第10話 俺らの日常



 芽穂が学校に転入してきて、一週間が経った。

 今では隣の席にたかる人は初日ほどはいない。

 人はすぐ別のものに興味が移ると、隣で見ていてすごく勉強になった。


 そんな少し落ち着いた芽穂に、いつの間にか喋り相手ができていた。

 俺は喋ったことがないのでよくわからないが、隣の席で見ている感じは落ち着いていていい人っぽかった。

 

 芽穂が高校に転入してきて、その学力を再確認してすごいと思ったがそれ以上にコミュ力の高さに圧倒された。


 今や超人気インフルエンサーなのでそれくらい持っていて当たり前なのかもしれないが、俺にはできないことをいともたやすくできていたので素直にすごいと尊敬する。


 そんな、誰とでも喋ることができる陽キャな芽穂と学校で話すことができるのは昼食やお昼休みしかない。

 なのでお互いバラバラで、誰にもバレないように屋上に集合することになっている。

 

「はぁはぁ……ごめん。みんながすごい、しつこくて……」


 屋上で一人風を当たりながら待っていると、ずっと走っていたのか汗だくの芽穂が息を切らしながら扉を開けてきた。


「大丈夫大丈夫。さっ、一緒に食べよ?」

 

「うん」


 芽穂に片方の弁当をあげて、広い屋上の上で肩と肩がくっつきそうなくらいの距離感でお昼ごはんを食べる。


 教室の人の声が溢れていて騒がしいのも好きだが、この二人だけの空間の方が落ち着いていて好き。

 今ではこの時間が高校生活の一つの楽しみになっている。


「うわぁ〜! 今日も美味しそう!」


 すごいものは作ってないのに、芽穂はいつもいい反応をしてくれる。こうやって嬉しそうにしてくれると、作った俺も嬉しいものだ。


「ん? 樹海人は食べないの?」

  

 しまった。

 芽穂がパクパク食べているのに目が釘付けになって、忘れてた。


「あぁ〜なるほど。そういうことね」

    

 芽穂はなにか察した顔をして、卵焼きを箸でつかみ、俺の口元に持ってきた。


「はいどうぞ」


「あ〜ん!」


 ヤケクソになって勢いよく卵焼きを食べた。

 味は、よくわからない。

 ただ心臓が飛ぶようにドキドキした。


「よし」


 俺だけこんな気持ちになるは不公平だと思い、同じく卵焼きを口元に持っていった。


 芽穂はビックリし、俺の顔を伺い、深く深呼吸し――


「あ〜ん」


 パクっと一口で食べた。

 もぐもぐと、本当に芽穂は美味しそうに食べてくれる。


「あぁ〜あ。もうお弁当終わっちゃった」


「あれ? 足りなかった?」

 

「いやそういう終わっちゃったっていうのじゃなくてだね……」

 

 芽穂は顔を逸してブツブツなにか説明しているが、何を言ってるのか聞き取れない。

 恥ずかしがっているので弁当の量が足りなかったってわけじゃないらしい。

 

「ま、なんでもいいや。あともうちょっとだけ一緒にいよ?」


「……うん」


 俺の地面においていた手に、芽穂の手が覆いかぶさった。

 

「芽穂ってこういう時大胆だよね」


「えっ。そうかな?」


「うん。今だって俺の手握ろうとしてるじゃん」


「……たしかに。いやでも私が大胆なんじゃなくて、樹海人への愛が強くてそれ故なんだよ!」


「愛が暴走してるってこと?」

 

「そうそれ!」


 俺と結婚することだけ思って有名になったんだ。

 愛が暴走してるっていうのはあるのかもしれない。


 イチャイチャしたい理由を愛の暴走っていう言い訳に……いや、イチャつくのは愛が強くてそれ故のってやつか。


「愛が暴走するのなら、それは仕方のないことだね」


「うんそう。これは仕方ないことなの」


 芽穂はそう言ってギュッと手を握ってきた。

 

 今更だけど、俺と結婚するためだけを考えて有名になるって正気じゃないと思う。

 それだけの愛があって、今その衝動が出てるのかもしれないと考えると心が締め付けられる。

 

「なんか申し訳ないな……」


 もし俺が逆の立場だったらどうなっていたんだろう?


 ふと芽穂のことを見てみると、俺のことをむふふ……と、どこかいじわるするような顔で見てきていた。


「申し訳ないのなら、もっと私に大胆なことしてほしいなぁ〜」


 スカートをピラピラさせ、大胆に誘ってきてる。

 なんか勘違いされたっぽい。

 けど、勘違いされたままのほうがいいかな。


「俺がいつまでも追われる立場にいるわけじゃないんだよ?」


 ニギニギされていた手を振りほどいて、芽穂に襲いかかるように右手を顔の横の壁に突き立てた。


 いわゆる壁ドンだ。


 反応がなく滑ったのかと思ったが、少し経ち「はひぃ……」と小さな声で反応してきた。

 芽穂も恥ずかしいだろうけど、俺もすごい恥ずかしい。


 いい反応が返ってきたことをいいことに、俺はその後毎日のように隙があれば壁ドンしていたが、初見のような反応が返ってくる日は一度もなかった


「いやさすがにここまで数こなされると慣れちゃうよ」

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