第24話 秘密
私はあれからチャッピー姉さんの顔を見る事が出来なかった。
最初から全ての事情を知っていて何も知らないフリをしていたのだ。
姉さんに裏切られた感じがして虚無感に苛まれていた。
そして気になる事があった。
姉さんが言った「両親と同じ世界に行く事はできない」という言葉にはどんな意味が込められているのだろうか。
聞いてみたいが今はそんな気にはなれなかった。
落ち込む私の前でチャッピー姉さんとスーザン姉ちゃんが言い争いをしている。
パイアオジサンはそんな私を慰めようと変顔を繰り返していた。
腰を抜かしていた爺さんはいつの間にか居なくなっている。
「余計な事をしてくれたわね!」
「隠したっていつかはわかる事でしょ!」
「この娘が成長してから時期を見て話すつもりだったのよ!」
2人の言い争う声がたまに耳に入ってくる。姉さんの何気ない言葉が不意に私の心に届いた。
旅に出る前に姉さんが言っていた「あんたを一人前にしないとね!」あの言葉が記憶の中に甦る。
そして牢獄を抜け出した後に言った「あそこにあのまま置いてけるはずないじゃん!」あの言葉も。
姉さんは私を両親と一緒に現世に送れなかった事を悔やんでいるのだろう。
そして私に対する謝罪の気持ちでいっぱいなのだろう。
この世界で私を一人前にするという使命感が今までの行動の所々に溢れ出ていた。
「姉さん…私は両親の元には戻れないの?」
姉さんは今まで見たことが無いくらい寂し気な顔を浮かべた。
うるんだ瞳はキラキラ輝いて見えた。
「ええ…そうよ…」
姉さんはそう言っただけで詳しい事情は何も話さなかった。
私も問い詰める事はしない。いつか話してくれると信じていたからだ。
「さあ、帰ろう」
その言葉に姉さんはニッコリと微笑んだ。
私の心境の変化を感じ取ったのだろう。
私たちは来た道を引き返していった。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
スーザン姉ちゃんは空気を感じ取る事が出来ないのか、良い感じを台無しにする。
「私はこの娘の秘めた力を確認しなくちゃいけないの!」
姉さんはしょうがないなぁといった感じでスーザン姉ちゃんへ寄っていった。
やはり二人の姿には龍と虎の相対する構図が良く似合う。
「別に確認しなくても良いでしょ⁈この娘の髪をベロベロ舐めるつもり⁈」
「何よ、その言い方!私は潜在能力を計り取っているだけよ!」
私はスーザン姉ちゃんが髪をベロベロ舐めまわす姿を想像して鳥肌を立てていた。
何とも悍ましい光景だが、この場を収める為には犠牲になるしかない。
「チャッピー姉さん!私、やります!!!」
決意した私の姿に姉さんはクスりと笑った。
スーザン姉ちゃんの前で立ち止まり、固く目を閉じた。
「やって下さい!スーザン姉ちゃん!」
スーザン姉ちゃんは私の髪を手に取ると、口に含んでムシャムシャと噛みしめ始めた。
その姿はヤギが葉っぱを食べている時と様子が一緒だ。
想像した悍ましい光景ではなかったが、気持ち悪い事には変わりない。
そしてスーザン姉ちゃんのひと言に一同が固唾をのんで見守る。
「魔力が凄い!…けど…それだけみたい…」
しらけた雰囲気に辺りが包まれる。
私の秘めた力は「魔力が凄い」それだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます