第27話 モーゼの海割れ
「神様にはどんな事があっても手を出してはいけません!」
沼の祠の帰り道、私は姉さんに説教を食らっていた。
いつもより激しい口調は事の重大さを物語っていた。
「私が話を纏めたから済んだけど、大変な事になったかも知れないんだからね!」
「大変な事って?」
「あの人たち見かけはあんなでも私たちをその場で消滅させるくらいの力を持ってるのよ!」
「ごめんなさい…」
いつになく反省の色が深い私の様子に、姉さんは優しく頭を撫でてくれた。
仕方ないなぁと言いたげなその素振りには愛情が込められている。
私はそんな姉さんが大好きだった。
「黒翡翠の首輪を探しに行かないとね!」
「どこにあるかわからないの?」
「目星は付いてるんだけどね…ちょっと厄介なところなのよ」
「どこにでも売ってる様なものじゃないの?」
「珍しいものだから、この世界には数えるほどしかないわ」
「そんな貴重なものなら手放さないんじゃ…」
「問題はそこなのよねぇ…」
姉さんはそう言いながら考え込んでしまった。
地面に数字を書いて何かを計算している姿は、日頃にはお目に掛かれないほど真剣だ。
「どこにあるの?」
「王宮に行ったときに見かけたのよ。でも盗むわけにもいかないでしょ…くれと言っても手放す筈もないし…」
考えに行き詰ったのか姉さんは髪を掻きむしっていた。
そんな姉さんを前に私にはある閃きが生まれていた。
私はあの国では国を救った女神。理由をつけて献上して貰えばいいのだ。
私はその旨を姉さんに話した。
「そうね!それで行きましょう!」
姉さんは目の前が急に切り開かれたかの様にハツラツとしている。
私たちは近くの街で服を揃えて首都エスターバへ向かった。
首都エスターバは相変わらず、人がごった返していた。
しかし、私たちの登場でモーゼの海割の様に奇麗に道が開かれる。
その理由は私が国を救ったという事だけでは無く、3人の格好が関係していた。
私は女神っぽい白のヒラヒラしたドレスに頭にはティアラを付けている。が所々に何故だか紐で括られた山芋をぶら下げていた。
姉さんは精霊を意識してドレスを纏っているつもりだが、派手な衣装はキャバ嬢にしか見えない。しかも山芋付きだった。
パイアオジサンは執事を決め込んでタキシードを着こんでいるが、その色じゃない。
黄色のタキシードはお笑い芸人だ。もちろん山芋をぶら下げている。
度肝を付いた私たちの登場に人々は固まっていた。
城門の門番が連絡を入れたのか王宮からの馬車がこちらへ向かってやってくる。
馬車は私たちを乗せると王宮へと向かった。
王宮の王の間で国王は私たちを出迎えてくれた。
側近たちが周りを囲み私たちに敬意を捧げる。
「今日はどうしたんですかな?仮装パーティみたいな恰好をして…」
握手を求める国王の手を私は思い切り握りしめてやった。
しかし私の非力な力ではびくともしない。
額に汗まで流してるというのに。
「実は…黒翡翠の首飾りが必要になりまして…」
「ほぅ…黒翡翠の首飾りですか…良いですよ。持って行って下さい」
余りにもすんなりとした回答に私は耳を疑っていた。
大切なものではないのだろうか?
「良いんですか…」
「あなた達にには国を救って貰った。このくらいはさせて頂いて当然です」
私は自分が詐欺をしてる様な気分だった。
大した苦労もしてないのに国を救ったと言われてもピンとこない。
それにこんなにあっさり手に入るなんて、わざわざこんな格好をしなくても良かったのではないだろうか。
首からぶら下がった山芋が悲し気に揺れていた。
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