第35話 奇跡を起こす幼女
エルフの女の子の名前はミクと言った。
エルフは寿命が長く人間とは年の取り方が違うが、ミクは私と同じで7歳だった。
姉さんとエルフ族の間には何かあるようだが、私たちには関係ない。
事情も教えてくれないので私はミクと仲良くしていた。
エルフの里まではミクが案内してくれるらしい。
いつもの頼みの綱の姉さんが当てにならないので私としては大助かりだった。
「ミク、エルフの里ってどんな所?」
「エルフがいっぱい住んでいるのよ」
その答えはパイアオジサンの返答と何ら変わりなかった。
もしかすると私が思い描くような幻想的な場所ではないのかも知れない。
ただの寂れた村で貧祖な佇まいの家が立ち並んでいるのではと想像した。
「苦労してるんだねー」
涙を流して労う私にミクはキョトンとしていた。
私の抱擁に抱かれながらも頭には「?」の文字が浮かんでいる。
「見えて来たわよ」
ミクはゆびを指して方向を示すが、私には広大な規模の森にしか見えない。
あの森の空いたスペースに、ひっそりと埋もれているのだろうか?
私は更にミクを強く抱きしめた。
しかし近づいて見えてくる光景に間違いを気づく。
大きな木々の枝それぞれに、エルフの住居は並んでいた。
その光景は幻想的で、立ち並ぶ住居も決して貧祖ではない。
ログハウスの様に木で組まれており、1件1件が大小さまざまで個々に別の形をしていた。
森自体が住居の圧倒される風景に固まっていると、エルフの一行がぞろぞろと私たちの元に集まってきた。
「チャッピーよ。それは例の娘じゃな!何故、連れて来た⁈」
エルフの長老と思われる老人が口を開いた。
その言葉で姉さんがエルフを毛嫌いする理由が何となくわかった。
原因は私にあったのだ。
「私たちも、そろそろ和解する頃合いだと思ってね。それで連れてきたのよ」
ミクは訳がわからずオロオロしている。私と同じ年のミクには記憶にない事だろう。
「人間から逃れる為に、お前はこやつら家族を里に連れて来た。それがどんな結果を招いたか知っているであろう」
「確かに里は壊滅状態になったわ。あなた達だって、この娘たち家族を魔王に差し出そうとしたじゃない!」
魔王という言葉に私は唖然とした。魔王って存在したんだ!
「差し出さなければ私たちの里は滅ぼされていた!」
「だから今も魔王の手先として働いてるの?」
姉さんの態度は「わかってるのよ」と言いたげだった。
しかし私たち家族の事に魔王が関わっているとは思いもしなかった。
「くっ!」
「とりあえず今は言い争いに来たんじゃないわ。和解をしたいの。魔王は私たちが何とかするわ」
姉さんの言葉にエルフたちがザワザワとざわついた。
魔王を何とかするなんて簡単にできる話じゃない。
「そんな事、できる筈がないだろ!」
若そうなエルフが叫ぶと、エルフたち皆が同調する。
「私も力を取り戻したわ。それにこの娘、魔王なんかよりずっと力が上よ!」
辺りは一層どよめき始める。私は口をあんぐりと開き目を飛び出させていた。
いくら何だって魔王より凄いはずが無い!
魔王と言うくらいだから物凄い魔法を使うに違いない。
「それは私も保証します。私のレベル8の氷結魔法では相手になりませんでした」
何故かミクが姉さんを援護している。レベル8の魔法ってそんなに凄いのだろうか?
相殺しようとしたとろろの威力は1割程度しか出して無かったのに。
「レベル8の氷結…」
その言葉を口々に唱え、またざわめき始める。
いったい何度、ザワザワすれば気が済むのだろうか?
「えーぃ!うるさ~い!私に全てを任せなさい!!!」
私は我慢ができずにエルフの前に立ちはだかった。
そして天空に向けてとろろを放出する。
とろろに包まれる木々や草花がうっすらと光り始めて、枯れかけた葉っぱが青々と若さを取り戻していく。
生い茂った草花も元気に満ち溢れたよう活気ずく。
「おお…奇跡だ…」
私はエルフの里に奇跡を起こしていた。
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