第7話 一緒にお風呂
もわもわと湯気が充満していてお風呂場が少し見ずらい。
「んっふふのふぅ〜」
そのせいで、何一つ隠すことなく堂々と体を洗っている芽穂のきめ細やかな肌がよく見えない。
恋人なので裸体を見てはいけない理由はなけど、こうやって体を洗っている所を湯船の中から覗いているとどこか背徳感が拭えない。
今、樹海人と芽穂は一緒にお風呂に入っている。
突然芽穂がお風呂場に乱入してきたので裸体を拝もうとしている樹海人自身、未だこの状況が何がなんだかよくわかっていない。
「樹海人! いつも思ってるんだけど、このボディーソープなんかすごいよね!」
「あ、うん。まぁ高いやつだから」
「へぇ〜。やっぱりこれ高いやつだったんだ……」
当たり前のように話しかけてきているので、俺がいることを知らずに入ってきたわけではないらしい。
「よぉ〜し」
そうこう考えているうちに、いつの間にか芽穂は体を洗い終えていた。
「私も入っていい?」
「もちろん」
一緒に湯船の中に浸かると気まずくなりそうだったので、上がろうとしたのだが――
「え。樹海人も一緒に入ろうよ」
「わ、わかった」
寂しそうな顔をされ、抗うことができなかった。
一緒に湯船に浸かる。
それは百歩譲ってまだ大丈夫なんだが。
「め、芽穂さん? なんで俺の体の上に乗ってるんです?」
「んふふ。二人で足を伸ばすのはこうするしかないでしょ?」
芽穂はからかうように振り向いて笑ってきた。
足を伸ばすのなら色々方法はあるはずなが、こうしているのはわざとなんだろう。
「なんか二人でお風呂に入ると気持ちいいねぇ〜」
「俺はどちらかというと気まずいんだけど」
「へへ。何? もしかして私の裸を見て恥ずかしくなっちゃった?」
「……うん」
「大丈夫! 私も樹海人の体見て恥ずかしくなってるし、これからいっぱい見て慣れていこ!」
いっぱい見て慣れていく、ということはもしかしてこれからも定期的に一緒にお風呂に入るということだろうか?
嬉しいのが、今日のようにお風呂場に乱入してきたら心臓がいくつあっても足りない。
「そういえば樹海人、もうすぐ学校の夏休み終わっちゃうんじゃなかったっけ?」
芽穂は俺の体に寄りかかり、リラックスしながら話しかけてきた。
「たしかに。言われてみればもうすぐ終わる気がする。……芽穂がもうちょっと俺のところに早く来てれば、もっと二人で恋人らしいことできたかもしれないのになぁ〜」
「私がもっと早く覚悟を決めることができてればよかったんだよね……。くっそぉ〜。過去の私のバカバカバカ」
芽穂は自分のことをぽかぽか叩いている。
それを見て、思わず両手首を掴んでしまった。
「もっと自分のことは大切にして?」
「ごめんなさい……」
芽穂自身もそんな強く叩いていなかったはずなのに、ちゃんと謝られて気まずくなってしまった。
いや絶対これ、わざと気まずくしたでしょ。
俺の予想が当たっていたのか、さっきら芽穂の体が笑いを堪えているように震えている。
「ちょっとそれは悪趣味なんじゃない?」
「ふふっ、ごめんね。でも樹海人も気づいてたでしょ?」
「まぁあんなあからさまに空気を変えるようなこと言ってきたら、流石に気づくよ」
「だよね。……安心して。今度はもっと気まずくなるようにするから!」
「それ全然安心できないんだけど……」
もし今後本当に気まずい空気になったらどうしようかと、ふへ〜っと湯船の中でとろけながら考えていると――
「ていうか、そんな私の手首って握り続けるほど魅力あるかな?」
「いやあんまない」
芽穂が早く手を離せ、と遠回しに言ってきた。
「じゃあなんでずっと握ってるの? いや別にいいスキンシップになってるからそのままでいいんだけど……」
「うぅ〜ん。なんていうか、その、俺の手首と比較するとすごい細いなぁ〜って思って握ってる」
「……え? それだけ?」
「うん」
「…………」
芽穂が黙り込んだせいで、どこか気まずい空気が流れ始めた。
これはまさかわざとなのだろうか?
わからないが、前の会話から芽穂は俺が手首を握っていた理由が予想外だったんだろうとわかる。
「ぷぷっ」
芽穂から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ふはははっ! 樹海人ってば、私のこと疑い過ぎじゃない?」
「だって今のは仕方ないでしょ。本当に気まずい空気になったんじゃないの?」
「さぁどうだろうね?」
あ。これ本当になったやつだ。
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