第30話 醜態
ブタの様子から紳士的な男は只者ではない事が感じられた。
成金趣味のブタとは対照的に落ち着いた身なりには気品があり、風格が漂っている。
周囲のおかしな状況にも微動だにせず、落ち着き払った顔は表情一つ変えなかった。
「あなた…」
姉さんは何かを感じ取ったのか少し眉間にしわを寄せる。
そして目の前の男に対しての嫌悪感を滲ませていた。
「誰だっけ…?」
開口一番の姉さんの言葉に男は憮然としていた。
何事にも動じなかった男の顔色が僅かに崩れる。
「なんだと…お前たちを、ここに招いた首謀者だよ」
男の話と今までの経緯で、エルフィンの城主である事が私にだって予想できた。
しかし姉さんは何か企らんでいるのか、しらを切り通す。
「へぇ~そうなんだ…お招きありがとー」
姉さんはそう言いながら男の肩をバンバンと叩いた。
叩かれた男の身体がリズムに乗って前後に揺れている。
その滑稽な姿には、さっきまでの男の風格は何処にも見られなかった。
「おい、やめろ!お前たちを招いた覚えなどない!」
余りの雑な扱いに男は豪を煮やしたのか姉さんの手を振り払った。
落ち着き払った様子はそこには無かった。
男の言葉に姉さんはキョトンとして顔をまじまじと眺めている。
「おじさん………痴呆症?」
その言葉に男の顔はみるみる真っ赤になっていく。
怒っているのか全身をワナワナと震わせていた。
「なんだと…」
「だって…自分で言ったこと忘れてるじゃん!ここに招いたって言ったこと…ウケるぅ~wwwwwwwwwwww」
姉さんの伝家の宝刀「ウケるぅ~」が炸裂した。
ケタケタと馬鹿にしたようにいつまでも笑っている。
小馬鹿にしたその態度に男は更に怒りを増したのか姉さんに襲い掛かった。
「ふざけるな!!!」
怒りに任せたその姿は、もはやブタと同等だった。
姉さんに襲い掛かったとして無駄な事。何故なら姉さんは精霊だ。
人間の動きなど遥かに超えている。
掴みかかろうとする男の腕をスルリと躱す。
勢い余った男の身体は床にゴロゴロと転がった。
姉さんは倒れこんだ男の姿を上から目線で見下していた。
そして高らかに笑う。
「おじさん、惨めぇ~wwwwwwwwwwしかも、痴呆症ってwwwwwwwww」
人を食ったような、その態度は姉さんの十八番だ。
もはや男にあがらう気力は無いだろう。
意気消沈した男の姿に姉さんの顔つきが険しくなる。
「この男にあんたの力を見せておやりなさい!」
私は追い打ちをかける様にとろろを飛ばした。
『ビチャビチャビチャ…』
とろろに塗れて蠢く男の姿は何とも哀れだった。
「うわぁ…助けてくれ…」
なんとも無様な男の姿に私は無性に腹が立った。
こんな男に人生を滅茶苦茶にされてしまったのだろうか。
私は更にありったけのとろろを男に放った。
城の兵士たちやブタがうわぁ~という顔で引いている。
男の姿はとろろに塗れて見えなくなった。
「もう、その辺にしたら?」
我を忘れた私の肩を姉さんが優しくポンと叩いた。
「あっ…うん…」
落ち着きを取り戻した私は、とろろ塗れの落ちぶれた男の姿を冷ややかに見つめていた。
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