第23話 ヤギの精霊

 スーザンという姉ちゃんはこれでもかというくらいのフェロモンを出しまくっていた。

 下着が見えてしまいそうなくらいのミニスカートを履き、胸元の大きく開いた衣装で谷間を強調させている。

 パイアオジサンと腰を抜かした爺さんは、いやらしい視線を送っていたが相手にされていなかった。


 チャッピー姉さんはギャルっぽいが、そこまでのケバケバしさは無い。

 私は子供ながらに目のやり場に困っていた。


「姉さん…この人だれ?」


「名前はスーザン。ヤギの精霊よ」


 精霊ってそんなにもいるものなんだろうか?

 私が知らないだけでお尻の精霊やらパンツの精霊なんかも居たりするのだろうか?


「なんでアンタがここに居るのよ!」


 仲が良くないのかチャッピー姉さんは啖呵を切った。

 そんな様子にスーザン姉ちゃんは我関せずといった感じでお高く留まっている。


「山の神様に頼まれたのよ。面白い力を秘めた娘がいるから確認してくれって」


 私の事を言っているのだろうか?

 確かに山芋の力は凄いが、チャッピー姉さんの力を借りての話だ。

 チャッピー姉さんが来なければ私は奴隷に過ぎなかった。


「ちっ!あの爺さん気付いていやがった!」


 チャッピー姉さんは何かを悟ったのか怒りにワナワナと震えていた。

 立ち上る怒りのオーラにパイアオジサンと腰を抜かした爺さんが慄いている。


「それでこの娘がそうなの?」


 スーザン姉ちゃんが香水の匂いをプンプンさせて近づいてくる。

 チャッピー姉さんは私との間に割って入った。


「何をするつもり⁈」


「この娘の秘めた力を見てみるのよ」


「余計な事はしないでちょうだい!」


 犬猿の仲というのはまさにこの事を言うのだろうか?

 二人の姿には龍と虎の相対する構図が浮かび上がっている。

 私は固唾をのんで見守っていた。


「貴女、何か隠してるわね…」


 その言葉にチャッピー姉さんは一瞬ギクリとした。

 素知らぬ風を装ってはいるが動揺は隠しきれていない。


「ウ、ウケるぅ~wwwwww」


 久々に聞いたウケる~も妙にぎこちなかった。

 その笑顔も自然ではなく、どこか引きつっている。

 何かを隠している事は明白だった。


「言いなさい!私は山の神様に頼まれているのよ」


 チャッピー姉さんはその言葉に観念したのか深く溜め息を吐いた。

 そして私にチラリと目を向けて、バツが悪そうに視線を逸らす。


「この子の親は異世界召喚者よ…つまり異世界人の娘って訳。しかも只の異世界人じゃないわ。何の力も持たない普通の農民だったのよ」


 私は話を聞いて愕然としていた。

 普通、異世界召喚者ってチート的な能力を持ってこの世界に召喚されるのではないだろうか?

 何の力も持ってなかったって両親はどうなってしまったのだろう?


「その話、聞かせてください!」


 私の気迫に負けたのかチャッピー姉さんはポツリポツリと語り始めた。


 私の両親はエルフィンの城主達によってこの世界に召喚された。が何の力も持たなかった為に追放されてしまった。

 城主達は召喚者の力を利用して国を乗っ取る事を画策していたのだ。


 途方に暮れる2人はこの世界で生き抜く為に、人里離れた地で現世でやっていた農業を始めた。

 最初から夫婦ではなく赤の他人だった2人は力を合わせてるうちに結ばれていく。

 いつしか母の身体に私が宿り、目に見えないパワーが母体から溢れていた。

 召喚で与えられる筈の力は何故か娘の私に受け継がれていた。


 両親はこのままでは娘が、城主達に狙われてしまうと精霊との契約を結ぶ。

 山芋の栽培をやっていた両親は山芋の精霊(チャッピー姉さん)と友好を結んでいた。


 そして私が生まれ、その力を嗅ぎつけた城主達が私を狙い始める。

 最初は何とか逃げ延びていたが私たち家族は追い込まれていった。


 見かねた姉さんが神様の力を借りて両親を現世に帰す事には成功した。

 しかし赤子の私は現世に転移することができず国に捕まってしまう。

 私が捕らわれの身だったのはこのせいだった。


「なぜ黙っていたの?」


「話したからってどうにもでならないでしょ…両親と同じ世界に行く事はできないし…」


 姉さんはそう言いながら遥か彼方を眺めていた。

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