目が合いニッコリと手招きをしている。
基本的にNOを言わない草食系男子ディックは条件反射的にミランダの元に向かう。
「あ、あの…… ミランダさん、何かありました?」
「ディック君、まだ依頼決めてないよね? であれば、今回はこの二人のお手伝いをお願いしたいんだけどいいかしら?」
その名前を聞いた途端にシスターの衣装を身に纏った少女が何かを思い出したかのように目を見開いてディックに問いかける。
「ディッ……ク? その名前ってもしかしてですが、リシェル様のご関係者の方ではありませんか?」
まさかこんな所でリシェルの名前が出るとは思わなかったディックはその人物に振り返ると、シスター衣装に身を包んでいた少女がいた。
「はい…… あの、貴方は?」
「申し遅れました。私はリシェル様と同じ暗…… おほんっ、後輩のミカと申します。ディック様のお名前はリシェル様からよくお聞きしております…… 本当に…… 下手すると一日に聞いた単語歴代ナンバーワンになるほどに……」
「なんか…… リシェルがすみません」
「いえいえ、とても楽しい会話をさせて頂きましたわ。それよりもリシェル様はご一緒ではないのですか?」
ディック本人としてはあまり聞かれたくない話ではあったが、リシェルと自分の事を知っている人には説明はした方がいいだろうと暗い顔をして俯き加減になりながらも自身が追放された経緯をミカに説明した。
「――という訳で、勇者パーティーを追放されてしまったんです」
ミカは首を傾げながら顎に手を当てて何か考え事をしている。
(あのリシェル様が? あれだけ溺愛していたディック様を? 当時のリシェル様の反応からすると有り得ないと思うんだけど………… ハッ! これはきっとそういう任務なのですね! ディック様にバレない様に対応しなければならない危険な任務をリシェル様は背負っているのだわ。 危険から遠ざける為にディック様をあえて突き放すような態度を取ったと…… であれば私がすべき事は……)
「わっかりましたあああああああああ」
突然発狂したかのような大音量にビクッと身体を震わせたディックは恐る恐るミカに確認してみる事にした。
「……い、今ので何が?(叫ぶ女性多すぎな気がするんだけど……心臓に悪いよ)」
ミカはディックの前で突然跪き、キラキラした様な迸る満面の笑顔をディックに向ける。
「これが私に課せられた任務! 後の事は私にお任せください!(リシェル様、私とディック様を引き合わせて下さったという事は、こう言う事なのですね)」
自分なりに一連の流れを解釈したミカはこれが全てリシェルの計算によるものだと勘違いしているのだ。
ただの偶然にも関わらず……。
しかし、状況を理解できないディックはミランダとミカの様相をを交互に振り返るも、同じく状況が全く理解できないミランダもとりあえず無言の笑顔を振りまいて『なんか知ってる風』を装う事しか出来なかった。
そしてその一部始終を間近で見ていたにも関わらずほぼ無言だったため、空気になりかけていた魔法使いの少女がディックにおずおずと近づいてきた。
「あ、あの…… 私達のパーティーに入って頂けるんでしょうか?」
「状況と目的がまだ掴めていないのですけど、僕で良ければお手伝いさせてください」
ディックの笑顔と差し出された手により優しそうな人だと安堵した少女はディックの手を握って握手をする。
「優しそうな子で良かったです。それにしてもボクっ娘なんて珍しいんですね」
「……えっ?」
二人が握手をしている所を見たミカは何故か驚きの表情をしている。
「シェリンダ、貴方大丈夫なの? ディック様は男性なんだけど……」
「……えっ?」
つい数秒前のディックと同じ発言をしたシェリンダはにこやかな表情から一転して血の気が引いた真っ青な顔に変貌していく。
そして身体中からは汗を噴き出し、ガタガタ震えだしている。そんなシェリンダは自分の右手が『男性と手を握っている』事に気付き発狂した。
「ひえええええええええぇぇぇっっっ」
(だから、なんで皆して叫ぶの~)
すかさず手を振りほどき、ロクサーヌもびっくりする程の速度でミカの背後に隠れてしまったシェリンダ。
「な、何ですか? 僕、何かしちゃいましたか?」
アチャーという表情をしながらミカが申し訳なさそうに口を開く。
「申し訳ありません。シェリンダは男性恐怖症なんです」
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