第29話 因縁

 指揮官の身柄を捕獲した私たちはキーウエストの城主の元へと向かっていた。

 そこには因縁のエルフィンの城主の情報が何かあると睨んでいた。


 キーウエストの街は首都の様な華々しさはないが、港町特有の活気に溢れかえっている。

 肌を露出した多くの人がごった返し、海の幸を中心とした露店がズラリと立ち並んでいた。


 サザエのつぼ焼きの香ばしい香りに誘われた私たちは早速、露店に並んでいた。

 縛り付けられた指揮官の様子に、街ゆく人々は何事かと視線を向けている。

 私たちはそんな事など、お構いなしによだれを垂らして順番を待っている。


「お前たち!こんな事をして、ただで済むと思うなよ!」


 指揮官の言葉など私たちには届いていなかった。

 今、頭にあるのはサザエのつぼ焼きに醤油を垂らすか、塩をふるかである。

 姉さんが言葉では説明してくれたが、初めて食べるものには興味が尽きない。


「おい!話を聞いてくれ~」


 指揮官は無視される事に寂しさを感じたのか少し涙目だった。

 公衆に晒されたその姿はかなり哀れで滑稽だった。

 無視が続くことに業を煮やしたのか、サザエには寄生虫が宿っていると能書きを垂れて私たちの食欲を削いでいく。

 余りにうるさいのでパイアオジサンに頼んで猿轡をしてもらった。


 そんな時、城の方から来た兵士たちが、またしても私たちを取り囲んだ。

 さっきの様な重装備ではないが剣を向けて私たちを威嚇している。

 それを察してか街の人々が慌ただしく集まってきていた。


「これ食べるまで待って下さい!」


 私は縛り上げた指揮官を盾にして、つぼ焼きを食べ始めた。


 私の舌には醤油の方が合うようだ。焼けた醤油の香ばしさが堪らなく美味しい。

 姉さんは塩で頂いていたので食べ比べてみたが、やはり醤油が格別だった。


「おい!お前ら何をふざけている!」


 兵士たちは縛り上げた指揮官を見てオドオドしていたが、私たちのはしゃいでいる様子がお気に召さなかったようだ。

 強い口調のその言葉には恐れと苛立ちが入り混じっていた。


「じゃあ、お城まで連れていってちょうだい…」


 つぼ焼きを平らげた姉さんは涼しい顔で兵士たちに道案内を要求する。

 兵士たちは一様にきょどっていたが、その言葉に逆らうものは誰一人いなかった。

 兵士たちを引き連れて私たちはキーウエストの城へ向かった。



 キーウエストの城は規模は小さいが沢山の装飾品が飾られて輝いていた。

 贅沢の限りを尽くしたその造りは急に大金を手にしたような成金趣味な佇まいだった。

 城の周りを取り囲む、けばけばしい樹木も落ち着きがなくて品がない。


 奥の城主の間に案内されると、金ぴかの装飾品をジャラジャラと身に纏った、小太りの男が陣取っていた。

 男は私たちの様子を見て驚いたように目を丸くしていた。

 どうやらこいつがキーウエストの城主の様だ。


「お前ら、捕えてきたのではないのか!」


 捕えられたとは言えない私たちの様子に城主は激怒する。

私とパイアオジサンはピューピューと口笛を吹き、姉さんなんかは城主の召使に茶を用意させる始末だ。


「何をやってるんだ馬鹿どもめ!」


 苛立つ城主に姉さんは得意の我儘で翻弄する。

 何度かのやり取りで、いつの間にか城主は姉さんの手玉に取られていた。


「おい、ブタ!ご馳走を用意しなさい!」


「何で私が…」


 城主の呼び名はブタでお決まりの様だ。

 ブタはぶつくさ文句を言いながらも姉さんに従っていた。

 人を手玉に取る事に関しては姉さんの右に出るものはいない。

 いつの間にか城主の間は宴の会場へと変わっていた。


「これは何の騒ぎですかな⁈」


「あっ!貴方は…」


 突如現れた紳士的な男の姿にブタが困惑する。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る