第32話 大津波の襲来
生まれ変わったブタと男はまるで別人の様だった。
穏やかな性格で相手の事を思いやり、澄んだ瞳には濁りすらない。
とっちめた私たちに感謝すらしていた。
国を乗っ取るなどという馬鹿な考えはもう起こさないだろう。
それにしても驚いたのは私が思い描いた通りに事が進んだことだ。
「姉さん、とろろに浄化作用ってあったっけ?」
「無いわよ。あんたのとろろだから浄化作用があったの。前に言ったでしょ、あんたの力には変化が加わるって」
「どういう事?」
「あんたがイメージした変化が加わって浄化作用付きのとろろになったのよ」
何気に言ってるが物凄い事を姉さんは言っている。
私がイメージした通りに変化が起こるとすれば、チート能力というやつではないだろうか。
「それって、チート能力ってヤツ?」
「そうね。確かに凄い力よね」
私は既に姉さんを越えているのではないだろうか?
しかし、よく考えると姉さんがいなければ私は何一つ魔法を出せない。
という事はやはり姉さんが上?…巡り巡ってこんがらがってくる。
私は考える事を止める事にした。
「姉さん、砂浜って歩きずらいね」
キーウエストの街を後にした私たちは海の神の祠に向かっていた。
この海岸の岩場に神の祠は祀られているらしい。
「足を取られるからね。もう少しで岩場よ。頑張りなさい」
岩場に着いたら海に入る予定だ。私は嬉しさの余り海岸を駆けだした。
波風がそよぐ砂浜を裸足で走り出すと、砂浜で老人が体育座りで黄昏ていた。
ボロ雑巾の様な衣服を纏った老人は沈む夕日を見つめながら何かブツブツと呟いている。
剥げた頭、白の長い髭と眉毛、途方に暮れて遠くを眺めるその姿は痴呆症の老人の様に思える。
私は優しさからお爺ちゃんに声を掛ける事にした。
「お爺ちゃん、どうしたの?」
声を掛けてニッコリと微笑むが、全く気付いていないのか一人でブツブツ言っている。
「海に集いしモノたちよ…遍く奇跡を…」
聞き取れなかった話の内容が私の耳に届く。それはブツブツ言ってるのではなく、何かの魔法の詠唱だった。
老人が立ち上がり「はぁ!」と気合を入れると、大津波が海岸に向かって押し寄せてくる。
私がオロオロとしながら海岸を右往左往していると、姉さんが物凄い勢いで走ってきて老人の頭をポカっと叩いた。
「イタっ!」
「何してくれとるんじゃ!!!」
老人の姉さんを見つめる目は涙目だった。
うるんだ瞳で姉さんを見つめる姿はチョットだけ可愛い。
「津波をどうにかしなさいよ!」
姉さんが怒りをぶつけると老人はしょぼくれた感じで詠唱を唱える。
ゴオーと押し寄せていた津波が海の向こうに引いて行った。
ホッと胸をなでおろす私たち。老人はお茶目に笑っている。
「いきなり何なのよ!」
「海を司る神の力を見せてやろうと思うての」
『ポカッ!』
姉さんにぶたれた老人の正体は海の神様だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます