第39話 女神
お姉になってしまった魔王だったが、話し合いは上手く纏める事が出来た。
私たちの前でエルフの里には、もう手は出さないと約束してくれた。
そして犠牲になった民を称えて頭を下げたいとも言ってくれた。
私は魔王が世間で噂されてる程の悪では無かった事に安堵していた。
交渉の場で争いが起こる事は覚悟していた。
私はとろろの力を使って魔王を変えたが、根底の部分を変えた訳ではない。
交渉をしやすくする為に迫力や威圧感を取り除いたに過ぎなかった。
事後の報告の為に私たちはエルフの里に戻っていた。
道中で姉さんから散々嫌味を言われたが私はこれで良かったと思っている。
魔王の態度があんなのでは悪者と決めつけられても仕方がない。
お姉の方が人当たりも良く、これからの世間の評判は違ったものになるだろう。
「でも姉さん…ヒドラーって悪い奴?」
私は影で糸を引いていたとされるヒドラーが気になっていた。
私の両親の召喚にも関わっている。よっぽどの策士なのだろうか?
「ああ…ずる賢くて尻尾が掴めない奴よ」
姉さんにそんな事を言わせるなんて相当、頭が切れるのだろう。
いつか対峙する事を考えて私は気を引き締めていた。
エルフの里では長老たちが神妙な面持ちで私たち到着を待っていた。
話を切り出すミクの様子に大きく息を飲んでいる。
「魔王はオカマになっちゃいました…」
ミクの話に長老たちは呆然としていた。
そしてエルフ同士でコソコソ話しながらザワザワとざわつき始める。
「違います!皆から愛されるような魔王にしただけです!」
私はミクの話に納得がいかなかったので口を挟んだ。
すると長老たちはまた呆然としてザワザワと騒ぎ始める。
姉さんはその様子に「はぁ~」と大きく溜め息をついた。
「あのね、オカマになった事はどうでも良いでしょ…」
「違います!オカマじゃありません!愛されキャラです!」
オカマの部分に食って掛かる私に姉さんは呆れていた。
そしてミクに向かってボソボソと何かを耳打ちする。
その言葉にミクはコクリと頷いていた。
「話は纏まりました。もうエルフの里には一切、手を出さないそうです」
ミクの言葉に長老たちは顔を見合わせた。
そしてエルフたちから歓喜の声が上がる。
「しかし…あの魔王をどうやって…」
長老は信じられないと言った感じでミクに真相を尋ねる。
ミクは満面の笑みを浮かべてニッコリと微笑んだ。
「全てマリアのお陰なんです。マリアの魔法はやはり凄かった」
ミクの話を聞いていた姉さんは不貞腐れていた。
主役の座を私に奪われた事がお気に召さない様だった。
大地に向かって地団太を踏んでいる。
「あの屈強な魔王を…」
長老は譫言の様に呟いた。そして天を仰いで涙を浮かべる。
今までの苦労が報われた、そんな様子を見せていた。
「長老…」
ミクが長老に向かって何かを言いたげだった。
長老は「はて?」と言いたげにミクに顔を向けた。
「私、マリアと一緒に行きたいです。マリアから魔法を学んで上達したい!」
「しかしのう…お前さんら魔法の属性も違うじゃろ」
「属性が違っても繋がるモノはあります。それにマリアは女神らしいんです!」
その言葉に長老の目が大きく開いた。
「何じゃと…あの世界を救う伝説の女神だと…?」
2人のやり取りに私は固まっていた。
旅の途中からちょこちょこで出くるそのキーワードに困惑していた。
そしてその勘違いに憤慨している。
【女神っていったい誰の事だよ!】
私は怒りにワナワナと震えていた。
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