第11話 お母様!?



 乾いた洗濯物を畳んでいた時だった。


「ピーンポーンピーンポーンピーンポーンピーンポーン」


 突然インターホンが連打された。 

 びっくりしてすぐ出ようとしたが、以前ネット記事が出た時樹海人に「インターホンが鳴っても扉を開けず居留守してね」と言われたのでモニターを先に見ることにした。


 面倒な配達員か、はたまた私がここにいるということがついにバレてしまったのかと身構えていたのだが――。


「おぉい〜い樹海人ちゃぁ〜ん。久しぶりにお母さんが来てあげたんたから扉くらいあけなさいよ〜」


 モニターに映っていたのは、数ヶ月前にお話しにいった樹海人のお母様だった。


「いや〜まだ外暑いね」


 どうすればいいのかわからないので、とりあえずお母様が座ってる近くの机に麦茶をおいておく。


「そ、そうですね……」


「なんか緊張してない?」


「突然のことで、ちょっと戸惑ってるだけなんです」


「戸惑ってるって芽穂ちゃんってば、この前一緒になって樹海人ちゃんのいいところを語り合った仲なの忘れちゃった?」


「いえいえいえ! あの日のことは忘れたくても、忘れそうになです」


「たしかに。芽穂ちゃんがあんなにうちの樹海人ちゃんのことをべた褒めしてくれて、その上いきなり婚姻届を出してきたのは忘れらたくても無理だね……」


「その節はありがとうございました」

 

「いいのいいの。ま、でも流石にまだ婚姻届は早かったみたいだね」


「はい……でも、今は結婚を前提にお付き合いさせてもらってるので安心してください!」


「まぁ樹海人ちゃんならそう言うよね」


 お母様は「ふっ」と静かに笑い、突然キョロキョロ部屋を見渡し始めた。


「どうしたんですか?」


「樹海人ちゃんの姿が見えないなぁ〜って」


「樹海人ならさっき一人で買い物に行っちゃいましたよ? ……ネット記事にまたスクープされたら面倒だぁ〜って、私のことをおいていったので多分一時間は帰ってこないです」


「え〜嘘ぉ〜。樹海人ちゃんに用があってきたのにぃ〜。ま、また今度電話すれば済むことだしいっか」


 お母様は子供のように駄々をこねるかと思えば、切り替えて麦茶を飲み始めた。


 前から話していて薄々気づいていたが、樹海人はお父様似の性格だと思う。


「じゃあ私、もう帰ろうっかな……」

  

 お母様と喋るこのチャンスを無駄にしちゃいけない気がする。


「お母様」


「はいお母様です」


「少しお時間ありますか?」


「……まぁ、うん。夕方まで暇だから全然あるけどなに? もしかして恋に悩める乙女の相談?」

 

 どこか恋という単語を言いたいだけな気がする。


「いえ。実は私、絶望的に料理下手なんです」


「ほほう? 私に料理の極意を教えてもらいたいと、そういうわけだね?」


「……はい。可能でしょうか?」


「ふふふ。未来の樹海人ちゃんのお嫁さんに、胃袋を掴む最強料理を教えちゃうわ!」


「っ。ありがとうございます!」


 まずはフライパンの使い方。

 調味料の役割、食材の火の通し方。

 

 料理を覚えなくていいと思った過去の自分がいたからおかげで、お母様から料理の仕方を教えてもらえた。だが、何もできない現実を前にして情けなくも感じた。



◆◇◆◇



「ただいまー。ちょっと遅くなっちゃったわ〜」


 樹海人は外に出るときと玄関の靴の位置が変わっていたことに気がついた。

 

 掃除でもしてくれていたのだろうか?

 

 心の中でそう勝手に思い込み感謝を胸にリビングに向かったが、逆に部屋の中のものが少し乱れていたことに違和感を覚えた。


 とくにキッチン周りのものが乱れている。


「なんか焦げ臭くない?」

 

「そ、そうかなー?」

 

 なにかやっていたのは事実なんだが、これは深掘りしないほうが良さそうだ。

 

「わからないけど頑張ってね」


「えっ!? あ、うん。頑張る……」


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