第36話 魔王城

 エルフィンの追っ手から逃げ伸びる為に私たち家族は前にも、エルフの里を訪れていた。

 しかし、私たちを狙っていたのはエルフィンの者たちだけでは無かった。

 何故か魔王軍も私の力を知り、狙っていた。


 私たちを匿った事で魔王軍の標的にされたエルフたちは戦を余儀なくされた。

 最初は交戦していたエルフたちだったが、魔王軍の力に苦戦して徐々に壊滅状態に追い込まれる。


 大勢の同胞の命を失ったエルフたちは、やむおえず魔王軍に停戦を持ちかける。

 魔王が停戦を飲む代わりに付きつけた条件は私たち家族の身柄だった。


 そんな事を姉さんが納得するはずもなく、私たちを連れて里を出て行く。

 そして私たち家族を現世に帰そうとして姉さんは力を失った。残された私を守ろうとはしたが力尽きてエルフィンに奪われてしまう。


 戦う理由は無くなったが、魔王軍がそのまま引き下がる筈も無く、エルフたちは魔王に降伏し従属する事になってしまった。


 エルフたちの言い分では大勢の仲間を失い魔王の配下になった切っ掛けは私たちだ。

 人間からは匿うとは言ったが、魔王まで介入してくるとは思っていなかった。

 厄介事を招いた私たちを許せなかった。


 私には気になる事があった。

 魔王軍が何故、私の力に気付き捕えようとしたのか。

 そして囚われの身になった私を何故、追って来なかったのか。


「それはエルフィンの城主の所に魔王の配下が潜んでいたからよ」


 姉さんの話では魔王軍の配下のヒドラーという魔人がエルフィンの要人として潜んでいたらしい。

 そして、その魔人は全ての発端である私の両親の召喚にも関わっているという話だった。


 私たちは魔王に会うために魔界へ向かっていた。

 今後、エルフ族には関わらないという確約を貰う為だった。

 話し合いで解決できるとは思ってはいなかった。

 出来れば穏便に済ませたいが、力でねじ伏せてきた魔王軍相手には無理な話だろう。


 重たい空気が漂う中で魔界へ向かう足取りはそれぞれに重い。

 無言で道中を歩む一行の中にはミクの姿もあった。

 魔王との交渉がどうなるのかエルフ族として確認する者が必要だった。


 誰もが敬遠する中、ミクが名乗りを上げた。

 ミクは幼いが魔法の腕はエルフ族でも上から数えられるくらいに長けていた。

 得意の氷魔法は里の中では群を抜いていた。

 それに私と仲がいい。エルフの長老はミクの同行を認めた。


「それにしても魔界ってどこにあるの?」


 私のすっとぼけた発言に一同が「えぇーっ!」という顔をした。

 しかし本当に知らないのだ。ずっと牢獄に居たのだから。


「魔界はこの世界の果てに位置する地底の中よ」


 姉さんの言葉に私は私なりの地底人を思い浮かべた。

 目が小さくてモグラの様な格好の怪人だ。頭には工事用のヘルメットを被りスコップを持っている。

 もしかして魔王軍ってたいしたことないんじゃないだろうか。


「ミクたちはモグラさんと戦ったの?」


 私の言葉にミクは「???…」を浮かべていた。


 しかし魔王城に近ずくに連れ、私の想像は間違いだという事に気付く。

 光の届かない魔界は不気味な雰囲気に包まれ、魔王の城は身の毛もよだつほどの狂気に満ちた様相だった。

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