第33話 海の神様
祠を目前にして私たちの前に姿を現した老人の正体は海の神様だった。
しょぼくれた格好のその姿は威厳も無く、只のお爺ちゃんにしか見えない。
話しが聞き取れず、突然ボケーっとする様子には痴呆症である疑いすら感じられる。
「神の大地の使用許可を貰いに来たの」
姉さんの言葉に神様は?と言った顔をしている。
「えぇ~っ?」
神様は手を当てながら、その耳を近づけていった。
間の抜けたその行動には不安しか感じられない。
「だからー!神の大地の使用許可を貰いに来たのよ!!!」
「何ですとぉ?……ああ…最近はあつくなりましたなぁ~」
何かのコントの再現だろうか?
姉さんの苛立ちは私にも伝わっている。
パイアオジサンは夕陽に向かって体育座りをしながら黄昏ていた。
「マリア、この爺さんにとろろを食らわせなさい!」
私は感動していた。
「私の事を今日からマリアと呼んで!」と申告してから、その名前で呼ばれるのは初めての事だった。
ジーンと胸に響く感動を噛みしめながら夕陽に向かって黄昏る。
パイアオジサンと並びながら体育座りをした。
「ちょっと!何やってるのよ!!!」
姉さんのお怒りはもっともだった。
まともに動いてるのは姉さんのみで、後はおふざけをかましている。
私までボケた行動を取っていたら収まりが付かなくなってしまう。
私はスクッと立ち上がりお爺ちゃんに向けてとろろを放った。
変化のイメージは《お爺ちゃんの耳が聞こえる》だ。
『ビチャビチャビチャ…』
「あわぁ、あわぁ、うぐぅ…」
悶え苦しむお爺ちゃんの様子に私は老人虐待をしているような気がしてならなかった。
お爺ちゃんの身体が光に包まれていく。
「どういった御用ですかの?」
現れたお爺ちゃんの姿は、さっきと違ってシャキッとしていた。
ボケた様子など、どこにもない。
「だから、神の大地の使用許可を貰いに来たの」
三度目の同じ言葉に姉さんはウンザリしていた。
しかし、もう心配することは無い。お爺ちゃんの耳は聞こえる筈だ。
「なんだと⁈」
濁っていたお爺ちゃんの眼光が鋭く光った。
そこには遥か遠くを見つめる様な焦点の合ってなかった面影などない。
詳しい説明をする姉さんの話にも付いていけてるのか、しっかりと頷いている。
「それは駄目じゃ」
まともになったお爺ちゃんの返答に驚いたのか、姉さんは困惑していた。
「何でよ⁈」
「ドラゴンの住処には最適な場所だとは思うが…あそこには…」
口を濁した爺ちゃんを姉さんは鋭く睨みつける。
話の流れから何かとんでもないモノがありそうな予感を感じさせた。
「何があるというの?」
「あるんじゃない…住んでいるのじゃよ」
「誰が?」
「エルフじゃ…遥か昔にお前さんたちと同じように許可を貰いにきてのぅ。人の来ない場所じゃ、エルフには住やすい場所じゃろうて…」
エルフと聞いて姉さんは顔を歪めた。
何か因縁でもあるのだろうか?
「エルフにことわりを入れないとドラゴンとの争いになるという事ね…わかったわ…」
納得はしたようだが姉さんの顔色は冴えなかった。
姉さんとエルフにはどんな因縁が隠されているのだろうか?
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