第二十八話:(ディック)じゃない追放劇
四人に囲まれている青年――アランはパーティーリーダーであるトーマより告げられた内容を理解できていたが、納得できるものではなかった。
「な、なんでだよ…… 俺達ずっと一緒にやってきたじゃないか。それに適材適所だから戦闘が苦手でも問題ないって言ったのも君だろ」
「当時はな…… でも今はもう事情が違う。俺達は今回の任務でAランクになるんだ。これからはもっと戦闘も激しくなるだろう、必要なのは戦えるメンバーなんだよ」
「待ってよ! それでも戦闘外での補助は必要だろ? お金だって無限じゃない、管理が必要だ。それにみんなの健康状態だって――」
「そんなもん、どうにでも出来るんだよ! 今の問題はお前が戦力にならないから追放する必要があるって事なんだよ!」
トーマはアランの胸倉を掴んでそのまま力いっぱい突き飛ばした。
アランは背中から地面に倒れてしまった。
「ぐっ…… 俺はこんなところで死ぬわけには……」
「いかないよなあ? だってたーいせつな幼馴染と妹が待ってるもんなあ?」
倒れ込んだアランにパーティの中で一番体つきの大きい青年ロベールがニヤニヤしながら近づいてくる。
ロベールの口からなんで二人の事が出て来るのか理解できなかったアランだが、無性に嫌な予感がして動悸が激しくなっていた。
「最近さあ、幼馴染ちゃん…… お前の家に来てないよな? 最後に来たのいつだっけ?」
(なんだ……? 何の話をしている? なんでロベールからエリーヌの話が出るんだよ)
「……二週間前」
「だよなあ。数カ月前までは毎日の様に通い妻してたはずなのにさあ…… おかしいと思わない?」
「……な、なんで――」
その言葉を遮るかの様にロベールは続ける。
「なんでだろうねえ? しかもなんでそれを俺が知ってると思う?」
(やめてくれ……聞きたくない、聞きたくない。そんな話……)
必死の懇願も言葉にすることが出来ずに必死に呼吸する事が精一杯のアランはただただロベールの話を聞くしかできなかった。
「エリーヌは今俺の部屋で暮らしてるからだよ。今日も起きたら裸のエリーヌが隣に居たって訳」
「ア”ア”ア”ア”ア”!!!!」
「アハハハハ、発狂してるよ。しょうがないよなあ、お前がモタモタしてたせいだなあ。十六にもなって手を握るのが限界だったんだって? ちなみにな…… ここ数日はお前の話なんて一切出てこなくなってきたぜ」
ロベールは笑いながら近況をわざわざキスが出来そうな至近距離まで近づいて語りかける。
「オマエェェェハアアアァアァァァ!!」
アランはロベールに殴りかかろうとするも簡単に拳をとめられてしまい、そのまま「ホイ」とカウンターを鼻っ柱に受けてしまった。
衝撃で「ブホッ!」と声が出て、顔を抑えながら悶絶するアランにロベールは追い打ちを掛ける。
「だっさ! 「ブホッ」だって! 豚でももう少しマシな鳴き方するわな。エリーヌが言うにはお前が告白してくれるのを待ってたらしいぜ? そんな悩み相談を俺が受けて、酒を飲ませて酔い潰してからパクッとしちゃったわけ…… そこからはもうあれよ。お前への罪悪感と初めての快楽に苛まれていたみたいだけどな、お前の所に戻ろうとするエリーヌに一夜の間違いを黙っておく代わりに毎日毎日イカせまくってたらよ…… お前の事はすっぱり諦めたらしいぜ。出会って数カ月の俺に負けちゃうなんて……お前の十六年間の人生ってゴミカスだな」
便乗するかのように他の仲間より一回り小さい少年の様な見た目のナタエルもアランに近寄って口を開く。
「ついでに僕も教えてあげるよ。同じ説明の繰り返しも面倒だから端折るけど、君の妹もこの二日ほど帰ってないでしょ? ちょっと前に僕が彼女の相談に乗ったんだけどさ、実の兄に恋しちゃうなんてダメでしょ。だからお兄ちゃんは諦めなって教えてあげたんだよ。本当はね、今日君とお別れをさせるつもりだったんだけど…… いやあ、永遠のお別れになるなんて流石の妹ちゃんも思ってないでしょ。だから……孕ませてから捨てる時に真実を教えてあげようと思ってね。君の大好きなお兄ちゃんは死んだよってね。僕って優しいでしょう。フフフ」
「嘘だ…… そんな……」
一度に大切な人を二人も失って絶望しているアランをよそにパーティ唯一の紅一点であるデボラはトーマに抱き着きながら、ムスッとした表情をしている。
「ねぇ~、もういいじゃん。私飽きちゃったんだけどぉ! さっさと無能を始末して帰ろうよ。こんな奴の最後とかマジどうでもいいし、コイツの関係者も全員始末しちゃえ!」
「そうだな、ロベールもナタエルもどうせ本気じゃねえだろうし、飽きたら捨てる前に真実を教えてやろうぜ。どんな表情をしてくれるか楽しみだな…… という訳でお前は死ね」
トーマはダメ押しをするかの様に倒れているアランの腹部に思い切りケリを入れて吹き飛ばす。
壁に激突してアランはダメージが大きいのか大声を上げる事も出来ずに悶えている。
「よしっ、あとは適当に放置しておけば魔物に食われて死んでくれんだろ。帰るぞ」
パーティは笑いながらその場を後にした。
そんなパーティーのやり取りをバレない様にこっそり盗み聞きしている人物がいた。
(翻訳の誤りじゃないよな。だとしたら、胸糞悪い場面に遭遇しちゃったかな……。まあ、私も人の事はいえないか……)
「チクショウ…… 夢じゃないよな。悪い夢ならさっさと覚めてくれぇ……」
アランは倒れたままの状態で必死に涙を拭っている。
そんなアラン達を先程まで眺めていた人物がアランが一人になった事を確認して近づいてきた。
「よぉ、第一村人。私の言葉は通じているかい?」
「だ、誰? なんでこんなところに…… ここは危険ですよ。早く立ち去った方がいい」
出て来た人物があまりにも冒険者らしからぬ軽装だったため、アランは自分の目を疑った。
「こんな状況になっても他人を気遣うなんてな。その気遣いをもう少し幼馴染と妹に向けてやればこんな事にはならなかったんじゃないのか?」
「!!! ……聞いていたんですか」
(どうやら通じている様だな。会話にも支障はない)
「最初から聞こうと思ってたわけじゃない。遭遇したのは偶々って奴なんだが、険悪なムードだったし、姿を見せるに見せられない状況だったしな」
「はは…… であれば、お恥ずかしい所を見せてしまいましたね。情けない…… いきなり全てを失う事になるなんて思いもよりませんでしたよ」
「だったらどうする? 諦めるのか?」
「……もう……どうにもならないですよ」
「そんな弱音を聞きたいんじゃない。お前の本音を知りたいんだ…… 諦めて哀れに野垂れ死にするかどんな手を使ってでもアイツ等に一矢報いたいのか」
「…………諦めたくない…… まだ死ねない…… せめて……」
なんとか絞り出しきった本音をさらけ出したせいか、アランは我慢していた感情を堪えきれなかった様に嗚咽を上げていた。
「ならば私が力を貸してあげよう」
(さて、こちらの世界と私達の世界でどれだけ人体構造に違いがあるのか検証させてもらうとするか)
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