第37話 魔王アルシンド
魔王城の中には何故だか、すんなり入る事が出来た。
門番もおらず、門の前に立つとその扉は自動的に開いた。
魔界って進歩してるな~と私は感心していた。
不気味な様相をしてはいるが、すべての設備が最新鋭で私たちの国ではお目に掛かれないモノばかりだった。
中を進んでいくと私がイメージした地底人と同じようなのが突き進んでくる。
頭には黄色のヘルメットを被り、スコップを持っている。
毛むくじゃらのその姿はぬいぐるみの様に可愛かった。
短い手足でちょこちょことやってくる様は何とも微笑ましい。
「おい!お前ら駄目だよ~勝手に入ってきたら~」
地底人は私たちがここに勝手に入ったと思ってお怒りだった。
細い目を吊り上げてプンプンと怒りを露わにしている。
「こんにちわ~魔王の所まで案内して下さい」
私の言葉に地底人は目を吊り上げた。
「何だってー!お前らみたいなのが魔王様に会える筈ないだろ!」
可愛い身なりとは対照的で地底人は粗暴だった。
少しは社交性を持った方が良いと私は思った。
「エルフの里の事でどうしても話さなければならない事があるんですよー」
私は少しカチンときてたが、大人になって交渉を続けた。
地底人はエルフの里という言葉に何故か反応する。
細い目が閉じられてなにかを考えている風に首を傾げている。
「もしかして…お前らエルフの里から来たのか?」
私たちが頷くと地底人は仕方なさそうに「付いて来い」と言って先に進んだ。
通路を進むにつれて飾られた装飾品や絵画が派手なものへと変わっていく。
突き当りの豪華な扉の前では、キーウエストの城主の間とそれ程変わらないものになっていた。
扉がゆっくり開かれ、煌びやかな大広間の玉座に誰かが座っている。
頭には天を貫くような力強い2本の角を生やし、身体は硬い鎧の様なグレーの皮膚に覆われている。
威圧的なその表情は見るもの全てを恐怖に落とす程の迫力がる。
マントを羽織り、威厳のある風格に満ちたその風貌は何者をも寄せ付けない。
「魔王様。エルフの里から来たという者たちをお連れ致しました」
目の前にいるのはやはり魔王だった。
魔王はエルフの里というキーワードにビクッと反応する。
「エルフの里だと…お前たちは何者だ」
「エルフの里に関わるのはもう辞めて欲しいの」
姉さんは魔王を前にしても動じる事は無かった。
その辺にいる者と同じ態度で魔王にも接している。
その厚かましさには目を見張るものがあった。
「何だと⁈」
凶悪で残忍な魔王だ。話が通じる事はないだろう。
きっと私たちに無理難題を突き付けてくるか、力でねじ伏せて黙らせようとするに違いない。
私は咄嗟の状況に備えて戦闘態勢を取っていた。
「何故、お前たちがそんな事を言ってくる…」
魔王の様子はやはり高圧的だった。
少しでも下手な事を言ってしまったら直ぐに消されてしまいそうな雰囲気を醸し出していた。
しかし姉さんはどっしりと構えて、取り乱すどころか鼻歌でも歌いそうな雰囲気だ。
2人の駆け引きに周りは息を飲んでいた。
「この娘、あなた達が狙っていた娘よ」
私は口をあんぐり開いて目を飛び出させていた。ここで言ってしまうんかい!
「何だと!この娘が女神だというのか?」
前にも同じようなキーワードを聞いた事がある。この世界の流行りなのだろうか?
しかし私が女神だなんてちゃんちゃらおかしい。
「いいえ。私は女神なんかじゃございませんわ。」
私は悪役令嬢の様な口調で言った。それには皆が目を丸くしている。
あの高圧的な魔王すらも口をあんぐり開けている。
私は今がチャンスだと思い魔王の口めがけてとろろを飛ばした。
「うぐっ、うぐっ…」
魔王の身体が怪しく光る。
そして光が広がり周りを包んでいく。
私が飛ばしたのは愛されキャラのイメージを強く含んだとろろだった。
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