第4話 実は芽穂は〇〇
俺が今、こうして芽穂と一緒にのんびり家の中で過ごせているのは学校が夏休みだからだ。
もちろん夏休みなので宿題がある。
「んー……んー……んぁ〜……」
「どうしたの?」
「情けないけど、数学が全くわかんないんだよ……。なんだよ。なんで高校になったらこんな勉強内容難しくなるんだよ……」
「あぁ。この問題の答えは――」
芽穂は樹海人が夏休みの宿題の難しさに嘆いているのを見て、代わりに残っている問題の答えを言った。
樹海人は一瞬何を言われたのか理解できなかったが、それが宿題の問題の答えを言っていると気づき慌てて答えを見た。
「あってる……」
「えっへん!」
芽穂はこのままじゃ頭が地面についてしまうのではないのかと心配してしまうほど体を反らせ、腕を組み、俺のことをチラチラ見て、嬉しそうにしている。
「芽穂って頭良かったんだ……。てっきり忙しいから、学業を犠牲にしてるのかと思ったよ」
「んふふ。まぁ? 学力だけでいったら、私は余裕で高3だし?」
「まじか」
「えっへん!!」
インフルエンサーとして活動しながらも、勉強を欠かさなかったんだろう。
何もしてない俺と大きな違いだ。
「ほんとすごいわ。……料理は下手だったけど」
「そ、それは事実だから今言わないでよ!」
そう。芽穂が料理下手だと発覚したのはついさっきのことだ。
いつも俺が朝食を作っていたので、ここは一つ芽穂の顔をたたせようと朝食を頼んだのだが……この先は説明しなくともわかるだろう。
俺としてはこうして知らない一面を見つけることができて嬉しいのだが、どうやら芽穂は違うらしい。
「もぅ。樹海人って恥ずかしいところ急にえぐってくるよね……」
「いやいやいや。何度も言ってるけど、俺は恋人の知らない一面を知れて嬉しいだけだからね。料理なんて、これからいくらでも俺が教えるよ?」
「ほんと?」
「もちろん。今まで俺が嘘をつくことなんてあった?」
「…………私、小さい頃に何度も樹海人の嘘に騙されて樹海人のお母さんにバカなことしてたと思うんだけど」
芽穂は机に両肘をおいて、両手のひらに顔を乗せて、とんでもなく怖い笑顔で俺の目を見つめてきた。
怖くて手に力が入ってシャー芯折れちゃった。
「そ、そんなこともあったかもしれないけどお互い小さい頃より成長したでしょ? 言いたいのはそういうことだよ……」
「そっか。そうだよね。結婚を前提にお付き合いしてる私に、あの大人な樹海人が今更嘘なんてつかないよね。もしついたら勢いでほっぺたにビンタしちゃうかも。ふふふっ」
まるで悪魔の笑いだ。
直接なにかされたわけじゃないけど、ものすごく『小さなことでも嘘をつくんじゃないぞ』と圧をかけられた気がする。
「さ、さぁ〜て。芽穂が答えを教えてくれたわけだし、次の宿題でもするぞぉ〜……っと?」
机に出していた宿題を移動させようとしたら、芽穂に止められた。
「解き方がわからないのに、それを放っておくつもりなの?」
あ、これからスパルタ指導が始まる予感――。
なんでも思ったときにはもう遅いというべきなんだろう。だから俺は4時間みっちり勉強させられたんだ。
俺のことを勉強に縛り付けた本人は、なにかマネージャーと話があると言って外に電話しにいってしまった。
長時間拘束したというのに、なんという適当な扱いなんだ……。
ま、芽穂といいコミュニケーションを取れた気がするし、なにより恋人が隣で勉強を教えてくれているというシチュエーションを楽しめたのでいいことにしよう。
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